(第017話)コルネリア語の不思議な世界
交渉がまとまった。
ラムダさんはだいぶ力を抑えて、本来の力の十パーセント程度で戦ってくれるらしい。さらに、昨日使った乱舞技のようなチート奥義は出さない。俺が相手じゃ出す意味ないしね。
「それじゃ多良木さん。仕掛けてください」
俺への説明が終わるや否や、リザベルさんはあっけらかんとした口調で言った。
「え? けどラムダさんはまだ構えて……」
「不意打ちでも凶器攻撃でも、何でもバッチコイだそうです」
なるほど。俺ごときが相手なら、普通なら禁じ手とされるような攻撃も気にならないということか。舐めてくれるな。
いや。それをいうなら、10パーセントの時点で既に舐められてるか。
「ここに凶器なんかないでしょ」
そう言って、俺はファイティングポーズをとった。
対してラムダさんは、相変わらず直立不動。普通なら隙だらけなんだろうが、これは……
「多良木さーん?」
待って。リザベルさんには立ってるだけに見えるんだろうけど、隙がないんだよ。
「時間きちゃいますよー?」
退屈なのは分かるけど、まだ五分も経ってないでしょ。
仕方ない。明らかに格上の相手なんだ。まずは攪乱して……
「おお! フットワーク! かっこいい!」
別にかっこつけてやってるわけじゃないですよ。
弱い方(=俺)が強い方(=ラムダさん)の周りを回ってるってだけのことだから。
それでも、ラムダさんは動かない。目だけはたまに動かしてるみたいだが。
しかし、バックプリントの神獣モッチンが目に入るたび、緊張感がダダ下がりする。
何でこれが勇ましさの象徴になるんだろう。不思議な文化だ。
いや。余計なことは考えるな。勝つことだけを考えろ。なんせ相手は、宇宙最強の女戦士なんだ。
自分から仕掛けてこないということは、ラムダさんはカウンターを狙ってる。一発目を当てようと考えるな。カウンターにカウンターを合わせる。勝負は二発目だ。
まずは神獣モッチンが目に入る位置から――おぶうううぅっ!
「多良木さん!」
俺が左ジャブを繰り出そうと考えたのとほぼ同時に、ラムダさんの蹴りが腹に突き刺さった。そのまま吹き飛ばされ、壁に激突。
って、おかしいだろ! 最速の攻撃である左ジャブを、見えない位置から放ったんだぞ! 何で先に攻撃した俺より先に当たるんだよ!
「ぐう……」
不死身じゃなかったら背骨折れてた。
これ……ホントに十パーセント?
「∠∇∝◎◇▽▼□〒≒ΠδεЖЙсэшю@§☆!!」
よろよろと壁にもたれながら立ち上がった俺に、ラムダさんの檄がとんだ……
って、え? めろっちぷんぷん……コルネリア語? 何て言ってるんだ?
「今の感じで、もっと攻めてこいだそうです!」
どうやったらもっと攻めてこいがめろっちぷんぷんになるんだよ?
って、ツッコんでる場合じゃない!
「わ……分かりました! 次いきます!」
さっきは棒立ちに近い状態だった。ならば次は体勢を低くして、ボディを狙う。
まずは顔にフェイントの左ジャブ! 本命は右ボディ!
……ほおおぉっ!
「多良木さん! 今度は天井に!」
はいはい。解説ありがとうねー。
もう少し詳しく説明すると、フェイントが完全に読まれてましてね。
で、ボディを打つ前に昇竜拳みたいなのをくらって、天井に顔から激突したんですよ。
あ、そしてまた出た。めろっちぷんぷん。
もう分かった。何やったって通用しない。
なら……体力が切れるまでやってやるさ! どうせ死にはしないんだし!
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とりあえず、今日の稽古が終わった。
本日の結果発表。
俺がラムダさんに仕掛けた回数、13回。
ラムダさんのカウンターが決まった回数、13回。
壁に激突した回数、9回。
天井に激突した回数、3回。
床に叩きつけられた回数、1回。
意識を失った回数、分からない。
「多良木さん、いいとこ無しでしたねえ」
「言われなくても分かってますよ!」
しかし、いくら何でも強すぎるだろ。ゲームで言えば、最序盤のイベントをクリアした直後に裏ボスが襲ってきた状態。普通こういうのって、もうちょっとステップ踏まないか?
「リザベルさん。そういえば、戦闘力測定装置……」
「ありますよ」
「ラムダさんの戦闘力って、どのくらいなんですか?」
「53万です」
「ごっ……ごじゅうさんまん?」
「あははははは! 冗談ですよ冗談! そんなにあるわけないじゃないですか!」
びっくりした。どこの宇宙の帝王だよ。
「お、驚かさないでくださいよ。で、ほんとの数値はいくつなんですか?」
「16万8530です」
は?
「い、いやいや! 16万でもやばいですよ!」
「8530を忘れてますよー」
しかし、どうしてこの便利アイテムを使わなかったんだ? ゾルマータ星人だとかバグテラスだとかを例に出すより、こっちの方が遥かに分かりやすいだろ。
「それより多良木さん……見ました?」
「え……何をですか?」
「ラムダさんの下着ですよ」
えーっと……うん。見た。というより、目に入った。
ミニスカートであんなに動き回るんだから、否が応でも見える。お尻のところに神獣モッチンがプリントされた、可愛らしいパンツ。
「どうでした?」
「どうって……まあ、相変わらず可愛いなーとしか」
「ふふふ……」
「な、何ですか?」
「巨乳大好き変態童貞。おまけにロリコン」




