(第015話)宇宙最強の女戦士(ガチ)
リザベルさんの声に応じて出てきたのは、褐色の肌をした小柄な可愛らしい少女。
って、小柄? 可愛らしい? 少女?
いや。全部合ってる。間違いなく小柄だし、間違いなく可愛いし、間違いなく少女だ。当たり前だが、『千五百年生きた宇宙最強の女戦士』には到底見えない。
「ラムダさん! 宇宙最強の戦士である貴女様に、このような巨乳大好き変態童貞が住む部屋にご足労頂くとは、このリザベル、恐悦至極の極みです!」
何だ? 宇宙人という話だったが、日本語が通じるのか?
っていうか、何だよそのふざけた紹介は。
「あっ! いっけな~い! 言葉が通じないんだ~てへっ☆」
なるほど。俺に聞かせるために、わざと言ったわけね。腹立つな。
それから、リザベルさんは現地の言葉……たぶんコルネリア語か何かを使って、ラムダとの交渉を始めた。
これまでの経緯や、ここに呼んだ理由なんかを説明しているのだろう。
しかし、ホントにあれが宇宙最強なのか? 背丈は矢吹さんよりも少し小さいくらいだし、年齢はリザベルさんより下にしか見えない。十メートルの大男と戦ったなんて、どう考えても誇張入ってるだろ。
いや。伝説なんてたいていそんなもんだよな。
「変態童貞……じゃなくてタラオさん。喜んでください。ラムダさんが稽古をつけてくれるそうです」
「けど、言葉が通じないんじゃ、稽古も何もないような気がするんですが。あと、タラオじゃなくて多良木です」
「大丈夫ですよ。どうせタラオさんじゃ手も足も出ないんですから」
「なっ……! 何ですって?」
言ってくれたな。
俺だって男。それも、地球最強の看板を背負った男だ。俺を侮るということは、地球を侮るということ。俺が負けるということは、地球が負けるということ。
こんな可愛らしい女の子に、好き勝手させるわけにはいかない!
地球を……舐めるなよ!
「いいでしょう。稽古……つけてもらおうじゃないですか」
首をコキコキと鳴らしながらラムダの前に立ち、構えた。
ラムダもゆっくりと構える。
さてお嬢ちゃん。化けの皮を剝がさせれる覚悟はできてますか?
……あれ?
どうして? どうして涙が出てくるんだ?
目の前にいるのは、確かに可愛らしい少女だ。けど……何か出してる。
これって……少年漫画によく出てくる、闘気とかいうやつ?
真実だ。無理。これは無理。
体がガクガクと震える。排尿できる体だったら絶対失禁してる。
イキってホントすいませんでしたマジ勘弁助けてください神様仏様。
「タラオさーん。かかってきていいそうですよー」
ふざけんな立ってるだけで精一杯なんだよ馬鹿野郎これマジやばいから次元が違うじゃなくて違い過ぎるゾウリムシと象くらいの差があるだろ。
そ、そうだ。とりあえず挨拶。俺とラムダはともに戦士。ならば言葉は通じなくとも、伝わるものがあるはず。
「よろしくお願――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「多良木さん! 大丈夫ですか! 多良木さん!」
「え……」
俺……生きてる? 何で?
あ。そっか。不死身なんだ。
「意識が……」
「あ、あの……何があったんですか?」
「すみません! 私が……全力でやってくださいってお願いしちゃったせいで……まさかあんなことになるなんて!」
「いや。その言い方、怖いじゃないですか」
「知らなかったんです! まさかあれほどだったとは!」
「ちょっと! ホント怖いです! やめてください!」
「普通にダメージを受ける体だったら、多良木さんは今頃……」
「だから怖いって! 説明してください!」
「えっと、多良木さんが挨拶をしようとした瞬間、ラムダさんが乱舞技みたいなのを放って……」
乱舞技? ああ。格ゲーでいう奥義みたいなやつね。
「それも、相手が死ぬまで中断できない技だったみたいで――」
「ということは」
「私が、多良木さんは死なない体だって説明してなかったから――」
「延々と」
「五分以上に渡って――」
「一方的に」
「攻撃を受け続けてました」
「ぎゃあああああっ!」
つまり、一撃で意識を失うような攻撃を、無防備の状態で数千発もらったということか。例えるなら、挽き肉に加工するためのミキサーに放り込まれたような感じだったんだろう。
自分の身に起こったことを想像して、鳥肌が立った。宇宙最強やばすぎる。
「で、ラムダさんは?」
「とりあえず帰ってもらいました。それと、多良木さんに謝っておいてって」
「謝る? どうしてですか?」
「多良木さんの挨拶、コルネリアの戦士にとっては失礼な行動だったみたいです。ちょっとカチンときて、やり過ぎちゃったって言ってました」
そうだったのか。
しかし、まさか頭を下げるという行為が失礼になるとは……
異文化コミュニケーションって難しい。
「けど、地球星人の間では相手に敬意を示す行動だって説明したら、分かってくれましたよ」
「それは……お手数かけました」
「いえ……私が悪かったんですから」
気付けば、俺の頭はリザベルさんの膝の上に乗せられていた。
なるほど。これが噂に聞く膝枕というやつか。この世に生を受けて二十八年、初めて体験した。
「俺が、リザベルさんの話を中断させたせいですよ」
「違います! 私が……私が子供過ぎたんです!」
いかん。リザベルさんが泣き始めた。
「じゃあ、こうしません? 悪かったのはお互い《《半々》》」
「半々……ですか?」
「はい。仲直りするのに一番いい方法です」
俺は手を伸ばし、リザベルさんの頬を伝う涙を拭った。
童貞のくせに、何て思い切った行動。数千回は死んでる筈のダメージを受けたことが、俺を大胆にさせているのかもしれない。




