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(第010話)慎ましくも可憐に主張する何か

「ショー矢吹やぶきさん。どんな人でしょうか?」


リザベルさんが即断即決そくだんそっけつで召喚する理由……何となく分かってきた。

この人、楽しんでるだけなんだ。


「亡くなったときの年齢で出てくるんですよね?」

「そうですよ!」


「やばい人だったら返品してくださいよ」

「分かってますって!」


聞いてないな。


「あっ! 来ました!」




出てきた。

ホント、何の前触まえぶれもなく登場するんだよな。


「な……何じゃ。お主らは」


現れたのは、耳の上にしか頭髪が残っていない、思ったよりも小柄な老人。

目つきは鋭いが、悪い人のようには見えない。


当然のことだが、矢吹やぶきさんは現状が把握できず、戸惑っているようだ。

なら、俺から話しかけないと。


「初めまして。俺は多良木伸彦たらきのぶひこといいます。で、こっちの女性はリザベルさん。不躾ぶしつけで申し訳ありませんが、あなたは元日本バンタム級チャンピオン、矢吹正平やぶきしょうへいさんで間違いないですか?」

「あ。ああ。いかにも、ワシは矢吹やぶきじゃが……」

「ショー矢吹やぶき! 立つんだショー!」


よし。人見知りが激しい俺にしては、なかなかいい感じのつかみだ。

妙なテンションになってるリザベルさんは放っておこう。


「単刀直入に申し上げます。矢吹やぶきさん。俺にボクシングを教えてくれませんか?」


矢吹やぶきさんの目が点になっている。そりゃそうだ。説明不足すぎる。

けど、機嫌が悪いとか、怒ってるとか、そういう感じでもなさそうだ。

これは……いけるか?


「そりゃあ、教えてやれんこともないが……」


来た!


「その前に、理由を聞かせてくれんかの?」

「り、理由……ですか?」

「お前さんは何のために強くなりたい? 強くなって、何がしたい?」


うぐ……しょうもない喧嘩に使うようなやからには教えない、ということだろうか。

困った。俺にとって皇帝カイザー不倶戴天ふぐたいてんの敵だが、まだ十七歳の子供でもある。

大の大人がムキになって戦うような相手ではないと、第三者は考えるだろう。


かといって、長期的な目標を話しても、理解されるとは考えにくい。

けど、これからお世話になるかもしれない人に嘘はつきたくない。

ならば――




「俺には……大切に思っている人がいます」

「ほう」


「俺の大切なその人に、暴言ぼうげんを吐いた男がいるんです。俺はそいつが――」

「分かった」


え? こんなにあっさり?

矢吹やぶきさんは俺の肩に手を置いて、静かに語り始めた。


「目を見れば分かるよ。その大切な人とやら……お前さんの恋人じゃろう?」

「ち、違いますよ! 私と多良木たらきさんはそんな関係じゃありませんから!」


うっ。リザベルさんの表情……怒ってるのか喜んでるのか分からない。

ていうか、何で貴女あなたが答えるの?


「何じゃ。そこのお嬢さんか」

「え、ええ。まあ、恋人というわけではないんですが、大切な人だっていうのは嘘じゃないです」


「お前さんがどうしても許せないというその男……そこのお嬢さんに暴言ぼうげんを吐いたということじゃが、何と言ったのだ?」

「えっと……それは、その……」


うう。リザベルさんからの視線を感じる。

分かってくれ。俺も言いたくはないんだ。けど、言わないわけにもいかないだろう。


俺は目を閉じ、深呼吸した。

よし。言うぞ。




「言いづらいんですが、胸が小さいと言いました」


言い終わると、急に静かになった。

とりあえず、リザベルさんとは目を合わせないようにしておこう。


頼む。どうか()()()()()()って言わないでくれ……!


「ふむ。確かに、それは許しておくわけにはいかんな」

「でしょ! でしょ! さっすがショー矢吹やぶき!」


よかった。

リザベルさんも喜んでるし、これですべて丸く収まって――


「小さいチチも大きいチチも、すべてのチチとうといものなのだ」


は? 矢吹やぶきさん?

腕を組んで……何か語り出したぞ。


「世の男どもはこぞって大きいチチたたえおるが、ワシに言わせれば青二才の考えよ。小さいチチには小さいチチの魅力があることを分かっとらん。つつましくも可憐かれんに主張するつぼみ。そう。これぞまさに大和撫子やまとなでしこの心意気を……」




あ。消えた。


「リザベルさん! 何で返しちゃうんですか?」

「やばい人だから返品したんですよ!」


「い、いや! 昔の人は()()()()()が普通ですって! 俺の爺さんも――」

「どこが! もう六十七歳なのに! 何なのアレ! スケベジジイ! 死ね!」


駄目だ。完全に頭に血が上ってる。


「抑えてください! 俺には矢吹やぶきさんしかいないんです!」

「うっ……」


矢吹やぶきさんからボクシングを教わって、絶対に皇帝カイザーを倒します! だから少しの間、我慢してください!」

「ま、まあ、そこまで言うなら……」


リザベルさんの言う通り、矢吹やぶきさんは間違いなくスケベジジイ……もとい、好色老人だ。二回の離婚歴とやらも、たぶん女性関係で一悶着ひともんちゃくあったのだろう。




「けど、あのジジイを呼び出したら、私は帰りますからね!」

「わ、分かりました」


「こうしましょう。私が二十四時間おきに多良木たらきさんを起こして、前日のトレーニングの報告を聞きます」

「頭突きはやめてくださいね」


「それから、スケベジジイと交代。多良木たらきさんはスケベジジイからスケベボクシングのスケベテクニックを習う」


何か……とげのある言い方だな。


「スケベジジイは二時間後に強制帰還させて、それから私がスケベトレーニングの成果を確認」

「わ……分かりました」


てか、スケベ言い過ぎだろ。

スケベボクシングって何だよ。そんなの聞いたこともないぞ。


「それでは、今日はこれで帰ります。タイマー設定しましたから、スケベジジイが五分後に出現して、その二時間後に消えます。しっかり練習してくださいね」

「はい。頑張ります」


タイマー設定……そんなものがあるのか。便利だな。

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