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 ソロモンの指輪


あぁ~~~ 身体がだるい・・・・‥‥ これが噂に聞く倦怠感ってやつ・・? 

熱もないし疲れてるわけでもないのになんか生気を吸い取られたみたいに身体がズンと重くて朝からなんにもする気が起きないってどうしてだろ?

年取って疲れが溜まるようになるとそうなるって聞いたことはあるけど私まだピッチピチのJK、それもピカピカの一年生ファースト、FJKのはずなんだけど・・・・



まぁ 今日はNO部活DAY だし明日からテスト期間に突入だからしばらく部活も休みだしそこは有難かったかも。で今、エアコンが程よく効いた図書室で一応テスト勉強中・・・ま、名目上だけだけどね。

今日は朱里もいないし・・・・・朱里かぁ~ 多分、今頃は松坂君おうじから告白されてんのかな。



今朝、靴箱開けた時に怪訝そうな顔で朱里が引っ張り出した白い封筒。 

オッ それラブレターじゃん。 やったね、久しぶり! ね、ね、だれだれ? 誰からなの? 

エッ! 松坂君! 同じクラスのあの 松坂 徹君? わぉっ 王子じゃん!


ん? どうしたの、朱里? あんまり嬉しそうじゃないけど。エッ、ああいったさわやか系の出来過ぎ君タイプは好みじゃないって・・・ 何? じゃあ佐藤君てんしみたいな甘い顔立ちのショタッぽいのがいいわけ?

ハァ~? 思わず抱きしめて守ってあげたくなる可愛い美少年タイプなんてのは守備範囲外だって? あんたねえ そんなこと言ってたらいつか刺されるよ、二人のファンに後ろから。


フ-ン・・じゃ行かないんだ、手紙の場所には。 ヘッ! 話も聞かずに断るのは失礼だから行って話を聞いたうえで断るって。あ、そう・・・あんたそういうとこ律儀だもんね、昔から。まぁ 好きにしたらいいわ。

でどこだっけ? あ、西校舎の資料準備室ね。定番の告白スポットじゃん。


・・・・・ねぇ、朱里。ついでにちょっと訊くけどさ。じゃ貴女の好きなタイプってどんな人なの? ふむふむ、背は高いほうがいいのね。で太っているのは嫌と。顔はイケメンでなくともいいけど不細工や平凡すぎるのはNGってか・・・おい、結構うるさいな。

で多少、地味で武骨で偏屈でもいいからチャラチャラしてない人ねぇ・・

まとめるとなんか古武士っぽい雰囲気を纏った細マッチョな人ってな感じだね。


あれ? ・・・・・・・・あのさぁ、これって・・真神君にぴったりじゃない?


エッ! なに? そのびっくりしたような顔。ヘッ、全然違うって。そうかなぁ?

びっくりなんてしてないって? いやかなり動揺してるよ、あんた。

あんな不愛想な変人に興味なんかないって? じゃなんでそんなに息が荒いのよ? 顔だって赤くなってるし。


ア、ア~~~ ひょっとしてぇ・ ・そういうこと!? エッ 違うの?

な、何よ。バカって。 朱里、ちょっとぉ! どこ行くのよ?



てな感じで怒って居なくなってしまって朝から口をきいてないままだし。

でも朱里の理想条件を集約したらそのまんま真神君になるじゃん。普通、自分で気が付くでしょ。あの娘わかんなかったのかしら? もぉー バカはどっちよ。


ふむ、朱里の推しは真神 巨狼(まかみごろう)かぁ・・・あれ、なんでだろ? 何か少しモヤッとするんだけど・・・・・・・ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥



≫――――――――――――――――――≪



ここで気を落ち着けて【 パンドラの匣 】に迷い込んだ日のことを思い返してみた。

お店を出る時にあの上品で綺麗きれい店長のぞみさんからそのドアを開けて廊下をまっすぐ進めば大丈夫だからって言われたわ。言われた通りドアを開けたら真っ暗な廊下の向こうに白くて明るい出口が見えたからそこまで歩いてそのまま外に出た。そしたらそこは駅前通りに面したビルとビルの間にできた狭い隙間通路の真ん中だった。


振り返ってみたけどあの真っ暗な廊下もドアも何もなかった。隙間通路の反対側の出口がうすぼんやりと見えるだけだった。駅裏のつぶれたスナックの裏口からはいったはずなのにどうして駅前に! もう何がなんだかわからないまま電車に乗って家に帰った。次の日、崩れ気味な体調を押して学校に行った。案の定、朱里が心配して駆け寄ってきた。



「遅いじゃない、真鈴! 一体何をしてたのよ!? 連絡しても返事もないし!」



私は素直に謝って寝過ごしただけだと答えた。昨日の疲れで起きるのがいつもより遅くなったのは本当だから嘘を言ってるわけじゃないしね。



「真神君が昨日、駅裏の三丁目で真鈴を見かけたって言うから。あんな危ないところに一人で何しに行ったのよ?」



イッ・・真神君って朱里と会話ができたんだぁ! 彼が彼女に昨日のことを話していただなんて意外だったわ。 こりゃ誤魔化しきれないか? 



「昨日駅前をぶらぶらしてたら真神君の姿が見えたからふざけ半分でこっそり後を付けて行ったの。そしたら駅裏に行っちゃった。」


「だったら戻って来ればよかったでしょ?」


「そうなんだけど駅裏の歓楽街ってどんなところかなって前から興味あったんだ。ほら、OLのお姉さんたちがよく話してるじゃん。だからそのままついて行っちゃった・・テヘッ! でもその後、真神君に撒かれ・・見失っちゃったけど・・・

真神君、私が後を付いて行ってた事、知ってたんだ?」



な、何よ。その容疑者を見るような眼は・・ 大体、あんたがあんないかがわしそうな本屋にあたしを置き去りにしたのがいけないのよ。おかげであんな不気味で危なそうな赤髪の不良に追いかけられて大変な目にあったんだから!



「それじゃ真神君を見失った後は何事もなく無事に帰って来れたって事なのね?」


「ウーン、無事だったけど何もなかったわけじゃないわ。」


「え・・何があったの?」


「よその高校のヤバそうな連中に追いかけられて捕まりそうになったの。」


「エッ、どうやって逃げたのよ?」



そこであたしはよその店に逃げ込んでかくまってもらったことを話した。そしたら朱里が私をギュッとハグしながら



「偶然親切な人がやってるお店があって良かったわ。変なお店だったら追っかけて来てた連中よりヤバかったかもよ。 で、なんていう名前のお店なの?」



と訊いてきたので正直に答えた。



「お店の名前は【 パンドラの匣 】って言うの。」



そう言った途端、真神君の様子が変わった。極度の驚きで彼の全身が硬直したのが見て取れたわ。強烈な変化だった。目元を覆うまばらな前髪に隠された蒼灰色ブルーグレイの瞳が大きく見開かれたのがその薄暗いベール越しにでも分かったほどだったもの。そしてその後には目に映るものすべてを凍てつかせるような視圧に満ちた眼差しが私に向けられていた。


な、何よ、 私何かまずいこと言った? ギリギリと歯を噛みしめながら身内に膨れ上がった何かを口の中に押し込めるような感じで彼が近付いてくる。

い、イヤ、ちょっと怖いんだけど・・・・・・

異変を察した朱里が彼を遮るように私の前に立った。そんな彼女が目に入らぬかのような素振りで真神君は私に向かってボソリと呟いた。



「白兎尾さん。後で話がしたいんだけどいいかな?」



エッ 何・・・ひょっとして告られるの? 私。 なわけないよね。状況からして。

ま、いいわ。私もあなたに話があったから。



「うん、別に構わないけど。」



ふと目をやると朱里が拗ねたような顔でこっちを睨んでた。そん時はなんで睨むのよって思ったけどあれはそういうことだったんだね。ごめんね、朱里。

その後、誰もいない教室で真神君と二人きりで話をした。彼、【パンドラの匣】についてやたら訊いてきたのよね。どうやって行ったのか?とか、どんなお店だったのか?とか、どこにあるのか?とか。そんなのこっちだってよく覚えてないわよ。


私が覚えているのは【 パンドラの匣 】の浦島 希海(てんちょう)さんから渡されたソロモンの指輪とやらの使い方。それをあなたで試させてもらうわ。ま、簡単に言えばこの指輪を使って真神君と私の間に主従の契約関係を築くってことなんだけど。

契約の方法は意外と簡単。このソロモンの指輪には小さな笛が内蔵されている。私が指輪を嵌めた状態で相手にその笛を吹いてもらう。ただそれだけ。


主人マスターとなるのは指輪の持ち主であるこの私。従者ミニオンとなるのは指輪の笛を吹いた相手。

従者になった者は主のために働くことを心地よく感じそれを自分の意志だと思うようになるんだって。おまけに従者はそれを不合理だと認識できないらしいわ。仕える回数が増えるにしたがってその忠誠心は強まり逆に疎遠になれば忠誠心は薄まって契約は消滅するみたい。


言ってみれば中世のお姫様とその専属騎士のような関係かしら。

私が危機や困難に陥ったときは指輪の力で真神君を呼んで助けてもらう。その見返りとして彼はその行為に満足感と誇りを感じるようになる。


うーーーん、これって真神君になんかメリットあるのかしら? 無いよね。 なんか私が洗脳の魔道具を使って人を操る魔女にしか思えないんだけど・・・・

【 パンドラの匣 】の店長のぞみさんが言うには真神君には悪いけどそれしか方法がないって。それほどあの赤髪の男は災厄みたいなヤバイ奴らしいわ。


でも指に嵌めた指輪を男子に吹いて貰うのってちょっと微妙というか・・ただのクラスメート同士じゃ普通ありえない絵柄よねえ。そこをどう説明すれば違和感を感じさせずにその状態へ持っていくことが出来るかしら?

はぁー どうしよう? 困ったなぁ。


なんてその時は悩んでいたんだけど実際には何の問題もなかった。あれこれ考えるのが面倒くさくなってストレートに頼んだらあっさりOKが貰えた。

【 パンドラの匣 】で指輪の形をしたアンティークの笛を買った、その笛を指に嵌めた状態で身近な異性に吹いてもらうと指輪に魔除けの力が宿るとか・・・というもっともらしい嘘の理由を付けはしたけれど。


立ったまま斜め下に伸ばした私の左手を真神君は片膝ついて恭しく両手で包み込むように握るとそのまま指輪に口をつけて息を吹き込んだ。まるでプロポーズの姿勢みたいだと思うとやたら頬が熱くなっちゃった。何故か笛の音は聞こえなかったけど。

ところが彼には聞こえていたみたい。

” 細くて悲しい音色だな ” なんて言ってたもの。これってもしかして只の犬笛違うんかい! って一人ツッコミ入れたのが一昨日の話。


で現在、指輪は制服ブラウスの胸ポケットに入れてある。指に嵌めてもいいんだけどかなり大きめのいかめしい外観の指輪だからさ、無駄に目立つのよ。風紀係の先生に見つかったりするとうるさいのでそうすることにしたの。さてもうちょっと涼んだら帰ることにしようかな?

なんて考えてたら、あれ、あれれれ・・・・図書室に入ってきたのは王子こと松坂君とその愉快な仲間達数人。いや、愉快かどうかはよく知らないけどさ。


あれぇ・・松坂君、何でここにいるの? 西棟の資料準備室に行ったんじゃ?

どうして俺が・・って? いや、 どうしてって言われても・・・

朝、小比鹿 朱里の靴箱に呼び出しのレター入れたの君だよね? 


・・・違う? 身に覚えがない・・? じゃ、誰が? ‥‥‥‥‥‥ま・さ・か!!


ぞっとするような嫌な予感が身裡みうちを走り抜けた。すぐに図書室を飛び出して外に出ると西校舎に向かって走った。

落ち着け! 落ち着け、私! あの赤髪の男と朱里には面識がない。だから松坂君を騙ったのは誰か別の人だ。あいつじゃない。もしあいつだったら私を呼び出す筈。

手紙が入っていたのは朱里の靴箱で私のじゃなかっ・・ちょっと待って! 前に私と朱里のシューズロッカー(くつばこ)を間違えてラブレターを入れた人がいたわ。

もし今度もそうだったら・・・・・・



『朱里が・・朱里が危ない!』







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