表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

自分、デザイン分かるので【番外】

契約した会社の社長にも、言い分はあった。

自分や会社を良く見せたい、ただそれだけの話だったのだ。

「ああ、何でこんなデザインが出来上がるんだ!」


 どんな職業でもデザイン出来ます、と言った営業が持ってきたサイトのデザインが、信じられないほどダサかったことに社長は憤った。


 その営業と出会ったのは懇意にしている会社の紹介だった。その会社は、ホームページからも問い合わせがあると言っていた。それならうちもと気軽に話を聞いたところ、想像していたより安かったのでこれ幸いと契約をしたのは、わずか一か月前のことだった。


「うちの会社のイメージが全く伝わっていないじゃないか!」


 社長は、いかにも高そうな机を思い切り叩いた。


 まず、自社の商品が一切使われていない。期待していたのはショッピングサイトのように商品をひとつひとつ並べて紹介するようなサイトだったが、商品紹介にはただどんな品を作っているかが“さらり”と書かれているだけだった。

 ()()()()()の事が書かれているだけの、数ページのウェブサイト。話を聞いて素晴らしいデザインを想像していただけに、より陳腐ちんぷに見えた。


 社長は写真を一枚も渡していないし撮影も依頼していない。更に商品そのものを手渡してもいなかった。しかも話をしたのは口頭のみで原稿も渡していないので、思ったように作られないのは当たり前なのだが、そんなことはお構いなしだ。


「こっちは一か月も待ったんだぞ? こんなカタログひとつ作るのだって一週間もかからないじゃないか!」


 社長は、自らイラストレーターを駆使くしして作った自慢のカタログを、いとおしそうに眺めながら思う。


 素人の自分だってこれだけの物を作れるのに、プロと名乗る集団がなぜ自分の想いをみ取れないのか、と。

 金はすでに払っている。だから、思い通りのサイトになるまで何度でもやり直させても文句はないだろう。文句を言ってきたら、切るだけだ――と。

 

 社長は勘違いをしていた。

 ワンマンでやってきた会社は、いつも自分の鶴の一声で社員が動いてくれる環境だった。常に金を払う方がえらいのだから、いつも通り制作会社も動くに違いないと考えていたし、実際使っている業者はみんな社長の言う通りに動く会社ばかりだった。

 制作会社の営業はチャラチャラした見た目で、とにかくのらくらと適当な事を言って話した内容を理解しないし、出来上がってきたデザインも“デザインが分かる自分”には雑に見えたので、何度か修正させた。

 強く叱責しっせきすると、途中から明らかにデザインが良くなった。社長は思い通りに進んだので調子に乗り「あと三回くらいは変更したい」と言ってしまった。

 ただ、次に行く異業種交流の場で「業者にやらせた。デザインが分かる自分が指示した」と自慢したかっただけだったのだ。

 しかし、業者は手のひらを返したように「本来は何度も変更できるプランにないから出来ない」と言ってきた。あと一歩で思い通りのところまで来ていたので、余計に腹が立ち、全額返却しろ!と文句を言った。

 社長の言い分は「変更が行われるまでの三カ月まともなデザインのサイトを作っていなかったせいで、我が社はホームページ経由の問い合わせが一件もなく、作った期間の利用料が負債になっている」だった。


 もめたくない制作会社はこちらの言い分を飲んで契約を解除し、無事に支払った分は返金もされた。新しく探してきた「もっと安く作ってくれるデザイン会社」に頼んでサイトを作ったが、こちらのデザイン会社からも自社の取り扱う商品が何か分からない物が出来上がってきた。

 これなら前の会社の方が良いものを出してきていたと思ったが、今度のデザイン会社からは「契約書に書いてあるように、契約破棄の場合は契約期間の全額と更に数か月分の違約金を支払う事になると言われ、仕方なく契約が切れるまでそのまま使う事にした。契約の最短年月は三年だった。


 契約が切れるまであと一年。

 お問い合わせは、今のところ一年に一件しかない。





 ウェブサイトを作るのには、膨大な情報量が必要である。しかも他社が「初めまして一か月」の会社の意図をみ取ってパッと作ることなど到底出来るものではない。


 出来るとしたら、長年付き合いのある会社か、自分の考えを知っている本人だけである。


 ウェブサイトの見た目にこだわる人は多いが、実際はウェブサイトの見た目は検索に対してそう大きな要素にならない。どちらかと言えば、検索されるような作り方をすることの方が大事なのだ。

 最低限三カ月から半年は何度も何度も検証し、微調整が必要なのだが……またそれは語る場があれば別の場で話そう。



 自分だけが得するような考え方をしていれば、そのうち自分に返ってくるのだ、何事も。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

あまり現代劇は書かないのですが、ネタは豊富にあるのでまたブラック企業あるあるのようなものを書けたらと思います。

良いなと思われましたら、感想や評価などいただけると今後の創作の励みになりますので、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
デザイナーさんのお仕事はあまり詳しくないのですが、素材も何もなしでWEBサイトのデザインを依頼する企業があるのかとビックリしました。 営業が頼りにならない、上司がパワハラ気味などツッコミどころが随所に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ