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自分、デザイン分かるので【前編】

 自分はデザイナーだ。所謂、新聞に折り込まれている広告や名刺などをデザインするのが仕事だが、今はウェブサイトのデザインをすることが多くなっている。これも時代の流れだ。

 ウェブサイトのデザインを頼んでくる客には様々あるが、大まかにふたつのタイプに分けられる。


 まずひとつ。何も分からないので全部お任せする客。

 もうひとつ。自分はこれを作りたいんだ!という欲求が強い客。


 前者はこだわりが無いため、出来上がったものに対して感動してくれる率八割、残りの二割は「何か違う」と言う抽象的な指摘が多い。後者は、こだわりが強すぎて開口一番「違う」という客が多いが、ハマると一生ついて行くくらいのノリになる場合もある。

 この話は、程度が高くないデザイン会社のデザイナーが、こだわりが強いだけの客から出された難題に葛藤する話である。



 知らんけど。

 制作物が多くなる大型連休の前に、その仕事は転がり込んできた。まだ入ったばかりの制作会社で、ウェブデザインと言うものがようやく分かってきたばかりの自分にとっては、まさに青天の霹靂である。


「このサイト、デザイン頼める?」


 上司である田村がにこやかに自分に向かって言う時は、ほとんど大抵百パーセントと言い切れるくらいロクな仕事ではない。自分の勘は当たる。なにせ、悪い予感()()は【的中率の高い占い師】くらい当たると評判の“魚座”だから。

 たった数か月だ。働いた感想は【なんだこのクソな会社は】である。大手であることに魅力を感じて入ったはずなのに、すでに入社して二週間で辞めたいと思った。実際、何度も転職を経験しているからこそ言えるが「会社は入ってみないと分からない場所」なのだ。


 話を戻そう。


 どうやら、部長の田村がヘマ……いや、失敗……いや、上手くオブラートに包めないのではっきり言うが【面倒くさい客】を担当したところ、どうやら相手がそのデザインを気に入らなかったらしく『早く作り直せ、こっちは金を払っているんだ』と言われたようだ。

 サイトは既に公開されている。そこにたどり着くまでにも何度かやり直しがあったようだが、既に料金が発生しているので「まずは公開しましょう」と説得し、客側も渋々公開を承諾したらしい。

 部下である自分から見ても公開されているサイトの田村のデザインはかなり微妙である。


 上司のケツ拭きなんて部下の仕事ではない。自分は紙面中心のデザイナーとしての経験は豊富でも、ウェブ業界には初めて参入したばかりで転職したての新入社員だ。

 今まで十年以上デザイン業界で働いて来ているというのに、面接で前職を加味すると言われた給料は、実際に月の手取りで六万近く下がっている。ほぼ新人の給料と変わらないのだから、新入社員のふりをして「デザインなんてわからないです」と言う顔をして何が悪いのか。

 それなのに、なぜ自分より給料を貰っているはずの上司の仕事を引き継がねばならないのだろうか。


 ――しかも、面倒くさい客。


 日頃から「入ったばかりでしょ?」「デザインが紙っぽ~い」と半分笑いながら揶揄(やゆ)している相手に、自らの仕事のケツを拭かせようと言うのだから……この男はなかなかの神経をしている。


「部長、どのように修正をすればよろしいでしょうか?」


 諦めのため息を吐かずにゴクリと飲み込んで、自分は出来る限りにこやかに“お客さま”の言い分を聞こうとした。しかし、これが的を射ない。「とりあえずこのあたりとこのあたりを修正すれば良いと思うんだよね」と、田村は己の主観で話し始める。

 ここまで来ると、きちんとヒアリングしているのかすら怪しい。

 田村は、何を聞いても暖簾に腕押しでまともに理解できるように指示が出来ない。この数か月で学んだのはそれだけでなく、自分が何か意見を言ば叱責されてしまうということだ。だから、素直に言われたままに数時間をかけて修正を施し、提出をした。

このあと中編・後編のあとに番外編があります。

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