09. 邂逅
風を更に強く!追いつかれる前に合流しなくては!
「逃すか」
鷹村が風に飛ぶ風見を追う。鷹村の最高速度であれば、追いつくことは容易いだろう。鷹村の爪が風見の腹を裂こうと接近したところで
「バーニング☆メテオ!!!!」
無数の火の玉が鷹村に向かって飛んでくる。攻撃を諦め、飛翔することで回避した。
「誰かキャッチしてくれーー!」
地面に落ちる寸前でガシャンッと鎖にキャッチされた。
「間に合ったみたいですね」
「死ぬかと思ったよ。ありがとう綾華ちゃん」
「お前らが畜生道とやらか。俺が不在の間に第4班を襲って、勝った気でいるらしいじゃないか」
既に両腕には炎が宿っている。
「我々もそこまで慢心しておらんよ。ここで全員死んでもらう。それで初めて勝利と言えるだろう」
この人数を見ても、余裕あふれる態度。違和感しかない。何をする気なんだ。
遠くからジャラジャラと、鎖を引きずってくる音が聞こえる。綾華さんのものではない。鎖を地面に引き摺っているような音が聞こえてくる。
音が聞こえてくるだけなのに、僕は恐怖で怯えている。何か異様な雰囲気を漂わせているのが、音だけでも分かる。
「碧くん。私の後ろにいなさい。今までの敵とは違う雰囲気がするわ」
怯える僕を綾華さんは守るように前にせり出た。少し震えが収まったのを感じる。
鎖の音と共に現れたのは、子どもであった。鎖で繋いだ子どもを、大の大人が2人で連れている。あの子どもが威圧感の正体だというのか。
「あら、子どもじゃない。これがあなた達の秘密兵器?」
「余裕でいられるのも今のうちだ。大噛の時のようにはいかんぞ。おい、亀田!鳥野目!ガキを使え!」
「分かりました!」
そういうと悠長に子供につけた手錠を外しはじめる。
「させるかよ!銃風!」
人を貫くほどの風が吹いていく。しかし、その攻撃はあっけなく防がれた。彼らを守るように結界のようなものが張られている。
「させませんよ」
どうやらあれが、亀田とやらの能力みたいだ。どれほどの防御力があるか分からないが、かなり厄介な能力だ。
手錠を外したあとは、足枷を外して、ついに子どもが解き放たれた。
「さぁあの時のように力に身を任せろ。これが終われば、家族と会わせてやるぞ」
「…うん」
「…暴走か」
綾華さんがボソッと呟いた。
「なんですかそれ」
「幼い子どもに強大な力が宿ると、それを制御しきれないことがあるの。それを多分奴らは無理矢理引き起こそうとしてる…」
綾華さんの話を、僕はほとんど聞けなかった。その時綾華さんの表情に、僕の目は釘付けになっていた。子どもに向けられた、悲しい目線。悲哀と憂慮の表情。それを見た時、頭に激しい痛みが走り、視界が失せていく…
…
碧、碧、聞こえるか?
父さん…?
一つ、話したいことがあってな。大事な話だ
あ…!こんな事をしているわけじゃ、綾華さんが危ない
そうだ。あの女が大切だろ。お前には、大切なものを失って欲しくない
…どういうこと?
碧、お前が敵のガキと戦え
…え?
言いたいことはそれだけだ。お前があのガキを倒すんだ
…
「はっ」
目が覚めた。気絶していたのに、現実の時間はほとんど経っていない。子どもの体が徐々に変形していく。きれいな肌に、徐々に鱗が生え、尾と角が生えていく。
僕が勝てるのか?あんなのに。
もう一度綾華さんの顔を見ると、いつもの表情に戻っていた。既に敵を見る目つきへと変化している。その顔を見た時、自然と決心は固まった。
「僕があの子どもと戦います!」
「ちょっと碧くん!勝手に動かないで」
「綾華さんは他の奴らを!!こっちだ!クソガキィ!!!」
「ガァアアアアアアアアアアアア!!!!」
子どもは竜のような姿へと変貌していた。叫びながらこちらに突っ込んでくる。牛山の時と同じだ。これで、一対一に持ち込める…
「うわああああああああああああああああああああああ」
予定通りタックルを食らって運ばれたが、痛みは牛山の時以上だった。その原因は牙。僕の腹部に噛みつき、肉を食い破っている!
「またかよっ!クソ!」
牛山の時のように、銃弾を背中に撃ち込んだ。しかし、あの時のようにはいかない。弾が鱗にはじかれてしまう。
いくつか、ビルの壁を突き抜けて進んだ後、ようやく子どもは止まり、僕をぶん投げた。
「はぁ…はぁ…痛いな。これは」
少年の体はいまだ変化し続けている。竜と人間の間のような見た目だったのが、どんどん竜へと変わっていく。困ったなこれは。僕ではとても…太刀打ちできない。
「うがああああああああああああああああああ!!!!!!」
竜に変形した口から、何かが光るのが見えた。あぁまずいなこれは
口から火があふれ出す。そして…周囲にそれが吐き出された。
今度こそ死ぬだろうか。僕の生死に拘わらず、この戦いは僕たちの勝ちだろう。僕が危険になれば母がくる。そうなればこの子ども命はない。
身体が少しずつ焼けていくのを感じる。皮膚から焼けていき、それが段々と身体の内側まで入っていくのが分かる。この熱さはあの時の、箱の中にいた時に感じたのと同じだ。あれって箱の外側から焔村さんに焼かれていたのか。
あぁ…まだ、死にたくないな
遠くから音波のような、美しい声が響いてくるのが聞こえた