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07. 援軍

「おい、起きろ牛山」


「ボス…」


「だれにやられた」


「そこの…ガキに…」


 牛山の隣で倒れているガキ。出血多量で死んでいるだろう。肌に生気がない。


「いますぐ応援を呼ぶ。あまり動くなよ。お前も出血で死ぬぞ」


「ボス…」


「なんだ?牛山」


「逃げ…ろ…」


「!」


 背後に感じる悪寒。畜生道のボス、鷹村はすぐさま飛び上がった。高速で空を駆ける翼、肉を抉り取る猛禽類の爪が彼の能力である。


「キィアアアアアアアアアアアアア」


 飛来した人魚姫が先程まで鷹村がいた場所に突っ込む。出血多量で死にかける息子の元に現れた新たな刺客が、人魚姫の逆鱗に触れたのだ。


 避けることができるはずもない牛山は、人魚姫に轢き潰され、生き絶えた。


「クソッ」

 人魚姫がいる以上、牛山の仇を討つことは不可能。鷹村はそのままどこかへと飛び立った。


 脅威が去ると、人魚姫は碧をそっと握り、抱きしめるように胸に押し当てた。


 傷ついた碧を慰めるように、悲しむように抱きしめる。再び人魚姫の声が辺りにこだました。



 …



「碧くん!」

 綾華が駆けつけた時には既に人魚姫は去っていた。泳ぐように飛んでいく後ろ姿が遠くの空にまだ見える。


「…綾華さん?」


「大丈夫?怪我はない?」


「いやーそれが、腹をやられてしまって…あれ⁉」


 急いで服を捲りあげて確認しても傷はひとつもない。服だけが血に染まって赤黒くなっている。


「なんで…さっきまでは怪我してたんですけど…」


「まぁ怪我が無いのならそれで良いわ。まだ動けるかしら?ちょっと面倒なことになってね」


「どうしたんですか?」


「あのバカのせいでね…」



 少し前


「特別対策課第4班の黒条です。波瀬ヶ崎さんにつないでください」


「おおどうした綾華くん」


「我々の把握していない異能力者組織と交戦しました。道渡さんも彼らに殺されています。一度退いて体制を立て直します」


「それはダメだ」


「…は?」


「この作戦の失敗は許されない。まだ君は動けるんだろ?」


「しかし、碧くんをまだこの作戦に参加させるのは危険です。彼を帰還させて私だけで向かいます」


「それもダメだ。この作戦は伊佐波碧の有用性を示すものでもあるんだよ。彼の今後もこの作戦にかかっている。どうかうまく運用してくれ。では切るぞ」


「ちょ、ちょっと!!」


「大丈夫。既にそっちは応援を送った。私に全て任せなさい」



 …



「…ということがあってね」


「それは大変ですね…でも、僕はまだ戦えます」


「まぁもうそうするしかないから…そう言ってくれるのは嬉しいわ」


「それで、応援っていうのは?」


「場所は伝えたからそろそろくるはずよ」


 その時遠くの方から聞き覚えのある足音が響いた。


「アヤカチャ〜〜〜〜〜〜ン!」


「この声は…」


「そう!この俺!焔村煌良の復活だ!!!」


 人魚姫との交戦による怪我で、療養中のはずの男、焔村煌良が何故か現れた。


「いやー驚いたかい?綾華ちゃん。ところでそこのガキは…」


 僕の目と鼻の先まで顔を近づけ、まじまじと見つめてくる。


「アー!貴様、箱から出てきたガキじゃないか!何故こんなところに」


「それすら聞いてないんですか?この子、4班に入ることになったんですよ」


「ハァ!?あの伊佐波裕の息子だぞ?正気か!」


「波瀬ヶ崎さんが、意識が戻ったら話しておくって言ってたんですけど…何も聞いてないんですね」


「勿論。さっき起きたばかりだからね。こんな派手な作戦に俺がいなかったら興醒めじゃないか」


「ちょっとお兄ちゃん!!」


 遠くから今度は女性が走ってくる。応援は一体何人いるんだ。


「あ!綾華さん、お久しぶりです。第4班の応援で参りました。特別対策課第7班の焔村(あかり)です」


「燈ちゃん!久しぶりねぇ。この2人が応援なの?」


「いえ、出動することを伝えたら、兄が勝手についてきてしまって…」


「なるほど…そういうことね」


「当然だろ?可愛い妹を1人で死地に送る兄がいるか?なんにせよ、俺が来たからにはもう安心だ」


 少々暑苦しいけど、実際頼もしい応援だ。僕が殆ど戦力にならない以上、綾華さん1人で敵地に向かうのは危険すぎる。


「それでは出発しよう!他の班に遅れをとるわけにはいかん!」



 …



 鷹村は隠れ家に戻ると、何も言わず自室にこもった。大噛と牛山、有力な能力者2人をこうも簡単に失ったことが、彼の精神を蝕んでいた。こちらから仕掛けてしまった以上、最早敗北は許されない。勝利しか畜生道が生き残る道はないのだ。


 ある日現れた化け物によって平穏な生活を奪われた人間は多数いる。鷹村もその一人だった。家族を失い、一人残された若き日の鷹村に、政府は手を差し伸べなかった。今もこうして生きているのは、ある日発現したこの能力のおかげ。


 能力者を集めて、政府に我々を見捨てた贖罪をさせる。そのために異能力者を集めて組織を作った以上、手段は選んでいられない。


 再び心に闘志を宿し、部屋を出る。


「鳥野目、いるか」


「はいボス。大丈夫でしょうか」


「俺は平気だ…。ガキを連れてこい。この戦いを制すにはそれしかない」


「…分かりました。ボス。」



「亀田。ガキの様子はどうだ」


「眠ってますよ。檻にいるのも慣れたみたいで」


「そうか。おいガキ、起きろ」


 ぼろ布にくるまっていた少年はゆっくりと目を覚ました。目をこすり鳥野目に気づくと怯えるように牢屋の隅に張り付いた。


「お前の力が必要になった。俺たちときてくれるか」


 隅で震えていた少年は、ふり絞るように返事をする。


「一緒に行ったら、お母さんに会える…?」


 いつもは厳しい顔つきの鳥野目だが、少年の質問にだけは、にっこりと満面の笑みを浮かべて答える。まだ10歳にもいかないであろう少年を利用する非道さが、テロリストには必要なのだ。


「あぁ…これが終われば、家族に会わせてやるさ」



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