06. 銃弾
能力者と戦う時に心がけることは何か、分かるか?
分からないよ…そんな経験あるわけないし
まず大事なのは敵の能力が何なのかを見定めることだ。能力者同士の戦闘は、ほとんどここで勝敗が決まる。敵を理解できなければ待っているのは死だけだ
でもそんなの…分からないよ…
よく敵を見ろ。考えればすぐに分かるはずだ。だってお前は俺の子なんだからな
…分かったよ。父さん
あんまり怖がるんじゃないぞ。咲藍も心配している
咲藍って?
…お前の母の名だ
…
「はっ」
また意識を…失っていたのか…。あいつは今どこに?
あたりを見回しても牛山の姿はどこにもない。僕を倒した後、綾華さんの方に向かったのか?
綾華さんが危ない!
逸れてしまった方に走り出すが全身が痛んでたまらない。でも今動かなくては。あの人が心配なだけではない。いま僕は綾華さんの能力次第でいつでも殺せる状態だ。
彼女が死んだらどうなるのか。僕は解放されるのか、それとも僕も…
牛山を見つけるしかない!そして僕が、あいつを。
以外にも牛山はすぐに見つかった。途中のベンチに座り何か食べている。
「何食ってんだよ」
僕の姿を見て牛山は唖然としている。生きているのが信じられない様子だが、僕も同意見だ。
二撃くらって生きているのは奇跡だ。次は耐えられるかどうか分からない。
「お前まだ生きていやがったのか。どんだけ丈夫なんだ、お前」
やつの能力は、きっとあの突進に関係しているはず。でなければ人がコンクリの壁をぶち破れるわけがない。
「まぁいい。次は完全に殺す!形が無くなるまですり潰してやる!」
こちらを睨みつけ、牛のようにタイミングを測っている。突進が来る!
「うごくなっ!」
神異庁から支給された拳銃を構えた。これで止まってくれれば
「それがどうしたっ!」
おいおいまじか!拳銃の射線をお構いなしに直進してくる!
死ぬ!
本能的に右に向かって転がるように回避する
牛山は直進するのみだったので、なんとか避けることができた。
「はっはっはっ避けるよなぁ。まっすぐ来るって分かってるんだからなぁ。だがお前、転んだらダメだろ?次の突進が避けれねぇじゃねぇか」
「ッ!」
牛山は振り返り、再びこっちに向かって突進してくる!今から立ち上がってたら避けられない。先に殺すしかない。
牛山に向かって狙いをすまし、撃つ!
バァンと銃声が響く。
人間のタックルと銃弾、勝ったのは牛山であった
銃弾さえ通さない男の突進が、自分の目の前まで来ている。
全身が恐怖に支配されていたが何故か頭だけは冴えていた。
「うああああああああああああああああ」
衝突の瞬間、碧は牛山に向かって飛びかかった
鈍い音と同時に全身に衝撃が走る。さらに腹部が燃えるように熱い。牛山のツノが腹に刺さっていた。
「やっと血を出したなぁ!このまま死ねぇ!」
だが、ここまでは計算通りだった。ツノが刺さったことで牛山の頭部に固定されている。
一つの仮説、コンクリを破壊し、銃弾にすら耐える牛山の突進。しかしそれは全て奴の"正面"とぶつかっている。
もしそれがやつの背面なら?
「死ぬのはお前だ!」
銃を牛山の背中に向かって撃ちまくる。鮮血が辺りに飛び散った。
獣のような声で牛山が叫ぶ。ツノに刺さった僕はロデオのように振り回された挙句、何かがちぎれて地面に叩きつけられた。
「いてぇ!いてぇぞチクショー」
角が刺さっていたところから、血がとめどなく流れている。さっきまでは熱かったのが、今はなんとなく寒い気がする。
「この野郎!殺してやる!殺してやるぅ!」
腹部に何度も蹴りが飛んでくるがもうよける力がない。それに前ほど痛みも感じない。
だんだんと意識が遠のいていくのを感じる。音が小さく、視界がぼやけていく。
あぁ今度こそ死ぬのかな…まだやるべきことが…
周囲に大量の血しぶきが飛び散り、僕の顔にもべったりとついた。死ぬときってこんなに血が飛び散るのか…
ん?そんなわけないぞ…腹部の血が顔にまでなんて
目を凝らすと、その血は牛山のものであった。体を突き抜けた弾丸によって腹部から出血し、銃弾が内臓を傷つけていたのか、碧の顔にかかったのは彼の吐血であった。
「あぁ…まだ死にたく…ねぇ」
ドサッと大きな音をたてて碧のすぐ横に牛山は倒れ伏した。
勝った…のか…。
初めての勝利。高揚感と薄れゆく意識に身を預けると、微笑む母の姿がぼんやりと見えた気がした。
…
「ハァ…ハァ…」
「あらもう限界かしら」
この女…強い!
綾華の素肌から伸びた黒い鎖が、周囲に展開されている。少しでも隙を見せた相手をすぐさま捕獲し、絞め殺す。
八大家の一つ、黒条家に代々受け継がれている能力「黒鎖縊刑術」
これを受け継いだ黒条家一の才女、黒条綾華。紛れもない四班のエースである。
無数の鎖が狼口の男、大噛を襲う。能力由来のスピードでなんとか躱しているが、力の差は歴然であった。
「攻めてこないならこちらからいくわ」
両腕から伸びた鎖が鞭のようにしなり周囲を薙ぎ払う。敵を絡み取るだけでなく、打撃としてもコンクリートを砕く威力がある鎖、当たればひとたまりもない。
大噛には考えがあった。彼の反射神経があれば、今展開されている八本の鎖をよけることは不可能ではない。一瞬、ほんの一瞬の隙さえあればいい。そしてその隙を作り出す秘策が我々にはある。
遠くのビルの屋上に二人の男がいた。一人は空を見上げ、一人は狙撃銃を構えている。
「どうだ鳥野目。ここからでも狙えそうか?」
「余裕ですよ。この距離ならまず外しません」
「そうか。では俺は牛山の様子を見に行く。こっちは頼んだぞ」
「了解です。ボス」
ただ狙撃するといっても最高のタイミングでなければならない。
標的を仕留める絶好のタイミングを…
綾華の鎖が大噛を仕留めるために伸びてゆく。彼女を守っていた鎖が攻撃に転じ、一時的に
守りが薄くなる。ここだ。
綾華の頭に向かって銃弾が放たれる。距離は離れているが、銃弾が到達するまではほんの一瞬である。よけられるはずがない。
しかし、依然として綾華は生きていた。頭から血を流すことも、よけるそぶりもない。
「おいおい、なんでだよ!」
照準を再び綾華に向けると、目が合っていた。銃弾は服の中を通った鎖によって、頭の
すぐ近くで止められていた。遠くのビルの上にいる鳥野目を、彼女は常に意識の外から外していなかった。
「くると思っていたわ」
「噓だろ!?俺と戦いながらだぞ!対応できるわけがない!」
「これで万策尽きたかしら。大分時間かかっちゃったし、そろそろ終わらせるわ」
「!」
銃弾を止めた足とは逆の足から伸びた十本目の鎖。八本の鎖による攻撃で気をそらしている間に、大噛の背後まで伸びてきていた。
「ガハッ!!!」
すぐさま鎖は大噛の首に巻き付き、そして
ブチッ
ねじり切った。
「はぁ…意外とすばしっこくて時間かけちゃったわ。早く碧くんのところに向かわないと」