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05. 畜生道

 墨田区掃討作戦。

 神異庁特別対策課だけでなく、情報管理局、公共維持局、異能力監察局、そして異能力対策局全体が関与する大規模作戦。


 現在墨田区は犯罪の温床。しかし今までの暮らしを続けている

 現在墨田区は異能力テロリストや犯罪者の温床。しかし今までの暮らしを続けている残存市民がまだ多くいる。そのため、神異庁も手出しは出来なかった。


 しかし、波瀬ヶ崎という男は違う!会議での反対を押し切り、民衆も危険にさらしかねない作戦を実行できたのは、間違いなくこの男の政治的手腕によるものである。



 …



「墨田区は人魚姫の安全が確認できるまで通行禁止でーす」

 墨田区を通る道路は、昔ほど使われてはいないが、交通量は今も多い。しかし、情報管理局交通安全課によって、すべての通行がせき止められていた。

 国土交通省からも事前に発表されており、ニュースを通して人々にも知らせているが、全員がニュースを見るわけではない。

 最終的には物理的に通行を禁止するのが一番手っ取り早いのである。


「頼む。通してくれ!実家の母を迎えに行くところなんだ」


「できません。規則ですので。危険が及ぶため市民の立ち入りは一切禁止されております」


「そんな…それじゃあ母は、母の安全はどうなるんですか」


「墨田区全域に外出禁止令が出ております。緊急事態に備えて警察が各地に呼びかけ、見回りを行っているので、問題はないと思われます」


 そんな言葉で納得する訳もなく、水戸街道は大混乱に陥っていた。


「やれやれ。なぜこんな事をしなければならんのだ」


「逆茂木課長。あんたも手伝ってくださいよ。サボってないで働いてください」


 八大家の一つ、逆茂木家の次男、逆茂木昇二。日本人では珍しい巨体を生かそうともしないけだるげな男に、墨田区の交通規制は託されていた。


「逆茂木さんおはようございます。朝から大変そうですね」


「綾華ちゃん!いやー困ったもんだよこんな朝っぱらから。ったくこんな面倒くさいことなんで俺が」


「交通安全課の課長になったんだからしょうがないですよ。ほらほら仕事してください!」


「へいへい」

 気怠そうに民衆の方へと向かっていく。あの巨体と威圧感なら、いるだけで効果がありそうだ。


「じゃあ碧くん。私たちも向かおうか」


「はい」


 第四班は僕と黒条さんの二人しかいない。メンバーだった焔村さんはまだ入院中。残りの二人は作戦指示に従わず、先に現地に行っているらしい。


 曇り空の下を二人で歩いて行く。車を使うと居場所が簡単に悟られてしまうため、わざわざここから歩いていく。着くころには疲れ切ってしまいそうで不安だ。



「碧くん」


「なんですか。黒条さん」


「今回の作戦には私のほかにも黒条家の人間がきているわ。だから私のことは綾華さんって読んでくれるかな」


「えっ」

 こんなことでドキッとしてしまう自分が情けない。


「分かりました…綾華さん…」


 ふふっと笑みをこぼして、綾華さんは再び前を向いて歩き出した。



 …



「こちら逆茂木、交通規制は順調に進んでおります」


「よし、メディアの方はどうだ」


「情報管理局の橋田です。情報規制は既に完了しております。いつでも問題ありません」


「異能力者監察局より、異能力者組織「向島連合会」「リバーサイダーズ」「荒川組」いずれも異能力者同士の衝突を確認。今回の争いで小規模な組織はあらかた壊滅しているようです」


「よし、予定通りだ。それでは作戦に取り掛かろう」


 会議室には作戦に参加する各局のメンバーが集まっている。その中央に立ち、波瀬ヶ崎は改めて話し始めた。


「これより、墨田区掃討作戦を開始します!今回の作戦の指揮を取る波瀬ヶ崎です。今回の作戦は疲弊した犯罪者組織を我々、特別対策課で一網打尽にし、墨田区を再び政府の手に取り戻すためのものであります。今回の作戦のためご協力いただいた全ての方々に感謝いたします」


 情報管理局局長、刺墨桜仙がゆっくりとうなずく。波瀬ヶ崎の唯一の後ろ盾である桜仙の信頼を失えば、彼は失墜を免れないだろう。今回の作戦に失敗は許されない。


「それでは作戦を開始する。川俣!二班から四班、配置についたか?」


「それが…二班、三班とは連絡が取れているんですが、四班がいまだ音信不通でして…」


「またあいつらか…まぁいい。四班は秘密兵器だ。使わずに終わるなら、それが一番だからな」



 …



「止まって。碧くん」


「えっ」

 先程とは一転変わって、綾華さんの顔はいつになく真剣だった。


「何かいるわ」


 目線の先はビルの屋上。人影をこちらをじっと見つめている。かなり遠くのビルだが、なぜかその気配がはっきりと感じられた。


「待ち伏せに気付くとは、さっきの奴とは違うようだな」


 いつの間にかビルの屋上だけでなく、道の先にも人が現れた。口にバンダナを巻き、手にはナイフを持っている。


「“さっきの”とはどういうことかしら」


「こいつのことだよ」

 目の前に現れた男がそういって取り出したのは、人間の生首。


「こいつはお前の仲間だろう。神異庁特別対策課第四班」


「道渡さん…」


 四班のメンバーとは一度もあったことはなかったが、綾華さんの反応を見る限り、あの生首がメンバーの一員だったのだろう。



 一瞬驚いたような反応をした綾華だったが、すぐに目線を敵に向け直した。


「それであなたは何者なの?私たちが掃討する組織のリストには載ってない顔だけど」


「我々は『畜生道』。知らないのも無理はない。貴様らの監視に引っかかるほど間抜けではない。今日姿を現したのは、我々の存在を世に知らしめるためだ。神異庁を倒し、日本を支配することになる我々畜生道をな!」


 瞬間、ビルを割り、大柄な男が一直線に突っ込んでくる。直線上にいるのは…僕!


「うわあああああああああああああああああ」


「碧くん!」


「貴様の相手はこの俺だよ」

 そういうと前の男はバンダナを剝ぎとり、ナイフを構えた。露出した口は、オオカミのように巨大なものだった。


 仲が良い訳ではなかったものの、同じ班の人間だった道渡の死。指示にはなかった組織の存在。そしてなぜか敵に筒抜けで、待ち伏せまでされている作戦。


 様々な要因が重なり、黒条綾華のストレスは頂点に達していた。

「はぁ…碧くんが心配だし、とっとと殺すわね。あなた」



 …



「はぁ…はぁ…あぁぁ」

 人間にぶつかられた痛みじゃない!きっとトラックに轢かれたらこんな感じだろう。ぶつかられたまま遠くまで運ばれてしまった。綾華さんのところからどれくらい離れてしまったんだ。


「俺の突進に耐えるとは、お前なかなかやるなぁ。はっはっはっ」


 大柄な男、よく見ると頭には角が生えている。体が硬いのも何かの能力か?


「俺の名前は牛山!畜生道の幹部をやっている!」


 情報をペラペラと喋ってくれる。だけど今知りたいのはそんなことじゃない!

 今こいつに、殺されずに逃げる方法だ!


 綾華さんがいた方に向かって一目散に逃げる。綾華さんと合流できれば、まだ可能性がある。


「逃げ出すとは情けない!情けないぞぉ貴様ぁ!」


 早く!早く逃げなきゃ!


 まだ、死にたくない!


「フンッ!」


 最後に聞いたのは、荒い鼻息。それと同時に再び衝撃が走った。背骨が折れるような衝撃、背骨だけじゃない、身体中から嫌な音が鳴った。


 当然二度も耐えられる痛みではなかった。いつものように僕は意識を手放す。


 あぁ痛い…怖い…



 …



 碧?俺の声が聞こえるか?碧。


 痛い…痛いよ…


 大丈夫だ。痛くはないはずだ。お前は強い男だ。俺の息子だからな


 父…さん…


 …


誤字脱字があれば教えてください

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