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九、察し?

 突如私の部屋を尋ねて来たファイスドルフ侯爵令嬢、べルティーナ。

 遠巻きでも美しいのに、間近だと網膜焼けるんじゃないかと思うぐらい、キラキラ輝いていらっしゃる。

 そして美しき侯爵令嬢は、魂からして崇高な方でいらっしゃったのか、私の顔を見て驚いた顔をした後に、お母さんに変身された。


「まあ、まあ、大変!!大丈夫?顔を冷やしましたの?変な風に癖が付いちゃうと、瞼の重なりがおかしくなったりしますのよ」


「ええ!瞼が変わるの?」


「あら、まあ、ご存じなかった?女の子がお顔を大事にするのは基本でしょうに」


 お母さん、やっぱりお母さんだ。


 どうぞも無いのに彼女は戸口の私を部屋に押して私の部屋に入ると、自分こそこの部屋の主という風にメイドを呼ぶベルの紐を引く。

 すぐにメイドが駆け付ける。


 今日のメイドは昨日の人では無く、私達よりも年上の二十代くらいの若い人だ。

 清潔感がありはきはき動く人で、寮生に人気のメイドであり、寮生間で彼女の争奪戦が行われている。

 というか、ゲーム上では彼女から敬意を得る事も必須ポイントだったはず。

 ということで、モブであるだけでなく寮生カースト下位の私の部屋に、メイドのリリーさんがやってくる事は無い。


 そんなリリーさんを一発で呼び寄せられるなんて、さすがべルティーナ様と言うべきか。


「なんでございましょう?」


「氷水の入ったタライを持ってきてちょうだいな。蒸しタオルも。それから――」


 なんと、べルティーナ様は私の顔を冷やす手当てをして下さる気らしい。

 美女は意外とおせっかいなのか?


「あの、ファイスドルフ様?」


「べルティーナで結構よ。そのうちに親戚になってしまうのだから、今のうちに私達は仲良くしていくべきですわ」


「親戚?私の兄も従兄も適齢で気も良い青年ですが、ちょっと子供っぽいのか、女の人とのお付き合いどころか社交はぜんぜんだと母も叔母も嘆いてます。そんな彼らがべルティーナ様にアプローチを?それでお受けになられた?どうしましょう。世界の破滅が起きてしまいますわ!!」


 ゲーム世界の崩壊という!!


「まあ、おほほ。あのやんちゃがあなたに惹かれるはずですわ」


 やんちゃ?

 誰?


「ファイスドルフもヒルトブルクハウゼンも、母方の実家が同じクレーフェ侯爵家だってことはご存じ?私の母とヴェルナーの母は姉妹ですの」


 考えもしなかった。

 私はヴェルナーはヴェルナーとしか認識していなかった、かも。

 情けない。

 私ったらヴェルナーに出会ってから彼しか見ていないじゃ無いの。


「あら、驚きまして?黙っていてごめんなさいね。あの格好つけているだけの彼とイトコって事実から、私は時々離れたくなってしまうのよ」


 べルティーナは意外と毒舌で人でなしな物言いをしてみせた。

 やっぱり従兄妹だなあって感じです。


「あ、でも私が先走ってしまっただけならごめんなさいね。あれと離れたいのが本心でしたら協力します。と、いいますか、あれと人生一緒は少々きついと思いますのよ。一人っ子で甘やかされているから、半年上の私に対しても偉そうで。早生まれの年下のくせに!!」


 すいません、従兄妹ではなく従姉弟でいらっしゃいましたか。

 そして、西洋の世界観の癖にこういう所が日本製ゲームなんだなあ、と、この世界の入学進学時期が四月であることに今さらに変と気が付いた。


 いいえそこじゃない。

 べルティーナは二年生なのに、一年生のユーフォニアのライバルになりえるのか?という疑問だ。


 ゲームではライバルと成績を競うものなのだから、ライバルだったら同じ学年で同じような授業を取っているという設定が必要ではないかしら?


「あれが鬱陶しいのだったら相談に乗りますわよ?私の言う事なんか聞かない生意気な小僧ですけれど、イエルクの言う事ならば聞きますから」


 第二王子とべルティーナが恋仲であるならば、イエルクを狙うユーフォニアにはべルティーナはライバル以外の何者でもない。


「それか!!」

「きゃあ!!」


「あ、申し訳ございません。急に湧いた疑問の答えが、今ぴったり嵌ったような気がしましたもので」


「疑問の答え、あ!!あれと私は従姉弟なだけで、あれこそ私を女性として好きとか一切ないのだから、そういった誤解をされたわけじゃないわよね」


「い、いえ。そういう事じゃなくて。申しわけありません。ユーフォニアのライバルとべルティーナ様のお名前を聞いて、どうして上級生と下級生でと不思議に思っていたことを急に思い出しまして」


 ちぃ。


 舌打ち?

 私は聞きなれない音が聞こえたと、麗しのべルティーナを見つめ直す。

 全校女生徒の目標であり憧れの人である彼女が、舌打ちなどそんな下品な振る舞いなんかするはずはない、はずなのに、苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃる?


「申し訳ありません。侮辱するような事を申しまして!!」


「いえ、いいのよ。苦労しましたことを思い出しましたのよ。あの唐変木が膝を折って私に求婚して謝罪して来たのだから水に流すべきなのでしょうが、やっぱり、思い出すたびにイライラしちゃって駄目ね」


「え?」


「あら。こっちはご存じなかった?あのおしゃべりがペラペラ喋っていたからご存じだったのでしょ?ユーフォニアにイエルクが誘惑されてしまった、という内緒のお話」


 私は大きく首を横に振った。

 振るしかない。

 ゲーム設定を語っていただけとは、ゲーム世界の住人に言えないでしょう。

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