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未来をかけてのご挨拶①

ブックマークありがとうございます。

嬉しさに二人のその後を感謝として捧げます。

 転生した私は伯爵令嬢だった。

 転生前は一般庶民でしかない私。

 それでも物心がついて今の私の記憶と意識になるまでに、私は伯爵令嬢としての教育を受けて来ている。

 だからたぶん、格式のある場においての今の私は、気後れしないで令嬢として振舞えるはずだと思っていた。


「そんな頃が私にもありましたってね」


 誰にも聞こえないぐらいの小声で呟いた。

 今現在の私は自分がちゃんと立っているのも不思議なぐらい、足がガクガクで、呼吸だってまともにできない有様だ。


 伯爵令嬢の矜持はどうしたって?


 そんなもの全く無意味だったわよ!!


 私はヴェルナーの婚約者になるにあたり、ヴェルナーが一国の王子様である、という事実にちゃんと向き合うべきだったのだ。

 また、おじいちゃんおばあちゃん世代が、贈り物は大きい方が良い、という考え方であるように、前世よりも昔な時代設定の世界では、大きければ大きいほど良い物となると思い付くべきであったのだ。


 日本の一般住宅が何軒立つんだろう。

 そんな大広間な場所に、私はヴェルナーと並んで立っている。


 私達の一段高い場所には王様の椅子があって、そこにヴェルナーのお父様とお母様が並んで座り、私達に道を作るようにして、ヒルトブルクハウゼン公国の偉いさん達がずらっと立っていらっしゃる。

 ヴェルナーのお父様はイエルクを恰幅良くして少々老けさせた外見をしていらっしゃり、そして、お母様は、ヴェルナーがここまで美男子である理由として存在なさっていた。


 蜂蜜色の輝けるブロンドに、春を知らせる新緑色に輝く瞳。


 私は彼女の麗しさにただただ溜息を吐いて鑑賞したい気持だが、そんな気持ちになったのは、私に逃避行動を促すこの周囲の現状だからでもあろう。


 絵画の「ナポレオンの戴冠式」の荘厳さを思い浮かべて欲しい。

 私はその絵の跪いた女性な立ち位置だ。

 跪くの?そのタイミングはいつ?私はどうすればいいの?

 ああ!これがゲームだったら、選択肢を選んでお終いなのに!!


 でもちょっと待って。

 選択ミスしたらそこでゲームオーバーよ?

 それならゲームじゃない方が……、私は再び周囲の圧を身に感じ、せんぜん無理と、さっさと心の中で白旗をあげた。


 ああ、ゲームオーバーに今すぐになりたい。

 帰りたい。


「我が息子、ヒルトブルクハウゼン国王子、ヴェルナーよ。壮健そうで何よりだ」


 ヒルトブルクハウゼン国王様が自分の息子に臣下にかけるような労いを口にするや、ヴェルナーこそ拳を作った左手を胸に当て、自分の両親に家臣のようにして身を低くする礼をした。


 これだけで私は悟った。

 伯爵家わたしんちの教え、全く無駄。


 婚約者の堂々とした振る舞いに安心どころかかえってびくびくになった私は、婚約者を見守るしかないが、私の知らない所でしっかり王子人生を歩んでいた人は、王に捧げる礼を凛とした姿のまま解いた。


 あああ、私の方がぐしゃぐしゃに溶けてしまいそう。


 汽車を降りてすぐに身支度を整えさせられたが、私の謁見用のドレス姿など一瞬で霞んでしまう、ヴェルナーの盛装姿であるのよ。

 正装なんだけどね、ヴェルナーの姿が煌びやかすぎて、ビジュアルバンドの舞台衣装にも見えてしまうぐらいの華やかな夢の王子姿なのよ。


 そんな彼が荘厳な世界で凛として立っている。


 ここで私が追い払われる事になっても、目に焼き付けた記憶だけで一生生きていけそうなぐらいに、目の前のヴェルナーったら素敵すぎる。


 ヴェルナーは表情を柔らかいものに変えた。

 荘厳だった周囲から、ほうっ、という妙に安っぽい溜息が一斉に起きた。


 多分、周囲のみんなは私が抱いているのと同じ、推しアイドルの笑顔に黄色い悲鳴を上げるようにしてヴェルナーに溜息を吐いてしまったからだと思う。

 殆ど偉い男性で女官など数えるほどしかいないのに、一堂に会した全員から溜息を引き出すなんて、ヴェルナーったら本気で恐るべきしだわ。


 ユーフォニアがイエルクやアロイスを取り込んでマクシミリアンに辿り着く、そんな目的を忘れてヴェルナー一筋になってしまったのも頷ける。

 学園では単なるツンデレ不良キャラを演じていた彼だが、王子達の従兄弟であり公国の跡継ぎなプリンスならば、育ちからくる一般人とは違うオーラだってあるものなのだ。

 そこに彼自身のカリスマが存在する。

 キングオブキングスと言うが、彼こそプリンスオブプリンスィズ。


 ヴェルナーは私の妄想を読んだかのようにして、私に軽くウィンクした。

 黄色い悲鳴が出そう。


「父上、母上、我が妻となる女性を紹介します。アイゼンシュタイン王国貴族であられる、ミルツ伯爵家令嬢、アダリーシア殿でございます」

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