設定話ついでのその後①魔女裁判の仕掛け
早朝の呼び出しを訝しく思いながらユリウス・シュバイツァーは生徒会室に入ったが、そこに集まっている面々を見回した途端に今すぐ回れ右をしたくなった。
呼び出された理由が昨夜の女子寮の事件だと察してはいた。
そこで女子が一人もいない事に彼は納得したが、男子も生徒会長のイエルクとアロイス、そしてマルクしかいないのだ。
それも葬式のような顔をして、彼らは生徒会の円卓に座らせられている。
学園内にいてはいけない部外者によって。
ユリウスが逃げたくなるのも当たり前だろう。
しかし、その部外者本人は目敏く、ユリウスの行動をいち早く制した。
「はーい、全員揃いましたね。これからミッション説明を行います。僕の心証を悪くした子は親御さんの今後の運勢が悪くなるかもと心するように」
「治安を守る立場の人が、なに脅迫めいた事を子供にしているんですか?」
銀色に輝くグレージュの髪を持つ男は、ユリウスに対して鼻で笑ってみせた。
ユリウスは癪に触りながらも口を閉ざす。
なぜならばその銀髪の男は、社交界どころか裏社会でも銀狐と呼ばれて嫌われている、アンドレアス・ミンツなのである。
そしてユリウスが七つも年上のアンドレアスと懇意であるのは、ユリウスの実家において呪いとも言える連続死が続いており、その真相究明に手を貸して貰ったことがあるからだ。
つまりユリウスはアンドレアスに恩義がある。
そしてアンドレアスはその貸しを覚えているぞ、という意地悪そのものの笑顔をユリウスに向けた。
「うーん。ユリウス君は若いくせに諦めが早いな」
「あなたを良く知っているだけです。妹さんに同情しますよ」
「え、僕は妹には優しいよ。だってあの子は我が家のお姫様だもの。ぜんぜん女の子が生まれたことない我が一族なのにね、あの子は初めて生まれた可愛い女の子なんだよ。きっと学園でもモテモテすぎて困っているんだろうな」
「あの、あなたの存在で、彼女は可哀想なぐらいに遠巻きにされてますよ?」
「だと?権威がどうした、爵位がどうしたと、そんなの気にしない男気のあるやつはこの学園にいないのか?」
「俺は常々そう思っております!!」
剣豪マルクは突然アンドレアスに同調したが、ユリウスは心の中で友人を馬鹿めと罵っていた。
ユリウスの方がアンドレアスには詳しい。
「マルク君。そういうこと言う人に限って権威主義だからね、簡単に同調しないで胸にしまっておこう。でないと言葉通りに大人になれないことになるよ」
「ならば君こそもう少し弁えて貰おうか。ミンツ殿」
ユリウスは尊敬する先輩もまだ青いな、と思った。
ユリウスこそアンドレアスに色々と反発したし、アンドレアスを懐柔しようと色々と試行錯誤した過去があるのだ。
「素晴らしき発言です、殿下。下々を虫けらのように言い放つ傲慢さ。僕は常に魔法録音機を胸ポケットに入れてあります。今回偶然に保存させて頂いた殿下の素晴らしさを、殿下のここぞという時に公表できるかもとワクワクですね」
イエルクは見るからに落ち込み、その顔をテーブルに乗せて組んだ手に乗せて伏せてしまった。
しかし、イエルクの隣に座る彼の実弟は、金色の目をさらにきらりと輝かせた。
「うふふ。さすがアダリーシアのお兄さんだ。もう、もう、僕は楽しくておかしくて。どうしよう」
ユリウスは第三王子は悪魔の申し子だとヴェルナーとべルティーナに聞いていた通りだと思いながら、諦めた気持ちで生徒会室に入った。
そして、罰ゲームのように空いているアンドレアスの隣に腰かける。
会話が出来ているようで出来ていない年上の男がこうと決めたら、それに対抗する手段など無いのだと自分を慰めながら。
そして彼はわかってもいる。
昨日女子寮で起きた陰惨な事件について、目の前のアンドレアスが捜査に来ているのだろうと。
「で、ヴェルナーってどんな奴?君は知ってる?ユリウス?」
「……。アンドレアスさん。あなたはメイドのリリーの事件を捜査しにこの学園に来られたのでは?」
「はあ?捜査も何もないでしょ。彼女の身に起きたことは一目瞭然。一瞬で全身の四十っぱの皮膚を焼いたんだ。聖女の閃光って奴しかない。それでもって現在その攻撃魔法は聖女候補の小娘以外で出来る奴は三人だけ。はい、犯人確定」
「確定なのに逮捕をされないので?昨日から事情聴取程度で野放しですよね?」
「聖女候補には不逮捕特権もあるんだよ。人前で人を攻撃したりしなきゃ逮捕はまず無理だね」
「ですが、彼女以外に出来ない状況で、状況証拠は揃ってます。それでも?」
「麗しの美女の話では、僕の妹の仕業だって寮中の噂になってんでしょう?そこで僕が妹に敵対してる小娘を逮捕したら何が起きるかな?」
「氷姫の仕業だって、彼女こそ責め立てられますね」
アンドレアスは、よくできました、という笑顔になると、ユリウスの頭を犬にするように撫でだした。
「止めてください」
「僕は弟がいないんだ。可愛がりの加減がわからなくてねえ」
「これは嫌ですね」
「そうか。ヴェルナーはどこだ?」
「最初から嫌がらせか!!」
「え、君は僕の弟になりたかった?」
「え、それは辞退をって、ぐしゃぐしゃ止めて!!」
「で、俺がその聖女を捕らえるのか?」
ユリウスは聞いたことない低い声にその声が聞こえた方へと顔を向けると、アンドレアスと同じかそれよりも上の年齢の男が壁にもたれていた。




