二、僕への贈り物は君に
私は学園の女子達から嫌われている。
その境遇を心配したような言葉をかけながら実際は何の心配もしていない顔付のヴェルナーは、当たり前のように私の隣の席に腰を下ろそうとしている。
二年の先輩男子が一年女子の隣にわざわざ?
周囲が私達の仲を勘ぐってざわざわするわけだわ。
「あなたみたいな人気者がこうして優しくしてくださるから、私は女の子達から蛇蝎の如く嫌われているのだと思うわ」
家が大金持ちなだけでなく権威もありプリンス称号もあるならば、本当の王子様よりも気軽な分美味しい存在なのではないのか。
ならば、貴族のお嬢様達がヴェルナーを結婚相手として望まれるのは、当然。
そして、お姫様王子様な世界観なのになぜか共学という、なんちゃって西洋風ファンタジー世界であるならば、学友であるうちにヴェルナーと仲良くしたいと誰もが考え行動するのは火を見るよりも明らかだ。
なのに、彼は私達が出会ったその日から、私にひっつくようになってしまった。
なのに!!私こそがヴェルナーにつく邪魔な虫だって嫌われるとは!!
「考えすぎ。君って性格が悪いからそのせいじゃない?」
私はヴェルナーに対し、そこに座って欲しくない、そんな意思が読み取れるはずの顔を向けた。
パチン。
「きゃん」
ヴェルナーが私の額を指で弾いたのである。
私は驚きながら額を押さえ、そしてあっちに行けという意思を込めて彼を睨む。
すでに座っていたとは。
あれで別の場所に行く男であるならば、私が今のこの状態にはなっていなかっただろうと、私は考えるべきだった。
「酷いわ」
「俺を嫌そうにするからだ。友人に対して酷い人だ」
どこの王様だ!!
あなたこそ憐れみって心が無いのか!!
「私の身の上を憐れんでくださるなら、私をお見捨て下さいな。さあ、さあ、椅子を立って他の場所にお行きなさいな」
「やだ。ぜんぜん平気そうなら我慢してよ。俺はさ、学生時代ぐらいは上も下も無く、女性におべっか使う社交も放り捨て、のびのびしていたいのよ」
「それだったら、別の人でも良くない?」
「よくない。他の子だったら、絶対に婚約させられちゃうじゃない?」
「本気で私を最初から見捨てるつもりなのね。だったら今すぐに見捨ててくれない?あなたは良くても、男性との噂がありながら婚約できなかった私は、社会的に傷ものってなるじゃない?」
「でも君は俺とは婚約したくないんでしょ?この状態ならば、君の親も勝手な縁談を組めはしない。人は助け合うものだよ」
「いえ、私は親が決めた縁談は歓迎よ。真っ当な間違いない方でしょう?」
「世間知らずが!!真っ当ならば腹が突き出た中年男でもいいのか?」
ヴェルナーはそう言いうと、彼が運んできたらしい食事トレイから取り上げた何かを私のトレイに勝手に置いた。
「あげる」
「いらない」
それはヴェルナーが誰かから貰ったらしいと一目でわかる、可愛らしくラッピングされた貢物色々である。
派手なピンクのリボンがされている青いチュールの小袋に入ったクッキーとか、小箱にリボンという恐らくケーキか何かが入っているだろうもの三つ。
女性はコルセットっぽい下着をつけてドレスを着用し、男性は軍服っぽい上下のスーツ姿という世界観なのに、どうして百均で売ってるようなラッピングペーパーやラメ入りチュールや光沢リボンなんかがあるのだろうか。
それらは化学繊維があってこそでしょ?
いや、そこを追及する前に、貴族の子女が木製だろうがトレイを持って食事を受け取るという環境はどうなんだ?と考えるべきだ。
別の意味で色々甘いぞ、ファンタジー世界。
いや、設定や時代考証とかが甘いからこそのファンタジーか?
「あれ、喜ばないの?君は甘いのが嫌いだっけ?」
「甘いものが好きか嫌いか以前の問題だと、あなたはどうしてお考えにならないのかしら?」
「それは、俺からのプレゼントを嫌がる人が誰もいなかったからかな?」
「これらは、あなたが誰かさんから貰ったプレゼントでしょう?ひと目があるところで簡単に捨てるみたいなことをしないの。あなたにあげた人達が傷つくでしょう。いらないのなら、ひと目が無いところで捨てなさいな」
私はヴェルナーの眼をしっかりとみつめ、ヴェルナーの脳みそに届いて欲しいと願いながら、子供達に言い聞かせるみたいにして小声で叱りつけた。
しかしヴェルナーは、私に叱られたことで無邪気そうに瞳を輝かせた。
「最後の捨てなさいって、ひどいよ?捨てるのが可哀想だから有効活用してるよって感じで、俺が君にあげたんじゃないか」
「私に渡すんじゃなくて、あなたはこれらをあなたのご学友と一緒に食べるべきでは?男の子達で美味しくいただいた図の方が、私があなたから貰う図よりも相手には微笑ましいものだと思いましてよ?」
「君は考え無しだな。ご学友と一緒にいただきましたら、その二その三がございますのよ?だが、君にあげちゃえば、君にあげたくないと、今後俺への贈り物は無くなるでしょう?」
私は頭が痛いと頭を抱えたくなった。
この人、全部わかってやってる悪い人だった。