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十、騎士の心意気

 べルティーナは私を不思議そうな顔で見つめる。

 私が聞いてもいなかった内情について半分知っていたような事へ訝しんでいるのであり、私は転生前に知っていたゲーム内容を喋っていたとは彼女に言えない。


「お、女の子達の、う、噂話で、べルティーナ様のライバルになろうとするなんて身の程知らず、な、なんて台詞を聞いたので、な、何があったのかなあ、と。あの。私への悪口は多いから、つい、私の事かと耳をそばだてたらそれで」


「あら。お喋りは私こそだったのね。でもいいわ。あの時の鬱憤は友人にも語れない。あなたも私と同じ苦労をしている同志ならば、今後はいくらでも私の愚痴を聞いていただけますものね!!」


 え、愚痴は嫌だなあ。

 だが、べルティーナの表情はさらに美しさを増していて、これは胸のつかえが消えたからなのだと思うと、私は愚痴の聞き手になるのは嫌だと言えなくなった。


「いくらでも、ですわ」


「まあ、優しい子。でもね、今日はまずあなたの愚痴からよ。ええ、わかります。何が起きているのか。あれは純粋どころか、男の庇護心を刺激することに長けた、したたかな人よ。相談女に簡単に引っかかるイエルクもどうかと思うけれど」


「いじめに仲間外れを相談されたからですのね。アロイス様も私を生徒会にって誘って下さりました。ユーフォニアが話し相手がいなくなるのが心配だからと。王子様達は皆様お優しいのね」


「あ、あ~。アロイスは違うわよ。どう違うかは私が言うべきじゃないから違うとしか言えませんけれど。でも、ヴェルナーについては言うわ。私はあの馬鹿になんと思われても全然平気ですもの」


「本当にお嫌いなんですのね」


「騎士のつもりだからよ。騎士ってね、主君の泥まで被る覚悟が必要なの。お父様、現ヒルトブルクハウゼン公爵様の影響ね。誰よりも国を憂いでいる素晴らしき人。あの方のようになりたくて、ヴェルナーは騎士の真似事をしているの」


「素晴らしい事では無いですか」


「素晴らしい?騎士は主君の為に決闘をするのよ?主君の為に命を捨てるの」


 私は胸の前で両手を組んでいた。

 まるで神に祈る時の手みたい。


 だって、終わったわ。


 きっとユーフォニアが聖女の道を選んでも、彼はきっと彼女を愛し続けるに違いないと認めるしか無いのだから。


 私が邪魔だとわざわざ書いて寄こすわけだ。

 彼はきっと私の気持を知っているから、しつこく彼を求めるだろう私に彼を思い切るための止めを与えたのだ。

 止め?

 では、彼は私に友情ぐらいはちゃんと抱いてはいた?


「ま、あらあら、泣かないで。あなたの好きな人はそんなにすぐに死なないから大丈夫よ。可能性というか、あれの馬鹿さ加減を教えたかっただけなのですから」


「い、いいえ。ようやく諦める気持になれました」


「いえ、だから諦めるって、あのそんな必要は」


 私は私を慰めるために抱擁しようとしたべルティーナの腕から逃れると、ライティングデスクへと向かう。

 そこに片付けていたヴェルナーからの手紙を、べルティーナに見せるために。


「あら、それはあ、恋文?」


 べルティーナは実母以上に知りたがりだったようだ。

 移動する私にぴったりとくっついてついて来て、私がライティングデスクの天板をあげて中の道具入れを露わにした時には、一緒に中を覗いていた。


「なんて書いてあったのかしら?」


 うわお、本気で実母か叔母連中のような物見高さだ。

 けれど、彼女のお陰で私の中の悲壮感は弱まっていた。

 なんだかんだと言っても、前世の私は友人と女子会をして愚痴を言い合いと、楽しい時間を過ごした記憶があるのだ。

 結果として不倫となってしまった恋の為に、見下げ果てられ離れられてしまったけれども。


 私は恋文どころかヴェルナーからの最後通牒といえる手紙を取り上げ、それをべルティーナに手渡した。


「あら、読んでいいの?」


「ええ。ヴェルナーの事を良くご存じのあなたならば、彼の真意がわかると思うの。彼が単に私が邪魔なだけなのか、あなたがご心配されるように彼がとんでもないことを覚悟しているだけなのか」


 べルティーナは眉根を潜めた。

 それから難しい顔をしながら手紙を開いた。


「なんてこと!あの馬鹿は一体何をしているの!!」


「べルティーナ様?」


 私はそこで息を飲んだ。

 美しくニコニコ笑うだけの温和な女性が、安達ケ原の鬼のような顔で私を見据えているのである。


「あの」


「今日は無理を言わないわ。でも、明日は学校に出てくるのよ?よろしくて?」


 私は頷くしかない。

 そして美しい顔を般若みたいな恐ろしいものに変えた人は、私の部屋を突撃した突然さと同じぐらいに、私の部屋を飛び出して行った。


「え、ええと。ヴェルナーがなんかなっちゃう?」


「君のひとりよがりの行動には辟易している。いい加減にしてくれないか」


「そうよ、あんなことを書いた人を私が気遣う必要なんか」


 部屋から飛び出して行ったべルティーナ。

 そこで彼女の台詞が頭の中で蘇る。


「騎士は主君の為に決闘をするのよ?主君の為に命を捨てるの」


 もし、命を捨てる何かを計画中であるならば、私は止めるべきだわ。

 邪魔だとあんなにはっきりと言われて?

 私は両手で顔をパシンと叩いた。


「友達だったら助け合うもの。友達じゃ無かったら、馬鹿な行動をしている人の邪魔をしたっていいでしょう?」


 私も部屋を飛び出していた。

 結局今世も独り身かな、なんて考えながら。

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