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一、私が嫌われている理由

 いじめとか仲間外れとか陰口とか、何なんだろうね。


 私は広々とした学食の隅で、自分の周りには誰も座らないというあからさまなポツン状態の中で溜息を吐く。

 食堂に次から次へと生徒達が入って来るが、誰も私の隣や周りには座らない。

 それどころか、私のこの状態を目にした少女達は、憐れみどころか嘲りの視線と一緒に私への悪口を囁き始めるのである。


 しかし私は彼女達の行為に傷つくどころか、必死だな、そう思うばかりである。


 そう考えるのは、私が日々平穏でいいやなんて思ってる女、つまり転生者という死んでしまったことがある人間だからであろうか。

 前世では喪で終わったどころか、何も成せなかった過去だったけど。


 好きになって突き進んだら相手が既婚者で、失恋旅に出かけたら事故に巻き込まれて死んだという、霊能者に会いたくない過去なのである。

 こんな前世を見られたら恥ずかしさで死ねる。


 でも、だからこそ、今回は丁寧に生きようと私は考えた。

 なのに転生した先にデシャブがあると突き詰めて見ると、妹が嵌っていた女性用の恋愛シュミレーションゲームだったのだ。


 リアル恋愛を失敗した女の行き先が、恋愛ゲーム世界とは皮肉すぎる!!


 さて、ゲームについて語ると、主人公は聖女として選ばれし美少女。

 普通の家の子供でしかない彼女は、国が抱える予言者に聖女の器と名指しされ、貴族の子弟が通う寄宿舎付学園に放り込まれて聖女となる勉強を強いられる。


 しかし、放り込まれた先が共学校ならば、素敵な講師や男子生徒がいるものだ。

 これこそ恋愛シミュレーションであるための設定。


 主人公はそんな男の子達と出会い恋愛していくのであるが、ゲームシステムとして、主人公が男性キャラと親密になることでポイントが入るので、聖女へのスキルアップをしていくには積極的に男の子とお近づきになる必要がある。


 聖女になるのよね?


 ここで疑問を持つのは当たり前だ。

 聖女って、男を知らない状態でいるからこそ聖女だものね。

 だが心配することなかれ。

 最終段階で男を選ぶか聖女を選ぶか、そんな選択肢が最後の最後にある。

 ラスボスが、キャリアを選ぶか家に入るかという一昔前の女性に強要された選択肢とは、笑えるぐらいに皮肉だ。


 さて、このゲームを盛り上げるのは、男性キャラだけではない。

 主人公のポイント稼ぎを邪魔する存在、ライバルが用意されているのだ。

 ライバルは優等生であるだけでなく、学園一の美女であり、侯爵家令嬢という、一般庶民には太刀打ちできない存在だ。

 それを庶民の主人公がマウントする。


 これこそがゲームプレイヤーのカタルシスの発散では無いのだろうか。


 私はゲーム概要を思い出した事で、食堂の中央に陣取っている華やかな一群へと視線を動かした。

 月の輝きのような輝ける金髪に空色の瞳をした美女を中心として、同じ様な金髪碧眼の美女達が笑いさざめいている。

 この美女軍団の中心人物、二年生のべルティーナ・ファイスドルフ侯爵令嬢こそ、主人公のライバル様なのである。


 彼女達は私など眼中には無い、そんな人達であるからか、私の視線と目が合うや、それぞれが優雅な微笑を返して来た。

 さすが、金持ち喧嘩せずを地でいっている、べルティーナご一行様である。


 彼女達が私に敵意を向けるどころか無視もしないのは、ありがたいことに自分はモブであり、ミルツ伯爵の娘、という身の上だからだ。

 前世では男を見る目が無いどころか恋愛音痴だと実感したのだから、主人公だったら困った事になっていた。


 せっかくの第二の人生なのだから、見合いでも何でも結婚をして子供を持つ、という人生を必ず手に入れようと考えているのだから、一生処女な聖女なんかになりたいと望むはずもない。


 そう、私は今世では恋をする事に拘らない。


 安定した人と安定した生活を手に入れて、子供を産んで年を取る、という普通過ぎる普通の人生を送るのよ!!


「ネズミ姫。君さ、凄い勢いで日々女の子達に嫌われているけど大丈夫なの?そのセントーレア色の眼で睨むのは悪手だと思うよ」


 転生した私の髪色はグレージュで、瞳の色は青紫だ。

 気に入っているのに、私に声をかけて来た人にはネズミしか連想しないようだ。

 自分の隣の椅子が引かれ、そこに座ろうとしている青年に私は顔を向けた。


 彼は揶揄う口調だった割には、私を心配そうな眼差しで見つめている。

 けれども私は彼の心配に感謝するどころか、今自分が持ち上げているカップの紅茶をぶちまけたくなった。


 アンティックゴールドの髪に翡翠の瞳という、どこから見ても高級で美青年のヴェルナー様、に。


「ごきげんよう。プリンスヴェルナー」


「ふざけるな。麗しのアダリーシア」


「あなたこそ、ふざけないで。何が麗しよ」


「仕返しだよ」


 ヴェルナーはプリンスと私に呼ばれるのを嫌がる。

 だが仕返しも何もないと思う。

 だってプリンスはヴェルナーには仇名ではなく、社会的に彼はプリンスだ。


 彼はヒルトブルクハウゼンじゃないか。


 つまり父親が王様の弟であられるヒルトブルクハウゼン公爵の息子ということで、ヴェルナーをお呼びする時はプリンス称号をつけるものなのである。


「意味が解らない。仕返しなら私こそよ。あなたみたいな人気者がこうして優しくしてくださるから、私は女の子達から蛇蝎の如く嫌われているのだと思うわ」

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