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紅桃  作者: チホ
1/1

始まり~消失~


「おにーちゃん!」


晴れ渡る晴天、穏やかな風が吹く昼下がりの中に高らかな少女の声が響く。

聞き慣れたその声に、青年は振り返った。


桂風(けいふ)


名前を呼べば自分から四つほど離れた妹が腰に抱きついてきた。

自分とは違う、母譲りの茶髪が柔らかく風になびき、フリルのついた女の子らしい衣装がよく似合っている、幼さが残る少女。


「おにーちゃん!おにーちゃん!今日!今日だよ今日!」

「あぁ、わかってるよ」


興奮して腰に引っ付いたまま跳ね回る妹を落ち着けるように頭を撫でる。

無邪気な娘はくすぐったそうにしながら跳ぶのをやめた。


興奮するのもわかる。


我が家の昔からの決まり事、一人前になるために十三の誕生日に一人で継承の儀式を行う。

代々伝わる、守護者の力を自らに取り込む儀式。

この妹は今日のこの日、その儀式を行うのだ。



「おにーちゃん、おにーちゃんの時は難しかった?」


小首をかしげ上目遣いで顔を覗き込んでくる。

大きな瞳から送られる視線が、自分の血のように紅い眼とぶつかった。


「心配する程難しいことじゃないさ。ちゃんと普段の練習通りに行うことが出来ればな」


そう言って再び頭を撫でる。

妹は顔を伏せ、少し考えるようにしていたが。

暫くすると顔を上げ満面の笑みをこぼした。



「……けい」


風にでも吹かれたらかき消えてしまうくらいの小さな声が離れた場所から聞こえた。


「あっ!火梨亞(こりあ)!」


いち早く反応した桂風が自分から離れ声の主へと走り寄る。

声の主は桂風と同じ背丈に自分と同じく黒髪に紅い瞳の、もう一人の双子の妹。

桂風とは正反対な性格の彼女は控えめに此方に近づいて来る。


「……お兄……も、けいも……時間……」


ボソボソと消え入りそうな声で時間を告げる少女。

傍に寄り今度は伏せ目がちな妹の頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうに着ている服の裾を握り締めた。

さらに追い討ちのように桂風が抱きつくからぷるぷると顔を真っ赤にさせる。


「……さて、行くか桂風、火梨亞」


火梨亞が限界に達する一歩手前で当初の目的へと桂風を促す。

振り返った桂風は一瞬、緊張した顔を此方に向けたが直ぐに笑顔を見せた。






母が桂風を儀式の部屋へと促し、父がその部屋の扉を閉める。

今、この隣室には自分と次に儀式を行う火梨亞だけだ。


「……お兄」

「ん?何だ火梨亞」


人と目を合わせるのがとにかく苦手な妹が珍しく真っ直ぐに此方を見ている。


「……けい、しん……ぱ……い?」


不安気な瞳。

いま儀式を行っている姉の心配。

そしてこの後に行う自身の不安がその表情から伺えた。


一瞬考えた後、妹の頭に掌を乗せる。


「大丈夫だ、桂風も、お前も……心配ないさ」


軽く微笑んでやると妹の表情が和らぐのがわかった。


大丈夫、直に終わる。



そう信じていた。





「――――!?何だ!!」


儀式を行う部屋から響いた音に、弾かれるようにして顔をそちらへ向ける。


漏れてくるのは父の大声、母の叫び。

―そして桂風の混乱しきった涙声。


「火梨亞!そこで待っていろ!」


怯える火梨亞にそう声をかけ儀式の扉に手を掛けようとする。



儀式中に開けても良いのか―?



初めての事態、戸惑いから動きが止まる。

だが聞こえた桂風の声に意を決し手に力を込めて扉を開け――。



開けられなかった。


その前に眼が見えなくなる程の激しい光が瞳を刺した。

――――音が消える。

いや耳が働かなくなるような爆音。


扉の感触が、肌に触れる感触が、回りの世界が何もかも消えていく。


最後に、何もかもが働かず機能が停止した身体から自らの存在を繋いでいた意識が――――消えた。





世界のだれもがただの日常を過ごしていた日。

古き家系の一族が住む周辺の大地がいつの間にか消えてなくなった。



この作品は2010年10月に個人サイト(現在は閉鎖)にて公開していた文章を一部修正したものになります。


17の世界 ???、桂風、火梨亞

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