06 窮状
『システマ』との待ち合わせの場所は、未だ遥か遠く。
つまりは、元王女様との珍道中も、まだまだ続く。
乙女いっぱい幌馬車道中、御者な用心棒の運命やいかに。
なんて事を考えてましたが、用心棒としての旅自体は平穏そのものなのです。
その証拠に、幌の内では絶賛和気あいあい真っ最中。
乙女たちは、ニーケの街でたくさん買い込んできた北方銘菓のお菓子を楽しんでおられますよ。
まあ、あの危ない乙女軍団に混ざっちゃうくらいなら、御者で孤独している方が全然マシってなもんです。
そんな油断をしていると、出汁昆布を掬うかのごとくに足元を掬われちゃうのが、俺の出汁人生。
「お茶どうぞ」
ありがとうございます、イヴラシュカさん。
意外と気配りさんなのですね。
「意外とは余計ですけど、これでも女王の娘としていろいろ頑張ってきたんですよ」
「でもあれ以上頑張り過ぎてたら、ヴェルネッサさんみたいな怖いお姉さまになっていたかも」
確かに、凄く綺麗だけどめちゃくちゃ硬い宝石みたいな人でしたね、ヴェルネッサさん。
「そういえば、ヴェルネッサさんがすっごく感心してましたよ」
「仲間のために国にケンカを売るなんて、並の度胸じゃないですよって」
えーと、ケンカを売るハメになった原因、誰のせいでしたっけ。
「こうして巡り会えたきっかけを作ってくれた私に感謝、ですよね」
前向き過ぎるのも問題だって事、誰からも教わらなかったのですか。
「どうせ問題を打破する必要があるなら、ネガティブよりもポジティブな方が楽しいですって」
モノは言いよう、って言うか、いいように解釈し過ぎっていうか……
「イケてる感じで前を向いて進んでさえいれば、問題を置き去りにして少しでも先に行けてるんです」
置き去りにする前に、解決する努力をしましょうか。
「いい女って、振り返らないで前を見て走るからカッコいいんですよ」
勢いつけ過ぎて、すっ転ばないでくださいね。
きれいなおみ足に傷が付いてしまいますよ。
「シナギさんって、結構むっつりさんな大人なんですね」
大人っていうか、これが妻帯者の余裕ですよ、お嬢さん。
「それじゃ、口説かれちゃったってミナモさんに自慢しても、大人なシナギさんなら全然平気ですね」
ごめんなさい許してください勘弁してください。
「良きにはからえ、です」
人生楽しそうで何より、ですね。
「もちろんですって」
「あんな国から出られたおかげで、素敵な殿方との出会いが私を待ってるんですよ」
出来ればお相手の殿方に迷惑を掛けないよう、自重するすべを学んでくださいね。
「シナギさんみたいな頼り甲斐とイジりがいを両立させてる殿方が理想の旦那さまなのですよ、私」
えーと、間に合ってます。
我が家も俺の器量も、既にいっぱいいっぱいなんで。
「じゃあ、お兄さんか弟さんを紹介してください」
本当、勘弁してください……
逃げ場の無い御者とやたらと積極的な乙女との危険なせめぎ合いを乗せて、幌馬車旅はまだまだ続く。
アイネさんたちがこちらをにこにこ眺めているばかりなのが解せぬ。
それになぜ助けに来てくれぬのですか、ミナモさんっ。