02 覚悟
メネルカ魔導国の城門前に到着。
目の前にそびえる城壁が国境であり、この中が国土の全てという、小さな国。
ただし国の規模にて侮るなかれ、他国への影響力は比類無く大きい、のだそうだ。
魔導国という呼び名の通り、こと魔法関係に関しては他国の追従を許さぬ権勢を誇る、らしい。
世襲では無く、最も魔法力が高い者を女王として戴くというその体制、
国への男性の介入を頑なに拒むその姿勢、
謎多き国ではあるが、今やるべきは謎解きでは無く仲間の安否の確認。
それでは、待たされ用心棒夫婦、今こそ仕事の時。
城門に衛兵などは居らず、門の脇にある受け付け窓口にて要件を伝える仕組み。
受け付けの女性に身分と要件を告げて、しばし待つが……
入国資格の無い方々はお帰りください、という素っ気ない返事、
そう言われて帰れるわけがなかろう。
アイネさんから預かっていた書面をかざしながら、受け付け嬢に告げる。
この書面はエルサニア王国のツァイシャ女王より賜わったものです。
女王自らの依頼を受けて特使として訪れた私たちを蔑ろに扱うという事は、
メネルカ側にエルサニアと事を構える覚悟があるという事でよろしいか。
真っ青となった受け付け嬢が、慌ててどこかへ向かった。
なんだか虎の威を借る何とやらっぽくて不本意ではあるのだが、
いま優先すべきは、一刻も早く用心棒の本分を果たす事。
すまぬ、受け付けのお姉さん。
しばらく後、受け付けの脇の扉が開いて、中へと案内される。
通された質素な小部屋には、恐いくらいに綺麗で、恐ろしい程に威厳のある女性がひとり。
「メネルカ宰相、ヴェルネッサです」
まずは、話しを聞いた。
メネルカにはエルサニアと事を構えるつもりなど無い、
しかし、次期女王候補選定に関わる重大事であるため、こちらにも譲れぬ事情がある。
エルサニアから訪れている客人には非礼も不安も無いよう過ごしていただいているとしか今は言えない。
お越しいただいた特使の皆様には、今しばらくのご猶予を、切に願います。
ほう、この期に及んで曖昧な言い訳三昧、
うむ、分かりましたなどと引き下がっては子供の使い以下。
こちらも覚悟を示さねばなるまい。
先程は特使などとは名乗ったが、俺は一介の用心棒に過ぎません。
用心棒のやるべき事はただひとつ、
守ると誓った人たちを、命を懸けて守る事。
守るべきみんなの安否も確認せずに、このまま帰れるはずも無し。
メネルカの女王候補がどうとかは、悪いがこちらは全くの無関係。
仲間の命を天秤にかけるなどあり得ない事。
確かに俺は魔法なんてからっきしだが、
たかが用心棒と侮るならば、
そこの扉をブチ破ってでも、
今すぐ探しに行かせてもらいます。
「うちのシナギは覚悟を見せました」
「メネルカの覚悟はいかに」
ミナモ、ありがとな。
「分かりました」
ヴェルネッサさんが覚悟を決めたようだ。
「ですが、私どもにはなぜこれほどまで事態がこじれているのか、全く分からないのです」
「よろしければ、そちらの書面を拝見させていただけませんか」
この書面は、今回のメネルカからの正式な依頼書も兼ねた特使任命証ってとこかな。
依頼に関するこれまでの経緯と、アイネさんたちの安全を確約すること、
他にも何やら約束事がずらりと記されている。
もちろん、ツァイシャ女王様とメネルカの王女様の署名と、両国の王印による捺印も。
これを所持している者は、両国任命の特使としての振る舞いを許される、だっけ。
「……」
おっと、じっくりと書面に目を通していたヴェルネッサさんの顔色が変わりました。
何やら不味い雲行き……
「今回の事態、全ての非はメネルカ側にあった様です」
「至急選定の儀を中止させエルサニアの皆様をお連れする事を、このヴェルネッサの名に懸けて誓いましょう」
一件落着、かな。
「すぐにでもお連れしますので、特使様方は今しばらくお待ちを」
丁寧な礼の後、ヴェルネッサさんは去って行った。
メネルカ側が非を認めたって事は、依頼主の王女様が何かやらかしてたって事かな。
「待ちましょう」
ミナモは、相変わらず冷静。
……しばし待つと、
「どうしたんですかっ、シナギさん、ミナモさん」
アイネさんたちが、部屋に飛び込んできましたよ。