急展開 〜薫視点〜
「えっ、ユウが家を出た?」
朝、ユウの家を訪ねていた私は驚いてていた。
「そうなの。アルバイトで住み込みで働くことになって土日しかこの家に戻ってこないことになったわ。」
どういうことなんだろう?ユウのスマホには画面に表示されないようにGPSを入れてある。それによるとユウは家にいることになっている。
「ちょっと家に入らせていただいてもいいですか?」
「いいわよ。そんなに遠慮しなくても。」
陽子さんに許可をもらいユウの部屋へと向かう。
「これ、ユウの携帯?」
ベットの下には案の定というべきかユウの携帯が置いてあった。
一度ユウの家のリビングに戻り陽子さんと話す。
「ユウはどこで暮らすことになったんですか?」
「九条さんというユウの部活での後輩のところよ。」
あのお嬢様か。私のユウにいつも色目を使ってきた女狐めが。
「そうなんですか。陽子さんは反対しなかったのですか。」
「もちろん、最初は反対したわよ。でも侑士君の望みなら私の思いなんかより叶えてあげなくちゃと思ったの。」
なるほど。うまくユウに対する罪悪感に付け込まれたか。私が以前やったことを今度はしてやられた形だ。
「そうですか…所でユウの望みってなんだったんですか?」
「ユウは迷惑を私達にかけたくないから家を出るつもりだったみたい。それでアルバイトをしようとしていたらしいの。迷惑だなんて思ったことないのにそんな風に思われていたなんて私はつくづく母親失格ね…」
陽子さんはそう言った。
ユウに対して罪悪感を抱えていたため、距離を詰めることができなかった陽子さんはそのことをとても後悔しているようだ。
「薫、きていたの。」
そうして話していると麗華さんと結奈ちゃんが降りてきた。
「薫さん、こんにちは。」
そう言って降りてきた2人の雰囲気もどこか暗い。
「こんにちは、結奈ちゃん、麗華さん。」
「侑士の事は母さんから聞いたか?」
「うん、聞いたよ。」
「そうか…侑士がいないとやっぱり寂しくてな…」
「…お兄ちゃん、私達に何も言わずに…」
まるで死に別れたような悲壮さである。私としても幼馴染で隣の家というアドバンテージを失ってしまったため、やはり寂しい。
「今は落ち込んでいても仕方ありませんよ。土日しか帰ってこないにしてもユウにもう一度負い目も何もなく心の底から一緒に暮らしたいと思ってもらえるように頑張りましょうよ。」
私は明るくそう言った。ユウにはもう一度隣の家に帰ってきてもらわないと私としても困る。
「でも…」
「ユウと一緒に暮らしたくないんですか?」
「暮らしたい!…そうだな、もう一度一緒に暮らせるように頑張ってみよう。」
もちろん私のために焚き付けたことに罪悪感があるが、もう一度彼女達と一緒に暮らして欲しいと心の底から思っているのも本心である。
恋は戦争だ。私は彼と添い遂げるためならなんだって利用させてもらう。遠慮して彼と離れることが生きている中で1番後悔すると確信しているから。
今日も私は彼と添い遂げるために考えを巡らすのであった。
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