急展開 〜麗華視点〜
家に帰ってくると、まだ侑士は帰宅していなかった。
「ただいまー」
リビングに向かって声をかけると、
「おかえりなさい。」
と母の声がした。
「侑士はまだ帰ってきていないのか。」
そう尋ねると、母は暗い顔をして、
「後で話すわ。」
と言った。どうしたのだろうかと思ったが後で話すと言っているので聞かないことにした。
「ただいま。」
そう言って結奈が帰ってきた。
「おかえり」
「あれ?お兄ちゃんは?」
そう尋ねると、
「ちょっとそこに座って。」
と、母に言われた。
「侑士は今日から住み込みでアルバイトをすることになったわ。」
そして母は衝撃的なことを口にした。
「「は、はぁー!?」」
結奈と口を揃えて声を上げる。
「ど、どういうこと!?」
「落ち着いて。何もずっと帰ってこないわけではないわ。土日はこの家に帰ってくることになっているわ。」
そう言われても納得できない。
「な、何故侑士は住み込みなど」
「侑士君はこの家に迷惑をかけないようにアルバイトをしたかったみたいなの。高校を卒業したら出て行くつもりで。だから今からでも出ていけるならと住み込みの条件にのったらしいわ。」
そういうことか!あの時本心ではないと思っていたが気づかなかった自分を殴りたくなる。
「い、いつまでなの?」
結奈が顔を真っ青にして聞く。
「高校を卒業するまでらしいわ。」
「な、なんで止めなかったの!?」
私が聞く前に結奈が続けて尋ねた。
「私も止めようとしたわ。でも、できなかった!侑士君をかつて傷つけてしまった私に出来る事は、侑士君の願いを全て叶えてあげることだけなの!」
その迫力に思わず言葉が詰まる。
「い、いやよ!!お兄ちゃんと離れるなんて!最近お兄ちゃんの様子がおかしかったのに!次こそは私が助けるって思ってたのに!」
「ごめんね…ダメなお母さんでごめんね…もう私ではダメだったの…どれだけ侑士君に償おうとしても決して心を開いてくれなかった…それなら彼のためにも他の人ならと期待するしかなかったの。彼がもう一度笑えるようになるならそれが私に向けられなくてもいいと思ったの。ごめんね…貴方達の意見も聞かずに…」
それから3人で泣きながら話し合った。過去のこともだ。私の失っている記憶のことも聞いた。記憶を失った私に更に追い討ちをかけるように悲しいことを教える事はないと思って黙っていたらしい。
お母さんも苦しんでいたんだ。それはそうだろう。
愛していた人を亡くし、2人の娘は男性不信に記憶喪失、相当なストレスだったのだろう。
そしてついに爆発してしまった。侑士に当たってしまったのだ。すぐにハッとしたが遅かった。彼は変わってしまった。
その全てに気づかずのうのうと生きていた私ほ無力感と絶望に打ちひしがれていた。
私は今まで何をしていたのだ。過去のことを知ろうともせず、学校のことで、家族を蔑ろにしていた。
妹が、母親が苦しんでいるのに気づかずに、侑士のことも、気にかけているふりをしていただけで結局何もしなかった。
私は愚か者だ。もう後悔してもときは戻らない。それでももう一度やり直せたらと心の底から願った。
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