突然の訪問
「こんにちは、侑士様。」
そう言って満面の笑みで森田さんが挨拶してきた。
「こんにちは、森田さん。どうされたんですか?」
「ふふっ、侑士様に会いたくて来てしまいました。」
彼女はそう言ったが、俺は今日九条さんの家に来ている事は話していなかったはずである。
「俺なんかに会いに来てくれるなんて嬉しい限りですが、どうしてここだとわかったのですか?」
「侑士様の家に行きましたがいらっしゃらなかったので。こちらだとお伺いして参りました。」
そういうことかと納得していると、
「会いたかっただけですか?ほかにご用件がないのでしたら今日はこれから侑士さんと大事な話がありますのでお帰りいただいて宜しいですか?」
と九条さんが言った。何故か声にイラつきが混ざっている気がするが、彼女の方を見ると変わらずニコニコしている。
「あら、そうだったんですか。そのお話はどれくらいかかるのでしょうか?侑士様、よければこの後遊びに行きませんか?」
彼女にそう誘われた。高校に入ってから遊びに誘われたのは初めてかもしれないので内心行きたいが、
「とても長くなりますので、今日は無理だと思いますわよ。」
と九条さんが言った。それならば先の予約である九条さんの方を優先しなければならないので俺なんかをせっかく誘ってくれたのに断るしかない。
「すいません、そういう事ですので。」
明日ならば空いているのだが、俺なんかが彼女を誘っても迷惑だろう。
「そうですか…それはとても残念です。けれど侑士様の顔が見られただけで満足です!」
と彼女が言った。俺なんかの顔を見て何がいいのだろうか。むしろ俺の顔を見せて毎日皆んなに申し訳なく思っているのに。
「あっ、でしたら明日はどうですか?」
と続けて彼女は尋ねてきた。先程考えたように明日は空いていたので、
「明日ならば特に予定はありません。」
と言うと、
「そうですか!でしたら一緒に街に行きませんか?」
と興奮しながら尋ねてきた。彼女の誘いを俺なんかが2回も断るわけにはいかないので、
「いいですよ。俺なんかでよければご一緒します。」
と答えた。彼女と遊びに行けると考えるほど自惚れていない。おそらく荷物持ちが欲しかったのだろう。それでも、俺なんかが誰かに頼られたならば断るはずもない。
「ありがとうございます!でしたら、連絡先を交換しませんか?」
と言われた。確かに連絡出来なければ不便だろう。
「いいですよ。」
そして連絡先を交換して彼女と別れた。
「お待たせしました。」
そう言って九条さんのほうを向き直ると、彼女はニコニコ笑っていたが何故かとても怖く感じたが、感情がわからない俺の気のせいだろう。
「いえ、それでは中に入りましょうか。」
そう言って彼女の家の中へ戻っていった。
(あの雌牛め、侑士さんに色目を使いやがりまして目障りですわね。排除しましょうか?)
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