異変9
そう威勢よく入ってきたのは森田さんだった。
「ここに侑士様が所属していらっしゃると聞いたのですが…あっ、本当におられました!」
彼女は侑士を見つけた瞬間花が開いたような満面の笑みを浮かべた。
「貴方は、確か昼の…」
部長が声をかける。
「あっ、皆さんもお昼ぶりですね。」
彼女は続けてそう言った。まるで他の人は今気づいたようである。
「ええ、それで今少し立て込んでいるのだけれど、どういうご用件かしら?」
部長がそう言って訪問の理由を尋ねた。
「はい、私文芸部に入部したいです。」
彼女はそう言った。
「そうなのね。入部の理由は何かしら?」
「侑士様がいるからです。」
彼女は部長の問いかけに迷わずそう答えた。
「それは…入部は許可できないわね。私達は真面目に活動しているの。」
部長はそう言って断った。すると、
「もちろん真面目に活動しますよ。私、中学校の時も文芸部だったので。」
彼女はそう答えた。中学校のころ、俺が所属していた文芸部にはいなかったので違う学校なのだろう。
「そうなの。それなら真面目に活動するというのも信じられそうね。それに違う学校で文化祭に何をしていたのかもきになるし。許可するわ。」
部長はそれを聞いて一転して入部を認めた。それを聞いて、
「ちょっと!なんで彼女はよくて私はダメなのよ?」
と薫さんが怒りながら尋ねた。
「薫さんも入部は認めているでしょう。文化祭の後からだけれどね。」
と部長が言った。
「それがなんでなのよ?私にも出来ることもあるはずよ。」
「特にないわよ。私達一人一人が書いたものをまとめて売るだけだもの。」
部長がそう言って断る。そしてまた、2人は言い合いを始めた。
「あのーなんであの2人ってあんなに言い合っているんですか?」
すっかり空気になってしまった森田さんが聞いてきた。
「自分にも分からないです。仲良くしてもらいたんですけど。」
俺がそう答える。2人とも俺なんかを気にかけてくれるほどいい人なのだから仲良くしてもらいたい。
その言葉を耳聡く聞き分けた2人は一転して、
「わかったわ。貴方の活動を今日から認めるわ。」
と部長が言った。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。」
薫さんもそう言ってお互い握手していた。なんかこめかみがピクピクしている気もするが気のせいだろう。
「ようやく話が纏まりましたのね。お茶を淹れますから休憩にしましょうか。」
それまで見守っていた九条さんがそう言った。
そうして九条さんが淹れてくれたお茶を飲みながらみんなで雑談に興じる。しかし一見楽しく話しているように見えるが、どことなく笑顔が怖い。表情は確かに笑っているのに何故か全然そう見えなかった。
そうして今日は仲を深めようということで雑談で活動は終わった。そうして帰る時間になったので解散になった。
席を立とうとすると、薫さんにまたお姫様抱っこされた。
「北山さん、重いでしょうからおろして下さい。」
「大丈夫よ。」
「でも…」
「私がやりたいのだから気にしないで。」
そう言って聞いてもらえなかったので諦めることにした。俺なんかにそこまでしてもらってすごく申し訳ない。
「侑士様はどちらの方面なのですか?」
「駅の方です。」
「でしたら一緒ですね!途中までご一緒しても?」
「いいですよ。」
「ユウ、早く帰りましょ。」
「わかりました。部長、九条さん、飯塚さん、お先に失礼しますね。」
「ええ、さようなら。」
「バイバイ。」
「侑士さん、さようなら」
そうして3人で帰ることになった。途中で森田さんと分かれて本当に家までそのまま帰った。
「また明日ね。ユウ。」
「はい、また明日。」
俺なんかに挨拶をしてくれるだけで彼女の優しさが窺える。彼女はとても優しいから俺なんかのためにここまでしてくれるだろう。
だから彼女の優しさを俺なんかのために使ってもらっていることが心の底から申し訳なかった。
俺が返せるものなど何もないというのに。
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