異変7
「何を言っているのかしら?」
部室が凍てついた。殺気が薫さんから立ち込め、肌で感じられるほどに部室の空気が凍りついた。
「あら、本当のことを言っているだけですよ。」
しかし、それを感じていないのか飯塚さんはそう続けた。
「本当のこととは?」
「あら、惚けるのかしら?確か田中について行ったのよね?」
「ついて行ってなんかないわよ?全てはもっと愛されるためにしたことだもの。」
「その結果、彼を傷つけたと。お笑い草ですね。」
どうやら田中君を取り合っているらしい。彼はすごい人気者のようだ。
「…そうね。私は間違ったわ。だから彼を支えなければいけないの。それが昔からの私だけの役目なの。」
「ふふっ、面白い言い草ですわね。彼の事を考えるのなら離れればいいのでは?」
九条さんがそう言った。
「何を言っているの?彼を支えれるのは私だけだよ?貴方達があの時、彼が一番傷ついていた時、何をしたの?何もしていなかったでしょ!ただ傍観していただけ!ちがう!?」
「そ、それは…」
「けど、私はちがう!誰よりも彼の近くで支えた!家族ですら立ち直らせることが出来ず、離れて行ったけど私だけはずっとそばにいた!彼のためになんでもやった!彼が好きだから!愛しているから!だから彼を立ち直らせることができた!それに対して貴方達は何をした?何もしてないでしょ!」
「私だって!出来ることなら彼のそばにずっといたかった!でもその想いだけじゃどうしようもなかった!私の我儘で家族にも他の周りの人にも迷惑をかける訳にはいかないじゃない!彼以外にも大切なものだってあるのだもの…」
部長がそう言った。それにしても田中君も俺と同じような経験をしていたとは人は見かけによらないものだなぁー。
「ふん、結局それくらいの想いなんでしょ?私は違う!彼のためならなんでもあげられる!なんだって捨てられる!」
「そんなのは空想ですわ。生活するのには周りとの関わりが必要不可欠です。」
「そうかもね。でもそれはあとから作ればいいの。彼とのことに勝るものなんて一つもないわ。」
「社会のことがひとつもわかってないのですわね。それで将来やっていけるとでも?」
「あら、そうかしら?確かに貴方みたいに会社の重役にでもなるのならば周りとの関係も色々あるでしょうよ。でも、彼と普通に暮らすのならばそこまで必要ではないわ。彼がいれば他は誰も必要ないもの。それに私は私の能力が高いことを理解しているもの。自惚れではなく客観的な事実としてね。それを使えば不自由ない生活をすることは可能よ。」
彼女はそう言った。彼女が今から田中君との将来を見据えていることに驚いた。
こんなにもたくさんの人に愛されている田中君はやっぱりすごいのだなと感じた。誰にも愛されない俺なんかよりも彼女達も彼といた方が幸せだろう。
周りの人が離れていくのは寂しいことどが、彼女達の幸せが一番だから彼女達は俺なんかのことは放っておいて幸せになって欲しい。
俺は心からそう思った。
お読みいただきありがとうございます。自分のこととは露ほども思わなくなってしまっている主人公…