異変6
そうしてようやくバタバタした昼休みは終わりを迎えた。
今日に限って大勢が教室に押し寄せてきて、しかも普段目立たない俺の周りに校内でも美人と有名な女の子達が集まってきたこともあり、教室はパニックに陥っていた。
午後の授業が始まってもあちこちから嫉妬や怨嗟の視線が突き刺さっていた。別に誰にどう思われても構わないが一応心の中で言い訳する。
皆さんよく考えて欲しいものだ。俺なんかがあんなに輝いている人気者の人達とどうにかなるわけがない。あの人たちは知り合いである俺が怪我をしたから義務的にわざわざ関わってくれているだけであり、それがなければ俺にあんなにさも好意があるかのような態度で関わってくれるはずがないのだ。
そうして悪感情を含んだ視線に晒されながら午後の授業は終了した。
放課後、文芸部の部室に向かうと既に3人が着席していた。
「昨日はいきなり休みにしてごめんね。」
部長がそう言った。
「いえ、大丈夫です。」
「それで、助けたのがあの女の子だったの?」
部長が続けてそう尋ねてきた。心なしか圧を感じる。
「ええ、どうやらそのようです。俺なんかの怪我だけで彼女に何もなくてよかったです。」
心の底からそう思う。たとえ俺が死んだとしても俺なんかの誰にも好かれない安い命よりも誰かから好かれている彼女の命の方が何倍も価値がある。
「そうね。けれど侑士君にも大きな怪我がなくてよかったわ。何か困ったことがあったらなんでも言ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
「それで…なぜ貴方がいるのかしら?」
部長がそう尋ねた。実はこの会話中ずっと薫さんが横にピッタリとついていた。
「ユウの介助です。ですので私のことは気にせず話を始めてくださって結構です。」
彼女はそう言った。俺としては俺なんかが彼女の貴重な時間を潰すのは忍びなかったので何度も遠慮したのだが、彼女に押し切られてしまった。
「そう、ご苦労様。けれどここには私達がいるのだから必要ないわよ?」
部長がそう言った。彼女達は仲が悪いのだろうか?人の感情がわからない俺にはそのことさえわからなかった。
「いえ、ユウを助けるのは当然のことですし、私だけの役目ですから。」
薫さんが私だけのところを強調しながら言った。
なぜ皆んな俺なんかのことをそれほどまでに気にかけてくれるのだろう。他人の考えはわからない。
かつての俺は人の感情を理解していた気になって間違っていた。そして多くの人を傷つけてしまった。そう記録している。それから俺は人の感情はわからなくなった。
だから彼女達がなぜこんなにも傷つけてしまう俺なんかに関わってくれるのかわからない。
そう考えている間にも言い合いは続いていた。ちなみに俺は薫さんにお姫様抱っこされている。彼女のどこにそんな力があるのだろう。
「お二人とも、話し合うのは構いませんが、まずは侑士さんを椅子に座らせてあげてはいかがですか?」
そう言われて俺はようやく椅子に座ることができた。
「それでは北山さん、侑士さんをここまでつれてきて?運んできてもらいありがとうございました。」
九条さんがそう言って遠回しに退出を促す。
「何言ってるの?ユウを支えるのが私の存在意義なのよ。片時も離れるわけにはいかないわ。」
薫さんはそう言った。
「あら、その割に他の男についていったのは誰かしら。」
飯塚さんがそう言った瞬間空気が凍りついた。
さっきの教室の比ではない。本当の修羅場が始まった。
お読みいただきありがとうございます。タイトルにラブコメと入っているのにラブコメすると不気味な作品とは一体?笑笑