別れ
陽子さんと結奈さんが帰ってきて夕食の時間になっても麗華さんはどこか心ここに在らずの状態だった。心配した陽子さんと結奈さんが声をかけても生返事を繰り返すだけだった。そうしてご飯を食べ終わるとすぐに部屋に戻ってしまった。
「どうしたのかしら。」
彼女の部屋に向かう背中を見つめながら陽子さんが心配そうに呟いた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな?」
と結奈さんも心配そうだ。
俺はその声を聞きながら皿洗いを終えて、自分の部屋へ戻ろうとする。
「侑士君、何か知らない?」
陽子さんが聞いてきたので、
「いえ、知らないです。」
と素直に答えた。麗華さんは強い人なので、俺なんかが心配するのは筋違いだし、さっき話した内容ももう立ち直っているはずだ。
そうして俺も自分の部屋に戻っていった。
暫く勉強をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
俺が応じると麗華さんが部屋に入ってきた。
「どうしました。」
俺が尋ねると、彼女は未だに暗い雰囲気を纏っていた。そうして暫く俯いていたが、彼女はようやく顔を上げると俺に問いかけてきた。
「さっきの話本当なの?」
さっきの話とはなんのことだろう?そう考えるがすぐに薫さんと田中君の事だと理解する。なので、
「はい、本当ですよ。」
と答えると、彼女は再度、驚いた顔をした。そして、
「貴方と付き合っていたのではないの?」
と尋ねられた。そこで俺は考える。俺達は本当に付き合っていたのだろうか?あるいは俺の一方通行だったのではないだろうか?
そこで俺は過去について思いを馳せる。引きこもっていた俺に献身的に接してくれ、俺は彼女を好きになっていた。けれど彼女はどうだったのだろうか。思い返せば彼女から好意を伝えられたのは告白した時だけだった。それからは俺は彼女しか見てなかったが、彼女は別にそうではない。彼女は学校で明るくて、容姿端麗であったため人気者だった。だから多くの友達に慕われていた。そんな彼女が俺なんかを好きになることなんてあるのだろうか。ただ引きこもってしまった俺を憐れんでいただけではないのだろうか。陽子さんや彼女の両親、学校の先生に言われて仕方なく一緒にいたのではないだろうか。そして、俺に付き纏われていい加減嫌気がさしたのではないだろうか。そして本当の彼氏が欲しくなったのではないだろうか。そう考えると、全てに納得がいった。そうして、もうそうとしか考えれなくなった。好きでもない男が付き纏うのではストーカーと変わらないではないか。そんな男は彼女の前から消えるべきである。過去も現在も未来も俺が誰かに好かれることなんてないのだから。
ならばもう思い出はいらない。全ての思い出を火に焼べる。舞った煤が俺に降り注ぐ。そうして見た新しい世界は色のないモノトーンだった。
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