新たな動き 〜九条真紀視点〜
翌日、朝食の時間に新しく執事を雇いたい事を家族に伝える。
「私専属の執事を雇いたいのですがいいでしょうか?」
この家では家族が揃うということが難しいので、せめて朝食だけでもということで一緒に食べる決まりがある。
「ほう、執事を雇いたいということだがどこの誰だ?」
父がそう尋ねてきた。大企業の社長というだけあって威厳に満ちている。
「はい、同じ学校で普段お世話になっている先輩なのですが。」
と答えると、彼は思案したあと、こちらをじっと全てを見透かすかのような目で見つめ、
「うん、いいだろう。」
と許可を出した。彼女が人に心を開くことはその立場上から滅多にない。そんな彼女が雇いたいと言ったのだ。それほどその子を信用しているということだろう。今のうちから信用できる人材を見つけておくのは彼女にとっていいことだ。それに親としても、彼女が心を開くことができる人がいるということは安心することができる。
「執事ということは男の子なのでしょう?今度私達にも紹介してね。」
と母が言った。彼女は社長令嬢ということで近寄ってくる輩は少なくない。そのため、一度自分の目でしっかりと見ておきたいのだ。
こうして、彼の知らないところで親への、それも大企業社長夫妻への挨拶イベントが発生したのだが、それを彼が知るのはもう少し後の話である。
「それでお願いがあるのですが、高校生の間、1人暮らしをしたいのですが。」
と彼女は言った。これには夫妻もたいそう驚いたようで目を丸くしている。
「それは何故かね?」
ショックから立ち直った後、父親はそう尋ねた。
「はい、やはり将来のためにも、今のうちに一般的な暮らしというものも経験しておいた方がいいと思いまして。」
と真紀は答えた。もちろん方便であるがそれは両親にも伝わっているのだろう。
その答えを聞いて父は先ほどよりも深く考え込んでしまった。
それから暫く時がたち、父がようやく口を開いた。
「いいだろう、ただし、条件がある。
・土日はこちらの家で生活すること。
・1人ひとを派遣するからその人と共に暮らすこと。
この2つが最低限譲歩できる条件だ。これが守れるならいいだろう。」
とのことだった。確かに社長ではあるが親でもあるので、子供の考えはできる限り聞いてあげたいものなのだ。なんやかんや1人娘に甘く、1週間が寂しさの限界であった両親であった。
「わかりましたわ。それでつける人というのは?」
と彼女が尋ねると、
「うーん、真紀は誰がいい?」
と逆に尋ね返した。それに対して、
「では、雪さんでお願いします。」
と答えた。それに対して父は、
「いいだろう。」
と了承した。雪さんとは部長である柴田雪さんのことだ。彼女は昔から我が家に仕えてくれている家で、メガネをかけた優しいお姉さんと言った感じだが、家事などそつなくできて空手の段持ちだ。なので、よほどのことがない限り大丈夫だと思われたのだろう。
「家などはこちらで見繕っておく。彼女には真紀から伝えてやってくれ。」
と言われた。
「ありがとうございます。それでは学校に行ってきますわ。」
と言って席を立った。
そうして私は学校に向かった。
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