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人生管理権  作者: 道明寺大
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権利の性質

「あの、疑問に思うことがいくつかあるんです」


深夜の六王橋。昨晩会ったのと同じ場所。僕と本田さんはベンチに座って、「話」を続行している。


「どうして本田さんは、人生は権利だと思いついたんですか。あと本田さんのお話と神との関係もよくわからないんです。どうして値するとかしないとかの話になるのかが、あんまり...」


僕は本田さんの「話」のなかでわからなかったことや、これから聞いてみたいことなど、出発前にメモしてきていた。なかでも神についての疑問は一番大きいものだった。最初に自分は宗教勧誘のようなことをやっているといっておきながら、神を信じる者は自分の話を聞くに値しないとかいう。ここが、しっくりこないのだ。


「値しないというのは言い過ぎだったかしら。でも、そういう存在を前提としている人は、仮に私の話を理解したとしても、何一つ救われることはないと思うのよ」


「どういうことですか」


「ひとつづつ、説明していくわ」

本田さんはそういうと一息ついて、ペットボトルに口をつけた。僕もつられて水を飲む。ちなみに今日はきちんと持参した。


「瀬川くん、人権ってわかるわよね」


「人が生まれながらに持っている権利、ということは知っています」


「その人権の概念は、別に大昔からあったわけじゃないのね。近世以降に欧州の人たちが考え出したものなの」


「はい」


「それより前に生まれた人には、人権なんてなかったわけ。それが、概念が生み出されてからは、人は生まれながらに人権という権利を持っているということにされた。さて、じゃあその人権は、誰が与えたものなのかしら?発見した欧州人達かしら?」


「それは違うでしょう。彼らはただ概念を生み出しただけで。人々に人権を与えたわけでは.」


「じゃあ、誰が?」


「…神?」


「あら、数百年前に人が生まれながらに権利を持っているという『ことにした』のは人間たちよ。もし神が与えたのだとしたら、それはその当時の人間の決定に従って神が与えたということになるわね。神って、そんなに人間に従順なのかしら」


「じゃあ、誰が与えたんですか」


「誰も与えてなんかいないのよ。人が生まれたら、心臓が備わっているのと同じ感じで、誰に与えられるでもなく当然に備わってくることになっている権利、それが人権」


本田さんはここでまたお茶を飲んだ。まだまだ話の先は見えない。


「それでね、私は、私の提唱する人生の所有権も、人権と同じように、生まれると同時に当然に備わるものだと考えているわけ。誰に与えられるでもなくてね」


「なるほど」


「ところが、神とか、何であれそういう上位の存在を信望する人の多くは、自分の人生は神から与えられたものだと言って譲らないの。人権が神に由来しないという議論にも、人生を所有する権利があるという議論にも賛同してくれるようなそんな人でも、その所有権が神によって付与されたのだということは譲らない。人生所有権が本来的に人間自身に帰属するということを理解してもらえないと、私の話には何の意味もないの」


「ち、ちょっと休憩いいですか。今までのとこを一回整理したくて。すみません」


お話をいったん止めてもらい、内容をメモに整理する。こういう過程をおろそかにしてはいけないのだ。今なんの議論をしているか、どんな論理展開かをしっかりわかっておかないまま情報をいれ続けていると、いつかぷっつりと内容が入ってこなくなるときがくる。そしてそうなったときには、自分がどこでわからなくなったのかさえ、わからなくなっているのだ。


メモをとりながら、本田さん自身のことにも考えを巡らせる。言葉遣い、口から飛び出す単語からは、教養の高い人物であることがうかがえる。この人は何者で、どんな人生を「所有」してきたのだろう。その質問を今ぶちこむのはさすがに野暮だから、明日か明後日用の質問メモにでも書き留めておこう。












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