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人生管理権  作者: 道明寺大
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大学1

眠い。非常に眠い。僕は今、大学の授業の2限目を受講中だ。昨日はずっと橋で本田さんと話していたから、一睡もしていない。


そもそも、いったん死のうと決意した人間が、決行できなかったからといって、翌日授業に出席するというのは妙ではないか。普通、今更授業なんてバカらしいとサボるだろう。だが、どうも僕はそういうことができないタチなのである。生きている大学生である以上、授業には出るのが当たり前だというか、そんなふうに考えてしまう。


2限目は言語学の授業だ。1限目の生物学とちがって、わりと得意分野だからか、完徹をキメた脳みそでもなんとか教授の話は理解できている。気がする。


「では、今からペアをつくって、今例にあげたのとは別の否定極性アイテムをできるだけたくさん考えてみなさい」


教授が唐突にそんなことを言い出した。大学にはやたらペアを作らせたがる先生がいる。まわりの生徒はさっさと組んでいくが、やはりというか僕はあぶれる。結局、すみのほうに座っていた小柄な女生徒と組むことになった。


「あ、瀬川です、よろしく」

形式化された当たり障りのないあいさつ。


「夏川です」

女生徒もかわいらしい声で返してくる。笑顔もわすれず。


非常に勝手な意見だが、こういう人間があぶれているのはどうも意外だった。可憐で、自然に笑顔もみせられるような少女が。というか、記憶が正しければ、4月ごろこの女生徒はほかの女学生をひきつれていたような気がするのだが。



「『一ミリも怖くない』の『一ミリ』とかも多分否定極性をもっているんじゃないですかね?『一ミリ怖い』とか言わないし。『少しも』とか『ちっとも』とかも同じ」


あぶれもの同士のペアワークはずっと沈黙が続くという地獄の様相を呈することがある。その地獄に耐えるくらいなら、僕は先にしゃべりだす役目を買って出る。


「確かにそうだね!瀬川くんすごい!」


なんというか、こういう女子でもあぶれてしまうとは、世知辛い世の中である。



授業はその後も順調に進んだ。眠気が完全に僕を打ち負かしてしまうことはなかったし、夏川さんとのペアワークが特段ギクシャクすることもなかった。昼の12時ちょうど、同じペアで来週までにやってくるようにとの指示で課題がだされ、授業は無事終了した。


「おつかれさま。今もう課題仕上げてしまわない?」

夏川さんから意外なおさそい。確かにこういうのは、連絡先を交換して後からお互いの都合をあわせてどうのこうのやるより、授業の直後に終わらせたほうが楽なのである。


「あーそうっすね。このまま席でやってしまおっか」

誘いにのって課題にとりかかった。分量はA3のプリント1枚。各自埋められそうな枠はそれぞれ埋めてゆく。最後に残った2問はちょっと相談して、しっくりきた答えを書き込む。15分ほどで枠はすべて埋まった。


「おつかれした」

僕はそういうと、そそくさと荷物をまとめだした。今日は授業は午前だけの曜日だ。さっさと帰って睡眠をとろう。今夜も出かけるのだから、それまでにできるだけたっぷりと。


「おつかれ!ところで瀬川くん、顔色悪くない?大丈夫?」


「あーちょっと寝不足で」


「そっかー。私、いい先生知ってるけど、不眠症とかなら紹介するよ?」


「いや、昨日はたまたまだから大丈夫。それじゃ、また」




昨日本田さんに会わなかったら、今日の女生徒との会話もなかったのかと、すこししみじみ思いながら、帰路についた。









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