三章 知らぬが仏
「それは興味深い仮説ですね。王女自ら戦争を引き起こそうとしてる……何故そう思われたんですか?」
ダンが笑顔でフランに質問するが、その冷静さが場を緊張感で包み込む。
「戦争が起きた時点で違和感を感じたのがはじまりです。会議が行われているにも関わらず、各国に暗殺者を送る、しかも騎士団長命令となれば不自然に思わない方が不思議だと思いますけど」
フランはその緊張感を全く気にすることなく淡々と答え始めた。
「国際的な会議中にいくら騎士団長とはいえ、国際問題になりかねない指示を単独で出せるわけないですから……」
「それはどうでしょうか……失礼ですが我が国の騎士団は他国の騎士団よりかなり強い権限を頂いております。
単独で指示も不可能ではありませんよ?」
フランの質問にダンは変わらず笑顔で答える。
「それは嘘ですね、ノクターナルの結界を出入りするのは王女が自ら作られた魔法石が必須。
勝手に解読した事は謝りますが、間違いなくこの部屋に残された微量な魔力とラルカさんの持っている魔法石の魔力が一致してますから。……何故そのような魔法石を何も知らない王女様は作られたのでしょう?」
そしてフランは真面目な顔になり、背伸びをしていきなりダンの胸ぐらを掴んだ。
「他にも色々言いたいことはありますが……
下手に話を誤魔化してバルトさんの善意に漬け込み危険な目に合わせる気でしたら……今すぐ私が貴方を殺します。
そもそもノクターナルの王女は人間じゃないでしょ?」
「お、おい!フラン、落ち着けって!」
いきなりの展開にバルトは急いでフランの手をダンから引き剥がし、抱き抱えた。
「悪いが、俺には話が全く見えない。頼むから分かるように説明してくれ!」
バルト達は早すぎる展開についていけず、フランとダンに説明するようにお願いした。
すると、ダンは深く頭を下げバルト達へ謝った。
「招いておいて、このような無礼をはたらいてしまい申し訳ありません。
しかし、簡単にフランさんの考えを認めることは出来なかったんです……何故なら全てを話をしてしまえば、確実に貴方達をノクターナルの闇に巻き込んでしまう。
聞いて気持ちの良い話ではありませんし、バルトさん達には何も知られずに協力して頂きたかったのです」
そう言うとダンは頭をあげ、バルトに近づいた。
「しかし、こうなった以上隠しながら話を進めるのは難しいようです。都合が良いと思われるかも知れませんが、聞いて頂けま……」
「いやいやいや!そんな闇に引きずり込むなよ!
悪いがこの話はなしだ!」
バルトはダンの話を遮り断った。
「俺達はあくまで戦争を止めにきただけだ。それをノクターナルの闇を知るだとか、王女がかなりの訳ありだとか、そこまで踏み込む気はない。
それに想像以上に危険度が上がる以上、俺のパーティーを巻き込むわけにはいかない」
いくら報酬が魅力的でも、バルトは自分の欲望の為に他国の暗部に仲間を巻き込むことは出来なかった。
「……適切な判断です。真実を隠して助けてもらおうとしたことを謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした。今から結界の外までお送りさせますので、こちらへ」
ダンは意外にもあっさり諦めると再び頭を下げ、バルト達を城の外に案内した。
城の外に出ると馬車が用意されていて、バルト達は馬車に乗り込む。
すると、ラルカが走りながら近づいてきた。
「バルトさん……本当に助けてはもらえないでしょうか?私も詳しい話は分かりませんが……私達だけでは恐らく解決出来ないレベルなんだと思うんです……御礼なら私の出来ることならなんでもします!」
ラルカは一生懸命バルトを説得しようと必死に引き留めようとする。
「どうするの?バルト」
クリスが気まずそうにバルトに尋ねた。
「魅力的なお願いだが、無理なものは無理だ。むしろ戦争を止めにきたら、王女自ら引き起こしてるような狂った国のいざこざに巻き込まれてられるか。さっさと出してくれ」
バルトはラルカの方を一切見ずに運転手に合図を出し、馬車を走らせ始めた。
車内には気まずい空気が流れる。
『バルト、ラルカに変な希望を持たせないようにしたいのは分かるけど、少し言い方は考えなよ』
シトリーがため息をつきながらバルトに話しかけてきた。
『あれくらい言わないと、諦めつかないだろ。優しくしたところで、相手が辛くなるだけだ』
バルトは窓から外を眺めながら、フランに頭の中で答えた。
「フラン、さっきの王女が人間じゃないってどういうこと?」
リリィがフランに質問する。
「それが私も正確にはよく分からなくて……王女の魔力の波長がシトリーさんの波長とかなり似てるんですよ。
詳しく話すとややこしくなるんで簡単に説明すると、この世界の魔法じゃない魔法が使われてるんです」
「シトリーと?てことは……魔界からきたって話になるのか?」
「そのはずですが……騎士団長は間違いなくこの世界の魔法の波長を持ってますし……兄妹なら王女は人間のはずです」
「私も全くもって理解が追い付かない……相当やばいことだけは分かるけどね」
クリスがため息をつきながら、首を横に振った。
「真実を知ってるのは恐らくダンと一部の人間だけだろうな……」
キーッ!
全員が考え込んでいると、凄まじいブレーキ音と共にいなきり馬車が止まった。
「な、なんですの!?って、ラルカさん!?」
ハンナが窓から顔出すと、ラルカが馬車の前に立ちふさがっている。
「まじかよ……あれだけやっても駄目か……」
バルトは頭を抱えながら、馬車の外に出た。




