一章 鬼感
「思ったより事態は深刻かもね……」
クリスが顎に手を当てながら難しそうな顔をした。
ラルカはノクターナルの騎士団員で、ノクターナルの騎士団の団長命令で俺達を暗殺しに来たらしい。
つまりそれは、わざと間違った情報を流して少しでも女王サイドの味方を減らそうとしている人間がノクターナル内部にいるということだ。
「味方が一枚岩じゃないのは穏やかじゃないわね。団長が騙されているのか、黒幕なのかも今の状況じゃ分からないし」
「団長はそんな人じゃありません!女王様の実のお兄様なんです。そんな事があるはずありません」
リリィの言葉を遮るように、ラルカは大声を上げた。
「ラルカ、落ち着け。俺達はそんな事情は知らなかったし、可能性の話をしていただけだ」
「……いきなり大声を出してしまってすみません……ただ本当にそれだけはないと思います」
そう言うとラルカはバルトを真っ直ぐな瞳で見つめ返した。
その瞳からもかなり団長と女王様を信じているのが伝わってくる。
「まぁ、俺達がとりあえず敵じゃなくて味方って事が分かっただけでも良かったじゃないか。
後の事はとりあえずノクターナルに行ってから考えよう」
「えっ!こんな酷いことをしたのに、私たちの国に来てくれるのですか?」
ラルカは驚いた表情でバルトに詰め寄る。
そんなに胸がある方ではないが、あまりの近さにバルトの体にもろに当たっていた。
「べ、別にそんな大した事じゃないだろ。依頼に支障が出るような話でもないし、俺達には俺達の目的もあるしな」
バルトがそこから動かずにラルカの胸の感触を楽しんでいると頭の中にシトリーの声が鳴り響いた。
『バルト、フランが凄いスピードで近づいてきてる』
『なん……だと……』
「と、とにかくラルカの国のお姫様は俺達が守るから心配するな」
そう言いながらわざとらしくバルトはラルカを引き剥がすと同時に、フランが家に凄まじいスピードで入ってくる。
「あら、何だか嫌な気配を感じたから来たんですけど気のせいでした?」
フランは明らかに疑いの眼差しを奥に秘めながらバルトに質問する。
「ん?フランちゃん?何かあったのかい?」
バルトは焦らず、冷静を装いながらフランの質問に答える。証拠がない今、バルト有利に変わりはないのだ。
「何だか嫌な予感がしまして……今でさえ多いのにこれ以上ハーレム形成されたら困りますから。このお方はどなたです?」
フランも負けじと笑顔で冷静に答える。
「こ、この人はラルカさん!ノクターナルから来た人でね、色々あって少しお話を聞かせてもらってるんだ」
「師匠、心配しないで。バルトは胸の事になると見境がないの。ラルカだけに関わらず触れる胸は触る主義だから。特別珍しい話ではないわ」
「あら?お話を聞いていただけだと言ってましたよ?バルトさん、説明して頂けますか?」
笑顔だが明らかに怒っているフランに見つめられ、バルトの汗は異常な量流れている。
「バルトさん汗がひどいですよ?何かやましいことでもあるのでしょうか?会話していたのに、ラルカさんの胸の話が出てきたので不思議に思い質問しているだけですよ?」
フランは淡々と質問しながらバルトに近づき、追い詰めていく。
「いや、それは……そう!話に集中していたラルカの胸がたまたま当たっていたから、むしろ俺はスマートにラルカを避けてですね……」
「だいぶ避けるまで時間があったけどね」
バルトが必死に言い訳をしていると、クリスが余計な情報を追加してきた。
「そ、そんなに急に避けたらラルカを避けてるみたいで失礼だろ!フランちゃんだって人にいきなり避けられたら悲しくないか?」
「まぁ、確かに一理ありますし今回は不問にしますが……バルトさん、今日からは私が、妻である私が常に側にいることを理解した行動をお願いしますね?」
どうしていいか分からず困っているラルカをみかねて、フランの尋問は終了したが最後まで目の奥が笑っていなかった。
「師匠も合流したことだし、流れを師匠に説明した後で明日からの動きを決めていったら?状況的にあまり出発まで時間をかける余裕はないと思うわ」
「お前っ!……まぁ、確かにその通りだ。明日からの大まかな流れの話に入るぞ」
バルトはフランに怒られる原因を作ったリリィを睨む。すると、リリィはわざとらしくフランの頭をなで、バルトに軽く舌を出した。
明日からの流れを話す中で、出発を前にノクターナルまでの経路についてラルカに確認すると、かなり短縮させることが可能だと分かった。
「やっぱり現地の人がいると助かりますわね。食糧も2人増えて買い足す予定でしたが、足りそうですわ」
ハンナがホッとした様子で胸を撫で下ろす。
前回のギルドから報酬が出てるとは言え、何があるか分からない以上あまり使いたくないのだろう。
ちなみにギルドの報酬は半分はパーティー運営費でハンナが管理している。
「とりあえず明日も忙しくなるし、今日は早めに休むぞ。ラルカは空いている部屋を好きに使ってくれ、ベッドはどの部屋にも置いてある」
バルトはアクビをしながら、リビングから出ていこうとした。
「バルトさん!本当に良いんですか?今回みたいに命の危険があるかも知れないんですよ?詳しくは話せませんが……今のノクターナルは最低な状況です」
ラルカが悔しそうに下を向きながらバルトに尋ねる。
「んー、いいんじゃないか?俺らそこそこ強いし」
バルトはそれだけ言うと、部屋からあっさり出ていってしまった。
「そんなあっさり……本当に危ないのに……」
「そんなに重く受け止めないでよ。僕たちも目的があるから行くんだし。とにかく今日はもう寝るよ」
クリス達も何事もなかったように部屋から続々と出ていってしまった。
「あの……皆さん……本当に……」
「ラルカさん、ノクターナルについて先程調べましたが私達のパーティーの強さは、少く見積もっても騎士団幹部の皆様に匹敵する位でした。なので安心してください!おやすみなさい」
フランも笑顔で部屋を後にした。ラルカは1人取り残され、立ち尽くす。
「……もしかして私が気付かないうちに大変な事になってない?」




