一章 レベルアップ
「服屋に何か用でもあるの?」
アイスを食べながらリリィがバルトに聞いてきた。
クリスやハンナもリリィの後ろで不思議そうにバルトを覗き込んでくる。
「この前の逃亡生活中にミルコさんとフランちゃんには世話になったから、2人には何か送ろうかと思ってさ。
ミルコさんには酒、フランちゃんには洋服でもプレゼントしたらどうかなって」
「確かにお二方がいませんでしたら、こんなに簡単にはいかなかったですものね!大賛成です!
それに服屋さんなんて久しぶりなので楽しみですし!」
「僕も服を買いたいと思ってたし、ちょうど良かった。そろそろ次のレベルにしたかったんだ」
クリスとハンナがはしゃいでいるが、リリィはつまらなさそうに少し離れて歩いていた。
普段の行動から想像はつくが、一応バルトはリリィに聞いた。
「リリィは楽しみじゃないのか?」
「当たり前じゃない、私はそもそも服を着ること自体が嫌なのよ?嫌いなものを見に行くのが好きな程性癖は歪んでないわ」
ツンとした表情で、あからさまに機嫌が悪いのが伝わってきた。出来ればリリィにも楽しんでもらいたいんだけどな……
バルトは何とかその気にさせようと仕掛けてみる。
「そりゃそうか……でもさリリィって案外エロに対して幼稚だよなぁ」
「……聞き捨てならないわね。どういう意味かしら?」
リリィが少し怒りながら、バルトをジト目で睨む。
「裸=エロとかガキの発想だろ。大人はチラリズムに興奮するのが普通だけど?」
「チラリズム?」
「見えそうで見えないところにエロさを感じる事だよ。だって見えたらゴールだろ?ゴールまでの過程をゆっくり楽しむのが大人の楽しみだろ」
「それは……確かに一理あるかも……」
リリィが少し考え込むように、下を向く。後もう一押しだな……バルトは一気に畳み掛ける。
「あ!あの子エロいなぁ……声かけてこようかなぁ……」
バルトはミニスカートを履いた子が横を通り過ぎるタイミングでリリィに聞こえるように、わざと独り言を言った。
「バ、バルト!早く服屋さんに行きましょう。私はチラリズムを極めるわ」
リリィは一気に興奮した様子で、バルトの手を引き小走りで走り出した。
「本気で言ってるの?」
クリス達が驚いた顔でバルトを見つめる。
服屋に着き、バルトが店主に言った一言があまりの衝撃でハンナとリリィは口を開けて固まっていた。
「本気だ、ここの支払いは俺が全て払う。いつも頑張ってるお前達への、俺からのプレゼントだ」
「それは凄い嬉しいんだけどさ、一番安い服でいくらか分かる?」
クリスが心配そうにしながら、バルトに尋ねる。
「金貨5枚位だろ?金額は気にしなくていいから、選んでくれ。俺はフランちゃんの服を選んでくる」
「気にしないでって言われても……あ!ちょっとバルト君!」
そう言うと、バルトはフランの服を選ぶ為に子供服売り場に移動した。クリスが驚くのも無理はない。
この世界で服はかなりの高級品だ。
この世界で服は所謂装備扱いなのだ。
もちろん防具をつけるやつもいるが役割によっては軽量化の為何も着けない人もいる。
服には様々な特殊効果が糸に魔法で練り込まれ、性能が良いもの程高い。
ちなみに、どんなに安くても浄化という機能は必ず付いていて汚れ等が一切つかない仕様になっている。
異世界物を前世で読んでいた時に、『こいつらいつも同じ服着てるけど臭くないのか?』と疑問に思っていた事が、実際自分が転生して解決した時は少し感動した位だ。
「どれにしようかなぁ……子供だけど、俺よりしっかりしてる位だからなぁ。可愛すぎるのは微妙か……」
バルトは子供服売場の前で色々と手に取り、見比べる。
色的に白っぽいのが似合う気がするけど……あえての黒ってのもフランの魅力を引き出す気がする……
色々と見たがどれもしっくりくるものがなく、店内を適当に見回すとマネキンが着ていたワンピースが目に止まった。
真っ白なレース生地に、真ん中に大きな黒のリボンが付いているデザインで見るからに高そうである。
「これ良さそうだな……いくら位す……うっ!……」
バルトが何気なく近づき、値札を見るととんでもない数字が書いてあった。
【金貨850枚 効果:能力向上特大】
あまりの高さにバルトは、後退りする。
確かに効果を考えると妥当な価格だが……流石にこれは……
バルトは値札から手をもどそうとしたが、少し考えそのワンピースを手に取った。
本来フランからもらった剣を考えると、こんなお返し位では全然足りないのだ。
ここでケチる様では、流石に人として何かを失う気がする。
それに誰にも言ってないが、バルトは今かなりの金貨を持っている。
何故なら使い魔を契約したバルトは召喚士としてもギルドと契約したからだ。
そして使い魔は召喚士とは別にギルドと契約する仕組みになっていて、使い魔とギルドは年間契約をする。
使い魔が強い程契約金は上がり、シトリーの契約金は金貨3000枚だったのだ。
シトリーに全て渡すと言ったのだか、使い魔にしてくれた謝礼にバルトに全額渡すと言われ、断りきれずバルトは受け取った。
サキュバス店に行けなくなった今、今後出会うエロスの為に取っておいても良いのだが……
流石にシトリーの件はハンナ達にも世話になったこともあり、半分程度はハンナ達へ返そうと思ったのだ。
「店主、これをくれ」
バルトはフランのワンピースを店主に渡した。
「バルト様、ちょうど皆様もお決まりになったところです」
店主にそう言われ、ハンナ達を見ると新しい服に着替えて鏡で合わせていた。
ハンナは以前の露出狂みたいなシスター服ではなく、普通のシスター服を着ている。
「あ!バルトさんどうですか?」
ハンナは嬉しそうにバルトに駆け寄ってきた。
「良いんじゃないか?前みたいに変な……」
バルトが誉めようとしたが、あまりの衝撃に言葉を失ってしまった。
ハンナがくるりと回ると、背中が空いていて軽く尻がみえている。
しかも胸元にはチャックが縦に付いていて、空けると大事な所ギリギリまで胸が見えているではないか。
ハンナは露出狂から痴女にランクアップしていた。
「バルト君、僕のはどうかな?」
衝撃で頭が回らないまま、クリスを見ると真っ赤なゴスロリのドレスを着ていた。
まぁ、これなら変わらないか……と思って良く見ると赤のドレスではなかったのだ。
真っ白なドレスが血で染まった様なデザインで、所々に白の生地が目に入る。
クリスはメンヘラからヤンデレにランクアップしていた。
「バルト、私はチラリズムをマスターしたわ」
絶対に理解してないことは分かりながら、バルトは死んだ魚の目でリリィの方を見る。
そこには真っ黒な包帯を大事な所に適当に巻いたローブを来たヤバい奴が立っていた。
リリィも無事変態からただのヤバイ奴にランクアップしていた。
「いやー効果は凄いのですが、なかなか着こなせる方がいなくて困っていた商品達ばかり選んで頂けるとは!流石ケルベロスの方々です!お会計は金貨3000枚にぴったりにまけておきます」
店主がバルトに嬉しそうに笑いかける。
「こいつら強いけど、ヤバい奴だってこと忘れてた……」
バルトは笑いながら一筋の涙を流した。




