五章 人形の主張
「やれるもんならやってみろ!」
ネヴィルはシトリーがいた方向に体の向きを変えて、剣を構えた。
「あ?何処に行きやがった?」
ネヴィルはシトリーを見失い辺りを見回す。
「ネ、ネヴィル……手……手が……」
ナナが真っ青な顔でネヴィルを指差した。
「手?手がなんだよ……いっ……痛えぇぇぇ!」
ネヴィルの手首から大量の血が垂れ落ち、左手は床に転がっていた。
「遅すぎだよ、お前本当に勇者?」
ネヴィルの後ろから、シトリーが汚物を見るような目で睨み付ける。
「話が全然違うじゃねぇか!魔王は動かないって話から、多少の知能があるけど雑魚って話になって……こんなの勝てるわけねぇだろ!」
ネヴィルは必死に左手を止血しながら、わめき散らした。
「うわ……本当に性格腐ってるね……不愉快だからさっさと死んで」
シトリーが右手を大きく振り上げ、ネヴィルの中心に狙いを定める。
「おい……待てよ……頼むから殺さないでくれ!」
ネヴィルはガタガタと震えだし、シトリーに土下座をした。
「こんな勇者の姿、国民が見たら泣いちゃうよ?最後位、嘘でも勇敢な姿見せたら?」
シトリーがわざとらしい笑顔でネヴィルを見下す。
「国民なんて知らねぇよ!俺は人形を刺し殺せば英雄になれるって聞いたから、勇者になっただけだ!
俺以外どうなろうが、どうでも良いんだよ!」
「人形かぁ……人間はすぐに自分以外の生物をゴミみたいに扱うよね。違う種族を迫害したり、階級とか下らない制度で差別したり。
そのくせ、そうやって自分の事だけは必死に守る。お前らが人形と呼んでる奴らは、僕の家族なんだよ」
シトリーは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに作り笑いのような笑顔に戻った。
「僕は人間と同じ事をしてるだけさ。君達が僕らを無理やり召喚してるのと一緒だよ。僕はお前等全ての国民を魔物にするんだ」
「そんなこと知らねぇよ!俺は英雄になりたかっただけなんだ!頼むから見逃してくれよ」
シトリーの足にしがみつき、ネヴィルは懇願する。
「はぁ……汚いから触らないで」
シトリーはネヴィルに狙いを定め右手を振り下ろした。
「それは、負のサイクルだ。辞めた方が良い」
ネヴィルとシトリーの間にキースが割り込み、シトリーの攻撃を受け止める。
「あれ?少し遊び過ぎたかな?」
シトリーが倒れているカシウスを横目で見る。
バルトの指示で、カシウスにはハンナが回復魔法をかけ、何とか一命は取り留めていた。
「負のサイクルって言うけど、君たちは滅びるんだから続かないんじゃないかな?やるだけやって、私達にはやらないでくださいって、都合良すぎじゃない?」
「それは、重々承知だ。許されるわけではないが、国を上げて謝罪させてもらう」
「謝んなら最初からやるなよ」
シトリーはキースもろともネヴィルを蹴り飛ばす。
2人は一瞬で壁まで飛ばされ、壁にめり込んだ。
「キース!」
バルトが思わず叫んだ。
「バルト、心配するな…… 」
キースはゆっくり立ち上がり、気絶しているネヴィルを壁から引きずり出す。
「シトリー、私も君の……」
「気持ちは分かるって?分かったから何?そこからどうするかは僕が決めることで、君が決めることじゃない……もう、めんどくさいから全員死んでよ」
シトリーは躊躇することなく、バルト達の頭上に大量の氷の刃を出現させた。
「これはこっちの世界の魔法じゃないからね。防御魔法は効かないよ。バイバイ!」
シトリーは笑顔でバルトにわざとらしく手を振る。氷の刃が一斉に降り注ぎ、部屋中煙が立ち込めた。
「対策済みですわ。何度も同じミスはしません」
ハンナは大型のドーム型防御魔法を展開し、シトリーの魔法を全て防いでいた。
「あれ?中々高度な魔法を使う子がいるんだね。これは僕も予想外だ」
シトリーは本当に驚いた表情で、ハンナを見る。
「異種異例には悔しい思いをいたしましたから。風のゆりかごの上位互換、風の要塞を覚えましたの。
この防御魔法は、魔法なら種類問わず絶対に攻撃を通しません。バルトさん、私偉いですか?」
ハンナはどや顔をしながら、バルトの目を見つめる。
いつもと変わらぬハンナを見て、バルトは思わず笑った。バルトを元気付けようとして、わざといつもの振る舞いをしたのだろう。
「偉いに決まってるだろ、何でもご褒美あげてやる。
魔王様は、やられた分やり返す気みたいだからな。こっちもやられた分やり返すぞ」
バルトは剣を構え直し、シトリーへ剣先を向け一言呟いた。
「全知無能」




