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一章 初級魔法の可能性

「ヒール!」


 バルトは殴られた箇所をフランに回復魔法をかけてもらっていた。その横では、顔がぼこぼこになっている店主が正座をしている。


「フラン……父さんにも魔法を……」


「なんでバルトさん殴るような人に回復魔法をかけなくてはいけないのですか?」


「いや、それはだから演技で仕方なく……」


「殴る振りだって出来ますよね?」


「あの時はそんな余裕もなくて……」


 店主がバルトに助けの表情を向ける


「フランちゃん、とりあえず俺は平気だから許してあげてよ。提案したのは俺なんだし」


「バルトさんが言うなら仕方ないですが……」


 少し不満そうにしながらも、フランは店主にヒールをかけ始めた。


 なぜこんな状況になっているか…それは俺がさっきの事件後、野次馬の前での出来事にさかのぼる。








「さっきのは一体……」


 店主は明らかに怒りや憎しみの感情なく、ただただ驚き俺に話しかけてきた。


 それもそのはずだ。


 俺が仕掛けた一連の動きを全て正確に見ていたら、怒る理由がないのだ。しかし今は逆にそれがまずい。


 まだ勇者が近くにいるのに、変に野次馬が騒いで本当の結末がバレたら次こそ終わりだ。


 俺は自分から更に店主に近づき、周りに聞こえないように小さな声で伝える。


「娘さんは店の中に転移させてます。色々聞きたいでしょうが、今はこの状況を下手に壊したくない。詳しい話を聞きたいなら俺を殴ってください」


「そんなことっ……」


「子供を傷つけたバカに加担したやつと、仲良く店に入る親はいませんよ……早く!」


「……分かりました」


 店主のフルスイングがバルトにクリティカルヒットし、バルトは見事にぶっ飛び地面に倒れこんだ。


 野次馬からは歓声が飛び、店主はバルトを抱えようとした。


「抱えず、引きずってください。最後まで自然に……」


 バルトが小さな声で指示する。


 店主は辛そうな顔をしながら、バルトの首もとを掴み引きずりながら店に運び始めた。こんなに優しい人なら、助けて良かったと心から思える。


 店主は引きずりながら店の中にバルトを運びいれると、すぐにバルトに土下座をした。


「本当に殴ってしまってすまなかった。そして本当にありがとう」


「ちょっ……頭を上げてください!そもそも殴るようにお願いしたのは俺だし、勝手に首を突っ込んだだけですから」


「それでも、君に私たちが救われたことに変わりない!君がいなかったらどうなっていたことか……本当に感謝してもしきれないよ」


「気にしないでください。今回は、たまたま上手くいっただけで…」


「君はどこまでも謙虚な人間だな……それよりこんな入口ですまなかった。奥に案内しよう」


 そういうと店主は立ち上がり、座り込んでいたバルトを引き上げた。


「お父さん!!」


 バルトが立ち上がり移動をしようとした時、奥の部屋からフランが出てきた。フランは今にも泣きそうな顔をしてこっちを見ている。


 薄茶色の長い髪で、大きな目に通った鼻は確実に将来モテるであろう。


 おそらく8歳位だろうか?フランの白のワンピースが汚れずにすんで本当に良かったと思う。


「フラン!さぁおいで!」


 店主もフランを見て安心したのか、泣きながら手を広げた。


 感動の再開。


 こればかりは何者にも邪魔は出来ないな……思う存分二人で……


「糞親父!恥知らずのゴミ糞野郎!」


 そうそう……まずは罵声から……え?


 フランがそう叫んだ瞬間、店内にある武器を片っ端から店主に投げ始めた。


「えっ?フラン?いや!まじで危ないから!痛い!洒落にならっ……痛いっ!」


 みるみるうちに店主に投げられた武器がクリーンヒットしていく。


「なんでお兄さんを殴るの!?命の恩人なんだよ!」


「いや、フランそれは分かって…痛いっ!き、君!せつめ、説明して、痛いっ!頼む!助けてくれ!」


 店主にたんこぶやら、青アザが増えていくのをなにも出来ずに眺めていた俺に、店主は泣きついてきた。


「フ、フランちゃん?一旦落ち着こうか?お兄さんのお願いだ!駄目かな?」


「はい」


 フランはまるでロボットのように動きを止め、バルトの方を向くと駆け寄ってきた。


「まずはお兄さんの傷を治すのが先でした!お父さんはそのあと殴ります!」


「…………」


 見た目によらず、たくましい。



「こんなに腫れてしまって……大丈夫ですか?えーっと……」


「俺の名前はバルトだよ。フランちゃんが、無事で安心したよ」


「それもこれもバルトさんのおかげです!ありがとうございました!」


「どういたしまして。それで可愛いお嬢さんが傷を治してくれるのかな?」


「そんな……可愛いだなんて……」


 フランは少し恥ずかしそうに下を向いた。


「では失礼します。大地の力よ…彼に癒しの力を………ヒール!」





 そして今にいたる。


「それで出来れば、一体どうやったのか説明してくれると嬉しいのだけど、話してくれるかい?」


 店主がフランにヒールをかけてもらいながら、バルトに尋ねた。


「えーっと……どこから話そうかな……とりあえず俺の特性を話しておきますね。俺は全属性の魔法が使えます」


「全属性!?」


 店主とフランが驚きの声をあげる。


「はい。ただ使えるのは残念ながら全て初級レベルの魔法のみです。だからそんなこ大したことはないんですよ」


「そうは言ってもそれだけの才能がある人は中々いない。むしろ全属性なんて世界で君だけじゃないか?」


「それはそうですが…でも本当に大したことないんです。

 実際何をするにしても役にたつのは中級レベルからですし。器用貧乏ってやつです」


 バルトはそう言って苦笑いをした。


 全ての属性魔法が使えるからって、何か特別なことが出来るわけではないのは自分がよく分かっている。


「話を戻しますね。そこで、俺なりに考えて組み合わせ次第ではあの状況をなんとか出来るんじゃないかと思って作戦を実行しました」


「そういう事だったのか……これで私が見せられた一連の流れがなんとなくだが、理解できたよ」


 店主が少し笑いながら頷いた。


「なら話は早いですね。知っての通りフランちゃんをテレポートさせて、代わりの人形を作り誤魔化したって話です」


「出来れば、仕組みも含め詳しく説明してくれないか?正直考えても分からないところがいくつかあってね」


 店主はまるで謎解きの答えを聞くような、期待の眼差しでバルトに尋ねた。


「分かりました。まず俺はフランちゃんに近づき、念話で今からテレポートを使うことを話しました」


「君は念話も使えるのか!いや、待てよ……念話は中級レベルじゃないのか?君の話では確か初級レベルの魔法しかつかえないはずでは……」


「確かに念話は中級レベルですが、それは不特定多数に伝えることができて、中級です。俺のは一人にしか伝えられませんから、初級扱いです」


 念話。


 言葉を使わず相手に魔力を使い意思を伝える魔法で、戦場などで良く使われる魔法だ。


 テレパシーみたいなもので、念話を使える冒険者は重宝される。

 しかし、それはさっきの話位使えるからであって、俺みたいなレベルは全く需要がない。


「話を続けますね。ここからはとりあえず一気に説明します。」


「おっと……年甲斐もなく興奮のあまり、口を挟んでしまってすまないね」


 店主は少し恥ずかしそうに笑った。


「じゃあここからは一気に……

 まず風魔法で一帯につむじ風を起こし目撃者全員を目眩まし、そこでフランちゃんを無属性魔法で転移。

 転移したタイミングで土魔法で人形作成、そして勇者に切らせる。

 切らせたタイミングで、水魔法で赤く着色した水を人形から吹き出させて、風魔法で悲鳴のような音を響かせる。

 あとは勇者にバレないように、店主へ人形を放り投げ作戦終了ってわけです」



 話を終えて店主の顔を見ると、店主は目をパチパチさせていた。


「そういう仕組みだったのか……本当に凄すぎて……なんと表現すればいいのか」


「いや、本当に思いつきで……大したことことはやってないんですよ」


「ハハハッ!君はどこまでも謙虚な男だな。だが一つだけ疑問があるんだがいいかい?」


 店主は鋭い目付きになり、バルトに尋ねた。


「私がなぜ攻撃しないと思ったんだい?私は正直一族が滅んだとしても、娘を助けるつもりだった。そうなれば君も恐らく巻き込まれていただろう」


「それは最初から心配してないです。あなたのような強い人が少しの風でフランちゃんから目を離すわけがないですから。それにあなたからフランちゃんがしっかり見えるように、そこだけ風を弱くしました」


「私が強い?」


「会話は丁寧でしたが、勇者に全く怯んでいませんでしたよね?」


「……ハッハッハ!そういうことか!君は本当に不思議な男だな」


 店主はそういって豪快に笑うと、バルトに握手を求めた。


「改めて礼を言おう。私は“武器屋”砂煙(さえん)のミルコだ。バルト君には一生かかっても返せない恩があるんだ、私にできることならなんでも言ってくれ!」


「ありがとうございます。気持ちだけ……いや、一つだけお願いしても良いですか?」


「何なりと言ってくれ!」


「短剣を買いにきたんですが、諸事情があり少し負けてもらえると助かります」


 少しでも節約すれば、サキュバス店への道が近くなる。できることからこつこつと。


 俺はまだ諦めたわけじゃない。


「バルト君、君ってやつは……本当に面白いやつだ!奥にいいやつがあるからついてきなさい」


 ミルコは笑いながら、奥の部屋へバルトを案内した。

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