三章 猫は大きくてもかわいい
ダンジョンは街から歩いて30分位の所にあった。
「キースさんがおっしゃった通りかなり異質なダンジョンですわね」
ダンジョンの前に着き、ハンナがバルト達の体に簡易的なシールドを張りながら話す。
「私の知ってる限り、上級ダンジョンは街から2週間程度かかる所にしかなかったはずですわ。それがいきなりこんな近くに出来るだなんて……」
「それに、これだけ近ければ騎士団員の失踪に何か関わっているのは間違いないでしょうね」
リリィが全員に攻撃力強化、防御力上昇、魔法異常無効をかけながら応えた。
こうして実際任務に出ると、パーティーバランスも良いし、各自の能力も高い事にバルトは改めて気付かされる。
「私自身の強化方法は服を脱がないとかけられないから、脱ぐわ」
「リリィ、汚いものは隠しておくのが社会の常識でしてよ?」
「……だからハンナは心をいつも隠しているのね?」
「リリィ、喧嘩なら買いますよ?」
「はは!リリィもいたいとこを突くよね」
「あら?クリス、あなたは色々と隠すことを覚えた方が良いわ」
「あ?二度と人前に出れないようにしようか?」
これさえなければ……
「お決まりのコントはいいから、さっさと入るぞ。クリアまで、何日かかるか分からないんだから」
本来大抵のダンジョンは入口に達成条件が書かれているため、大体の攻略日数は計算できるのだが今回はそれが出来ない。
なぜなら、今回のダンジョンは初級から上級に変化したため、達成条件が初級ダンジョンの頃のままだからだ。
【達成条件】最深部でダンジョン管理者を倒す
管理者は前回攻略時に倒されているため、今回の条件は攻略しながら探していくしかない。
地図を見る限り、何もなければ半日で最深部までいける計算なのだが……
「一応俺の空間魔法で、水と食材の補充はある程度出来る予定だが、それもダンジョンに入ってしまえば分からない。気を引き締めていくぞ」
「あ!バルト君、少し待って。キャスを召喚しちゃうから」
そういうとクリスは召喚を始める。
クリスが目を閉じ前に手を出すと、地面に魔方陣が浮かび上がった。
そこへクリスがナイフで切った血を垂らした瞬間、真っ黒な豹のような生き物が魔方陣から飛び出してきた。
ビ、ビックキャットって、こんなにデカいのか……
バルトが呆気にとられる。
「キャス、バルト君に挨拶!」
クリスがキャスに命令すると、ゆっくりバルトの方へ近づいてきた。
「お初にお目にかかります。前回は挨拶も出来ず申し訳ございません。私はキャスパリーグ、バルト様も是非キャスとお呼び下さい」
「宜しく、キャス。この前は助かったよ」
「あれ位造作もありません」
学生時代、使い魔について勉強した時殆どの使い魔は言語能力がないと習った。
そして、人と会話できるのは上位10%程だった気がする。
バルトは改めてクリスの凄さを実感した。
「優秀な使い魔で助かる。色々迷惑をかけるけど、フォローをお願いするよ」
「かしこまりました。失礼します」
そういうとキャスはクリスの横へ戻っていった。
「あと、一つ聞きたいんだけどいいかな?」
バルトがキャスに質問をした。
「使い魔って確か、魔界から召喚してたよな?キャスは魔王って知ってるのか?」
「存在は知っておりますが、見たことはありません。魔界もそれなりに広いですから……何か気になる事が?」
「純粋な疑問なんだけどさ、魔界って魔王の世界じゃないのか?」
「そう思われがちですが、事実全く違います。この世界のように色々な生物が共存している世界ですから。
ただ、魔界で一番の強さを誇るのは魔王で間違いないでしょうが……」
顔を洗いながらキャスが応えた。
こうやって見ると大きくてもやっぱり猫だな……めちゃくちゃモフりたい……
バルトのモフりたい視線に気付いたのか、キャスはウィンクをしてきた。
くっ……あざと可愛い……
「クリス、他の方への挨拶は良いのですか?」
「キャスにしては珍しいね。したいならしてきて良いよ」
「では少し失礼します」
そう言うとハンナとリリィの所にも挨拶をしに行った。
「クリス、ダンジョンに入る前に一つ良いか?」
「どうしたの?キャスなら後で好きなだけ撫でて良いよ?」
どうやら、クリスには見透かされていたらしい。
キャスの挨拶も終わり、バルト達は早速ダンジョンに入っていった。バルト達が入ると扉が閉まり真っ暗になる。
「今灯りをつけるから、待ってくれ」
バルトは水魔法で5個水の玉を作り出すと、次は光魔法で玉の中に光を閉じ込めた。
それをパーティー周りに適当に浮かして配置する。
「これ何で浮いてるの?」
リリィが不思議そうに水の玉を見つめる。
「風魔法で、玉が浮くように玉を風で被っているだけだ。別に大した魔法じゃないよ」
バルトは辺りに不審な事がないことを確認し、歩きだした
。
「とりあえず地図の通り最深部までの最短ルートで進んでいく。リリィは感知魔法を常にかけていてくれ」
「分かったわ。けど今のところ残念な事に敵の気配は全くないの」
「……前回と一緒ですわね。やはりこの前の任務と関係がありそうですわ」
ハンナの顔が険しくなる。
クリア済みのダンジョンに入って敵の気配がないのは普通だが、今回は違う。上級ダンジョンに変化したにも関わらず、敵の気配がないのだ。明らかな異質事態である。
この前と同じなら、相手もそれなりに頭を使ってくるだろう。
バルトは警戒しながら先に進むことにした。
しばらく歩くと、キャスが急にバルトに話しかけてきた。
「バルト様、少し止まって頂けますか?」
キャスがバルトの前に行き、匂いを嗅いでいる。
「この先に、魔界の生き物の匂いがします……けど何か混ざっているような……」
キャスが更に進もうとした瞬間、奥から火の玉が飛んできた。
キャスは前足で掻き消すと同時に、低く構え戦闘態勢に入る。
次の瞬間、暗闇から複数の魔物がバルト達めがけて飛び出してきた。




