三章 守る意味
キースについて歩いて行くと、ギルドの一番奥にある立派な扉の前についた。
【ギルド長室】
「ギルド長!入るぞ!」
キースがノックもせずにドアを開ける。
「キース様!言ってくださればお迎えにあがったものを!騎士団からわざわざお越しいただいて…」
見るからに小太りの中小企業社長みたいな男が急いで走ってきた。
しかも燕尾服を着ていて、バルトが想像していたギルド長とはかけ離れている。
「それにハンナ様、クリス様、リリィ様まで!…………あぁ……バルト君?もいたんだね」
ギルド長は、バルトだけをバカにするような態度をとった。
うわぁ、このおっさんもろに態度に出すなぁ……
前世での経験上、こういうやつはロクな仕事しないし、放っておけば自滅していた気がする。
確か部長もこんな感じで、最後はセクハラで左遷されたなぁ…………
バルトは可哀想な目でギルド長を見つめ、愛想笑いをした。
「君は、運だけは良いみたいだからね。せいぜい彼女達に迷惑をかけないよう精進するんだ」
バカにしても言い返せない人間だと思ったのか、ギルド長はさらにバルトをバカにする。
「ギルド長よ、お前はなぜそこまで頭が悪いんだ?」
キースがギルド長を不思議そうな顔で見つめる。
「え?キース様、いきなり何をおっしゃるんですか?」
ギルド長が少し苛立った様子でキースを見た。
「馬鹿過ぎて言われた意味も分からないのか?仕方ないから一から説明してやろう……バルトのパーティーの二つ名は知ってるか?」
「あ、当たり前じゃないですか!ケルベロスです!」
あぁ!さっきのケルベロスって俺達のパーティーの二つ名だったのか!
…………ん?確か二つ名を与えられるパーティーって相当凄かったような……ハンナ達の強さってそこまでの強さなのか!?
バルトの疑問が一つ解決して、また一つ生まれた。
「ほぅ……では何故ケルベロスと名付けられたか分かるか?」
「それは……ふっ……ハンナ様、クリス様、リリィ様の優秀な3人を表しているのです!」
ギルド長がバルトを鼻で笑いながら答える。
ギルド長よ……残念ながら、それは本当の事だから俺はなんとも思わないぞ?
バルトはあくびをした。
「やっぱり馬鹿だから分かってないじゃないか!馬鹿の癖に威張るな、馬鹿野郎!」
キースがギルド長にバカでかい声で怒鳴った。
「ケルベロスは番犬を意味する二つ名だ。番犬は何かを守るものだ。そしてその何かはバルトだ。では何故守る?」
続けて、睨み付けながらギルド長に尋ねる。
「いや……それは……弱いから?」
それを聞いてキースは深いため息をついた。
「はぁ……貴様が馬鹿過ぎてもはや悲しくなる。答えは守る価値があるからだ。
それにケルベロスは自分より弱いやつに仕えたりしない」
「そ、そうは言いますが実際この男の強さは、平均以下だと鑑定結果が出ています!国の鑑定士が、嘘をついているというのですか!」
ギルド長は好き勝手言われるのが我慢出来なかったのか、バルトを指差し大声で反論する。
「貴様の言う強さとは何だ?本当の強さとは目に見えないものではないのか?貴様は自分の父を、母を強いと思わんのか?」
「それは……バルト様大変失礼致しました」
ギルド長が、バルトの前に来て膝をついて謝罪した。
「いやいやいやいや!俺は本当に気にしてないし、弱いのは事実ですから!早く立ってください!」
バルトは慌ててギルド長を引き上げる。
「貴様は弱くないぞ!貴様は強い!」
キースがバルトを指差し、変なポーズを決めた。
「それに私が忠告しなかったら、バルトの仲間達がおそらくギルド長を半殺ししていただろう」
そういわれ、バルトが後ろを見ると3人が凄い顔でギルド長を睨んでいた。
「お前らも止めろ!俺はこんな無能そうなおやじに何を言われても平気なん……あっ……」
バルトがゆっくりギルド長の方を見ると、死んだ魚の目をしている。
「バルトよ、やはり私が見込んだ男だ!ギルド長、貴様ごときでは聞けない話をしたい。さっさと出ていけ」
キースがギルド長にとどめを刺すと、ギルド長はとぼとぼと部屋から出ていった。
「ケルベロスの諸君!座りたまえ!」
キースの方を見ると、自分の部屋のようにソファに腰掛けていた。
「おい……キースの部屋じゃないだろ。そもそも何でギルド長の部屋を使わなくちゃいけないんだよ」
バルトはソファに座りながらキースにジト目を向ける。
「このギルドだと、魔法干渉無効の結界が張ってあるのはここだけだからな」
「……そこまで警戒しなくちゃいけない話なんて聞いてないぞ。事によっては騎士団だろうが、何だろうが断るからな」
バルトの目付きが鋭くなる。
「念のための警戒だ、そう怒るな。とりあえずこの地図を見てくれ」
キースは笑いながら、一枚の紙を差し出す。
バルト達が覗き込むと迷路のようなものが書かれていた。
「これは……ダンジョンの地図かな?多分初級クラスの」
クリスが迷路を解くように、地図をなぞりながら答える。
「正解だ。君たちにはこのダンジョンを攻略して貰いたい」
「攻略?地図があるならどなたか攻略をしたのではないのですか?」
「それも正解だ。けれどまた新たなダンジョンとして復活したのだ」
ハンナの質問にキースが答えた。
ダンジョン攻略は地図を作りながら進むため、地図があるダンジョンはクリア済みを意味するのだ。
「ダンジョンは一度攻略されたら、通常復活はしないはずよ?隠さず本当の依頼を言ったら?」
話に飽きたのか、リリィが一気に核心に迫る。
「別に隠しているわけではない。だだあまりに異質、そして危険だからちゃんと説明したかっただけだ」
キースが軽く咳払いをし、バルト達の方をしっかり見た。
「初級ダンジョンが、恐らく上級ダンジョンになって復活した。その原因を探ってほしい」
「依頼の内容は分かった。だが、何故その依頼を俺達にしたんだ?」
「少し長くなるが………………」
キースはバルト達に、依頼について詳しく話し始めた。