二章 当たりのハズレ
「クリス、方角は任せる。ある程度バラバラに召喚を始めてくれ」
バルトがクリスに指示を出すと、クリスは短剣で親指を軽く切った。
使い魔の召喚には、必ず媒介として体の一部が必要になるらしい。
「3体分だと、ちょっと大きめに切らないといけないなぁ。誰か後で舐めてくれないと、痛くて召喚に集中出来ないなぁ」
クリスはわざとらしく横目でバルトを見る。
「分かった、分かった!あとでいくらでも舐めてやるから」
バルトは呆れながらクリスに答えた。
「全身ね!約束だよ!」
「真面目にやりなさい、変態!それになんで全身になっているのですか!私が後で回復魔法をかけますから、バルトさんは何もしないでいいです!」
ハンナが半ギレでクリスを注意する。
「なんでハンナが入ってくるのさ。ていうか、ビッチなのか処女キャラでいくのかそろそろはっきりしてよ。あ、召喚終わったよ」
クリスは手早く術式を構築し、作業終了したことをバルトに告げる。
「助かる。ちなみに使い魔一体の戦闘力ってどれくらいだ?」
「うーん……多分それなりの上級魔獣なら倒せる位かな」
「……え?そんなに強いの?」
「うん!うちの子めちゃくちゃ強いよ!」
これも嬉しい誤算だけど……なんかさっきから上手くいきすぎじゃないか?
少し疑問は残るが作戦が順調に進んでいることに、バルトは少しほっとした。
「次の段階に進める。リリィ、今からできるだけ間隔を開けずに矢を放ち続けてく。飛ばす方向は毎回ランダムに頼む」
「分かった。水着が擦れて痛いから終わったら水着を脱いで良い?」
「それは駄目だ。クリスの真似をするな」
「ちっ……じゃあ始めるわ」
そういうとリリィは空間魔法で作った空間に手を入れ弓と矢を4本取り出した。
そして水魔法で水を矢に纏わせ、4本一気に弾くと真上に打ち上げた。
打ち上がった矢は一瞬空中で止まると、4本バラバラの方向にすごい早さで飛んでいく。
「次いくわ」
リリィは次々と矢を放っていく。
「おいおい!そんな飛ばして制御できるのか!?」
「100本までなら可能よ。心配しないで」
まじかよ……これ本当に下位ギルドのパーティーか?
「次だ。ハンナ周りから見えなくしてくれ!」
「あの、わ、私腕が疲れましたわ!マッサージとかしてくれる人がいたら、が、頑張れるんですけど!」
「うわぁ……逆にあざとくて引くわー」
クリスがハンナをジト目で見ている。
「分かった。マッサージ位いくらでもするから、頼む」
「や、約束でしてよ!」
ハンナは嬉しそうに風のゆりかごへ魔力を一気に流し、一瞬で周りから中が見えなくなった。
これで環境は整った。
こっからは俺の仕事だ。
「よいしょっと!」
バルトは地面に手をつけ魔力を流した。
「さぁて、どこにいる?」
バルトは耳を澄ます。
しばらくすると右上の方から爆発するような大きな音が聞こえた。
「やっぱりな!ハンナ魔力を弱めて、外を見えるようにしてくれ」
「え!?はい!」
風のゆりかごが最初の状態に戻った。
「リリィ!あの右の崖めがけて、最大威力で矢を放ってくれ!」
「了解。いくわよ」
リリィは矢を一本取り出し、静かに構える。
先ほどと違って、水を纏わせず普通の矢のままだった。
弓のスピードを上げるために、水を纏わせない選択をしたのだろう。
「さよなら」
リリィが呟き、矢を放つと次の瞬間には崖が綺麗に丸くえぐりとられていた
「えぇ……」
バルトはあまりの威力に固まってしまった。
「あれ?攻撃が止んでる?」
クリスが辺りを見回している。どうやら作戦は成功したみたいだった。
「もう遠距離攻撃はこないはずだ。後は各自魔物を気を付けて討伐してくれ。俺は少し調べてくる」
これだけの実力者達なら、パーティーで動かなくても大丈夫だろう。
バルトは空間移動の魔法で、リリィが撃ち抜いた崖まで一人移動した。
「多分ここら辺にいるはずなんだけど……やっぱりな……」
バルトは半分体がえぐられている魔物を見つけた。リリィの攻撃が、体半分に当たったのだと思う。
恐らくこいつが高台から俺達を監視して、攻撃をしていた指示役だ。
「当たりだけど、はずれだな……」
バルトの予想は当たったのだが、本来なら外れてなくてはいけないのだ。
魔物は本来知能らしい知能を持たない。
群れで襲ってきたりはするが、統率がとられているわけではなく、単純に数で襲ってくるだけだ。
それが今回は、一匹の魔物が指揮をとり、作戦を立て攻撃してきたとなると、明らかに異常事態である。
「見た感じ普通の魔物だし……ん?」
バルトは魔物を軽く調べていると、気になるものを見つけた。
魔物が魔力を増幅させるために使っていた杖に、紋章が入っている。
よく見るとそれはバルトが今日持っている剣と同じ紋章だった。
「これって確か、親父が騎士団で使っていたお古を勝手に持ってきたやつだよな……」
なんで騎士団で使う武器を魔物が持ってるんだ?
たまたま倒したやつから拾った可能性もなくはないけど。
ーーーーーもしそうじゃなかったら。
「なんだか本当に胡散臭い任務だな……」
気になる事は多いが、まずは無事にギルドに帰ることだけを考えることにして、バルトはパーティーの方へ向かった。