その8
鈴露が話を始めた。
「皆さんに、ちゃんと申し上げていないことがありました。
皆さまのお力で、すでにご理解いただいている事柄もあるとは思います。
ですが、きちんと事実としてお伝えしていないこともあります」
「それは、今、皆に伝えておく必要があることなのかい? そして、一条の総意の元の行為なのかい?」
龍の問いに、言葉に詰まる鈴露。
「総意ではありません。ですが、僕が今、一条の“命”ですので」
「わかりました。聞かせていただきましょう」
龍から許可を得た鈴露は、声を絞り出すようにして話し始めた。
「一条の先の宮、一条凛には生まれつき、いわゆる“力”がありません。あるように見えていたのは、彼の父・誠が細工をしていたからです」
「そんなところでも、お得意の手品を使ってたのね…」感心する真琴。
「ですが、それにも限界がありました。だから一条誠は、多治見総研の申し出を受けたのです。他の能力者たちの力をAI化したプログラムを、一条凛に使うことを」
「つまり…」奏子が言う。「私たちが大学生の頃、誠おにいさんが紗由ちゃんに言っていた、凛くんの能力を多治見兄弟に封じ込めたというのは嘘、というか逆だったのね」
「そうです。誠は凛にAIを移植したかったのですが、凛の体はそれを受け付けませんでした。AI自体の未熟さもあったのでしょう。多治見はさらなる研究を続けるため、誠にお金を要求しました。他の“命”たちには凛のことは秘密にするからと」
「誠さんはそれを断ったんだね」翼が言う。「というか、その秘密を知っていた二人、多治見兄弟の記憶を封印しようとした」
「井戸の中で時間をかき混ぜてカムフラージュしてたというわけか」充が腕組みする。
「多治見兄弟を預かっていたのは、人質だったということ?」真里菜が尋ねた。
「多治見兄弟にはそういう自覚はなかったと思いますが、誠の意図はそちらよりだったのではと思います」
「でも、何で凛くんに力がないことを隠さなくてはいけなかったの? “命”排出家の中でも力が出てこない人はいるじゃない」不思議そうな真琴。
「確かに、力が出てこない人間は少なからずいます。ですが、出てこない理由を探られた時に、凛には不都合があったんです」
「不都合?」
「正確に言うなら、凛には力がないのではなく、力を維持するための身体を維持できない状態、生命体として活動している時間が半分程度しかなかったんです…」
「つまり…」大地が言う。「凛くんは命を落としかけた時に、うまく助からなかった。黄龍さまのお力で、体を維持するのがやっと、“命”としての力云々の話ではなかったと」
「そういうことでしたのね…」史緒が言う。「誠おにいさんは、凛くんの生命を維持するために、“命”として、してはいけないことをしたのですね」
「黄龍さまのお力で、人の生き死にに関与した…」咲耶が言う。
「そうです。だから、知られるわけにはいかなかったんです。しかも、古の青龍さまも、凛のためにお力を貸して下さった。そのメンテナンス中に、翔太じいちゃんが池に落ちたものだから、今度は黄龍さまが翔太じいちゃんを助けたんです」
「なるほどね…因果は巡るというわけね」真琴が言う。
「そして、凛の娘、僕の母である麗は、誠に劣らぬ力の持ち主でした。凛の秘密をかぎつけた二条家は跡取りと麗との婚姻を約束させました。ところが麗と走馬は駆け落ちして僕が出来て…大騒ぎだったようです」
「確かに大騒ぎだったわ…」真里菜が頷いた。
「凛は、もう長くはないでしょう。神箒に西園寺華織が込めた力を使わない限り、これ以上の延命は難しい。本人がそう言っていました」
「神箒って、宝箱の中の? 今度の真大祭で使うやつ?」
ミコトが尋ねると鈴露はこくりと頷いた。
「じゃあ、使えばいいよ」ニッコリ笑うミコト。
「凛に使ったら、真大祭には使えなくなる」
「もう一本作ればいいよ。元々の神箒だってあるんだし」
「ミコトさん! 何、のんきなこと言ってるの? 60年に一度の真大祭なのよ? 清流旅館や周囲にまつわるもろもろを流し去らないといけないって、青龍さまたちがおっしゃってるじゃない!」
「青龍さま…たち?」
一同の視線がメイに集まる。
「あ…」
「古の青龍さまが復活したのか?」
驚きメイに歩み寄る鈴露から、目を反らすメイ。
「復活ではないみたいで…」メイが小声になる。「夢遊病みたいなものらしいです。完全復活は真大祭で流すのが終わった後だって」
「古の青龍さまと話ができるんだね?」尋ねるミコト。
「ていうか…この前、頭の中にいろいろ言ってきて、ちょっと会話したくらい」
「じゃあ、今度話しかけられたら、青龍さまに言ってよ。他の神箒使いますって」
「そんなの自分で言って」
「今は言えないから…」
ミコトがうつむくと、メイは空を仰ぎ叫んだ。
「古の青龍さま!! おいでですか? ミコトさんがお話したいそうです!」
だが、特に何の反応もなく、静まり返った空。
“お願い、出てきて…!”
メイは心の底から叫んだ。
* * *




