その7
メイがせっせとグラスのセッティングをしていたところに入ってきたのは鈴露だった。
「あの、何をお手伝いしたらいいですか…」
「じゃあ、鈴露くんは、お料理の乗ったワゴンを板場から運んできてちょうだい」
深潮が笑顔で指示すると、鈴露も笑顔で応える。
「はい」
いったん大広間を後にした鈴露が、ワゴンと共に戻って来た時、ちょうど目の前には史緒がいた。
まるで何事もなかったかのように鈴露に笑顔を向ける史緒。
「まったく深潮ったら、今から娘の御主人をこき使うだなんて…」
「目を合わせると、史緒おばさまも何か頼まれますよ」小声で言う鈴露。「紗由ばあちゃんの亡霊には特に注意です」
言っているそばから、メイが史緒に声を掛ける。
「史緒おばさま! おしぼりの準備お願いします!」
「紗由ちゃ……びっくりしましたわ。メイちゃんですのね…」
「似てますよね」
「ええ。人使いの荒いところまでそっくりですわ」
史緒は鈴露に微笑むと、小走りにメイの元へ向かった。
* * *
大広間には総勢20人が集まっていた。
西園寺龍と奏子、四辻翼と真里菜、久我大地と史緒、西園寺聖人と咲耶、花巻充と真琴、高橋悠斗と華音とメイと走馬、一条麗と鈴露、高橋駆と深潮と祭とミコトだ。
そして、上座には5つの席が空いている。
翔太と紗由、そして、一条家の立場上、走馬と麗を祝うために同席するのは憚られると考えた凛と、鈴露の義理の両親の席だった。
メイの提案で急きょ、しつらえられていた。
「さっきみんなで撮った写真でも置いてみる?」
空席を見ながら言う真琴に、聖人が言う。
「それだと凛くん、故人みたいになっちゃうよ」
「そうねえ。出雲さんたちはお若いからともかく、凛くんは、シャレにならないわねえ」
ケラケラ笑う真琴の横で大きく咳払いする充。
「ねえ、まりりん」真里菜の横に座っていた奏子が囁く。「ちょっと地味じゃないかしら、普通のお食事会みたいで」
「普通で終わらせると思う?」ふふふと笑う真里菜。
「何か仕込んであるのね。さすがはまりりん」奏子もふふふと笑う。
「それにしても、メイちゃんとミコトにはびっくりだわ」
真里菜が、紗由の着物を着たメイと、翔太の着物を着たミコトを見つめる。
「若い頃の二人にそっくりね…」少し涙声の奏子。
「主賓たちには申し訳ないんだけど、そっちに目が行っちゃうわ」
「いいんじゃないかな」大地が話に加わる。「主賓たちは、そのほうが気が楽かもしれないよ。すべてが解決しているわけではないからねえ」
「まあ、何とかなるよ」翼も言う。「と言うか、メイちゃんがガンガン何とかしてくれそうだ」
皆が笑顔に包まれた時、龍の挨拶が始まった。
* * *
たわいのない会話が続く軽い食事の後、真里菜の誘導で、一同は清流旅館裏手の丘に出た。
ヘリコプターが止まる場所でもある。
翔太の祖父、飛呂之の時代に、この丘と、それに続く山のいくつかは清流旅館で所有していた。
「では、これから…」
真里菜がコホンと咳をし、一同を見回すとアナウンスを始めた。
「花火大会を開催いたします。テーブルも3つほどご用意しました。クジに従って御着席ください」
「まあ…懐かしいですわ」嬉しそうに史緒が言う。
「ああ。幼稚園の頃、史緒嬢は紗由姫の隣に座りましたねえ」充も感慨深そうに言う。
「ええ。あの時、お習字スパイとして探偵事務所に勧誘されましたの」
「そうそう。あの後、京都の子たちに怒られたわよね」奏子が笑う。「史緒ちゃんに馴れ馴れしい、無礼だ、けしからんて」
「恐縮です…」
恥ずかし気な史緒に一同が笑う。
皆はクジを引き、それぞれのテーブルに着いた。
ひとつのテーブルには、真琴、鈴露の父・走馬、母・麗、駆、翼、大地、奏子が座る。
「それにしても、このライティングまでこんな短時間で用意するだなんて、さすがは久我コンツェルンねえ」感心する真琴。
テーブルの周りには、まるで絵画のように彩られたライトが灯され、生演奏のピアノとバイオリンまで用意されている。
「こんな華やかな場に座する機会がないので緊張します」
鈴露の父、走馬が言うと、その横に座った鈴露の母の麗が何度も頷く。
「クジなのに隣になっちゃうのねえ、お二人は」笑う真琴。
「これまでの分も、ご一緒でいただかないと」
奏子の言葉に皆が微笑み、頷いた。
「それでは、花火大会を始めます!」
真里菜が宣言した時、鈴露が手を上げ、立ち上がった。
「すみません、真里菜おばさま。その前に、聞いていただきたいことがあります!」
震える声で告げる鈴露をに、一同に緊張が走った。
* * *




