その6
「ミコトさん!」
叫ぶメイ。そして皆の視線が、目を覚ましたミコトに移る。
「あれ…俺…?」
「気分はどうだ?」龍が尋ねると、ミコトは目をぱちくりさせる。
「はい…あ…青龍さまが消えた…」
「青龍さまとお話、出来なくなったの?」
メイが駆け寄り尋ねると、ミコトは頷いた。
「じいちゃんと、ばあちゃんも、いなくなった…」
すがるような目でメイを見るミコト。
「大丈夫。私があなたを開くから。元通りにするから。翔太さんと紗由さんの声もまた聴けるようにするから」
「また…聞けるの?」
「ええ。そのために、私はここで女将修行をするわ」
メイはニッコリと笑って、ミコトの手を握った。
* * *
池をぼんやりと見つめるメイに鈴露は尋ねた。
「何か方策があるわけ?」
驚いて振り向くメイ。
「言ったでしょ。女将修行するって」
「一緒にいれば力を開けるとでも?」
「遠くにいてもできるなら、アメリカから呼び戻されたりしないわよね?」
「…まあね」
「じゃあ、ここは共闘しましょうよ」
「共闘?」
「鈴露には…というか一条には、別の目的があるんでしょう? ミコトさんを開くのは、古の青龍さまを復活させるためだけじゃない」
「イエスと言うと思ってるのか」
「史緒おばさまや龍おじさまの態度からすると、あなたには今、味方がいない」
「決めつけるのは悪い癖だな」
「図星ってことね。なぜ、俺には祭がいるって言えないの?」
「……」
「ねえ。私って紗由さんに似てる?」
「ばあちゃんに?…」考え込む鈴露。「ガンガン前に進む感じとか、気が強いところとか、でも情にもろいところとか…似てるな。まあ、顔はな、西園寺の鼻筋はわかりやすいかな」
「それが女将修行の答えかなと思ったりして」池から飛び出すカエルを見つめるメイ。
「どういうこと?」
「ミコトさんは清流旅館が大好き。遠距離恋愛の恋人みたいなものだと思うの」
「…一理あるな」
「そして、ミコトさんにとっての清流旅館とは、まさしく翔太さんと紗由さんだった。そこからすぐにご両親、というふうに切り替えられていないと思うの」
「まあ、みんなそうだろう。おそらく駆おじさんと深潮おばさんもだ」
「だからね、しばらく、翔太&紗由ごっこを、ミコトさんとしてみようと思うの」
「ミコトにじいちゃんの仕事をさせるのか?」
「そう。お着物でお客様を迎えたり、庭師の格好で庭を整えたり、影童さまたちのお手入れをしたり…」楽しそうに笑うメイ。
「その情報、どこでゲットしたの」
「ミコトさんがしてた小さい頃の話にもあったし、あとはさっきの本の山。ミコトさんが蝶に襲われてたあれ」
「おまえも読んでたのか、あれ全部」
「いいえ。私が読んだのは、お二人が大学生だったころの話を2冊だけよ。でも…」
「でも?」警戒気味に尋ねる鈴露。
「頭の隅に入ってるの。記憶が置かれていったというか」
「その手のものが受け取れるというのは、おまえがかなり開いているということになる」
「一瞬、私もそう思ったんだけどね、それって私の側の力じゃなくて、記憶を置いた側の力じゃないかしら」
「ミコトが置いたと?」
「おばあちゃまは、そういう言い方をしてたけど、違うと思うの」
「俺が疑われてるのか?」
「…疑うという単語を使うということは、 “命”のルールの中では、あまりよろしくないことなのね。他人に能力を置く、つまり預ける、封じ込めるということは」
「もう行かなきゃ」
鈴露は、メイから目を反らし、清流旅館へと戻ろうとした。
「青龍さまと同じ反応」
メイは笑い出したが、鈴露は振り向かずに進んでいく。
「ミコトさんの力をさっきの時点まで戻すのは共通の目的だわ。そこまでは協力し合いましょう!」
大声で叫ぶメイに、鈴露は右手を上げ、軽く振った。
* * *
史緒と鈴露の一件で、ダブル挙式の話はどうなるものかと心配していた面々。
だが、龍と翼から、まるで何事もなかったかのように、今夜はそれらの打ち合わせもかねて、大広間で全員そろって食事との通達があった。
駆、深潮、祭の3人は、てきぱきと食器類のセッティングを進める中、メイが着物姿で現れた。
「ばあちゃん!」
祭の声に振り向く駆と深潮。
「…なわけないです。えっと、でも…その着物…」
「真里菜おばさまが、紗由さんからいただいたお着物、着せてもらったの。セッティング、お手伝いしますね」
「ありがとう…」そう言いながら、驚きを隠せない駆と深潮。
「すみません、突然こんな格好で」頭を深く下げるメイ。「でも私、ミコトさんに、もっともっと紗由さんや翔太さんを感じてもらいたくて…」
メイの意図を理解した3人は、大きく頷いた。
「じゃあ、メイちゃん。向こうのテーブルのグラスをお願い」
「わかりました」
歩き出すメイの後姿を見ながら、3人は思った。
“所作まで似てる…”
3人は思わず笑いだした。
* * *




