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その2

「おにいちゃん!」

 祭は倒れたミコトをうつぶせに抱きかかえ、背中をバンバン叩く。

「飲んじゃダメ! 吐いて!」

 祭は背中を叩き続けるが、ミコトの体に変化は起こらない。


 メイは、ミコトに駆け寄り、うつぶせになっている頭を少し持ち上げると、自分の指を口に突っ込んだ。

「ぐへっ」

 その瞬間、蝶の大群がミコトの口から竜巻のように出てきて、天へと舞い上り、消えた。

 咳き込みながら、意識を取り戻すミコト。


「俺…」

「しゃべらなくていい」

 鈴露はミコトをそっと仰向けに寝かせると、眉間と胸に手を置き、謡のような何かを唱え始めた。

 祭もすぐに、それに合わせるように言葉を口にする。

 それに呼応するかのように、寝息を立て始めるミコト。

 鈴露と祭の謡が終わったかと思った瞬間、ミコトを包むオーラが現れた。


「何? この卵みたいなの」

驚くメイに鈴露は言う。

「ミスマルノタマ」

「え?」

「言霊による治療で出現する異次元空間だ」

「はあ」

 首を傾げたままミコトを見つめるメイに、鈴露が笑い出す。


「それにしても、指を突っ込むとはなあ」

「だって、吐かせなくちゃいけなかったんでしょ?」

「ありがとう、メイちゃん。指…汚しちゃったわね。ごめんなさい」

 祭はポケットからハンカチを取り出し、メイの指を拭いた。

「だ、だいじょうぶよ。それより結婚式…」


「ミコトがこの状態だと、今日は無理だろう。張り切ってるおばさま方には悪いが」

 鈴露が言うと、むくっと起きるミコト。

「俺…」

「ミコト!?」

「あれ…俺…本を…」卵に入ったまま、喋り出すミコト。

「全部自分の中に入れようとしていたから、止めた」


「ねえ。さっきの蝶って本だったの?」さらに首を傾げるメイ。

「外部記憶装置のようなものなの」祭が説明する。「いったん、蝶に、本の中身を覚えさせて、それを飲むことで自分のものにしようとしたのよ、おにいちゃんは」

「ミコトさん、そんなこと出来るの? もう十分開いてるってことじゃないの?」

「それ以前の問題だ」

「どういうこと?」


「蝶を扱うことは、メイ、おまえでもやろうと思えば出来るよ」

「えー? 虫が体に入るなんてイヤよ」

「そういう問題じゃなくて」笑う鈴露。「入れるだけなら、ある程度の能力者だったらできるんだよ。だけど、それを飼いならしたり、体外へ排出したり、処分したり、そういうことができない」


「ふうん。飼いならし方って誰が教えてくれるの? どこの一門の得意技なの?」

「基本は…石だ。一条と四辻。だが、写の一門にも出来るだろう」

「じゃあ、西園寺…」

 メイが言いかけると、ミコトが口を開く。

「本を全部自分のものにできれば、先に進めるんじゃないかと思ったんだ…」

 卵のようなオーラはミコトの意識と反比例するかのように、薄くなっていく。


「ミコトさん!」

「おにいちゃん!」

「…大丈夫そうだな」

「よかった…」ため息をつくメイ。「でも、ミコトさん、本を全部自分のものになんて、する必要ないと思うわ」

「え?」

 ミコトだけでなく、鈴露と祭もメイを見つめる。


「むしろ情報は捨てたほうがいいと思うの」

「捨てる?」

「西園寺や清流旅館のことをいろいろと知れて、うれしかったのはわかるわ。でも、情報が多すぎて整理し切れなかったら、答えにはたどりつかない」

「確かにそうだが…」

「それに、ミコトさんが危険な目に遭ったら元も子もないじゃない。何か…そういう方向に引っ張られているようで…」


「メイは誰かが誘導していると思ってるんだな」

「ええ。でも、そもそも、本を出して来たのは若青龍さまなのよね…」

「青龍さまが、なぜおにいちゃんを危険な目に?」

「試験に危険はつきものだってこと、『青龍之巻』2冊にも書いてあったし」

「待てよ、メイ」苦笑いする鈴露。「ミコトに何かあったら、いちばん困るのは青龍さまだろ。真大祭ができなくなるんだぞ」


「今回ご宣託通りの形にできなくても、次回できればいいかもしれないわ。ご宣託には日時を書いてあるわけじゃないんだから」

「メイ…まさかおまえ、投げ出すつもりじゃないだろうな」

 鈴露がメイを睨む。

「いいえ。ミコトさんを開くと言った以上、ちゃんと開くわ。だけど、ミコトさんの命をかけてまでやるようなことじゃないって言いたいの」


 立ち上がり、両手を腰にやり、鈴露を睨み返すメイ。

「どうしても早急に何とかしたいんだったら、日本で一二を争う“命”である黄龍の若宮さまが何とかすればよろしいわ。西園寺一派は“命”システムから抜けたわけだし、グルーピングが違うから一条は手が出せないというルールはなくなったのよね?」

「それはそうだが…」唇をかむ鈴露。

「それとも、一条には最初から手が出せない理由が他にあるわけ?」


 メイと鈴露がにらみ合ったその時、ミコトがつぶやいた。

「ねえ…蝶たち、大広間で暴れてる…」


  *  *  *


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