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その18

「それは…」

 龍は、ミコトが差し出した本を手に取り、懐かしそうに眺めた。

「『神様のお守りも楽じゃないわと彼女は言った~西園寺命記 玖ノ巻~』です。今、僕の手元にある、華織さんが登場する小説の最終巻」


「疑問というのは?」

「『玖ノ巻』の最後に、華織さんが言うんです。青龍様が今宵誕生なさるって。

 でも、『紗由・翔太之巻』を読むと、若青龍様がお生まれになったのは、じいちゃんとばあちゃんが大学生の時です。一条誠さんが井戸に入って時間をかき混ぜた?…と思われる時」

「どちらかが間違っているのかしら。それとも…」メイが考え込む。

「何か起きたんでしょうか?」真面目な表情で尋ねるミコト。


 龍は深いため息をつく。

「玖ノ巻の最後にあるだろう。まりりんの祖父の時代の久永社で、ベイビーサーチャーズという雑誌企画があった。

 かわいい赤ちゃんたち…凛くんとか、咲耶ちゃんとか、まりりんの従弟の星也くんとか、悠斗くんの弟の大斗くん。

 彼らがオシャレな洋服を探検していくという動画を撮って、洋服を売るというものだった。

 その動画の撮影中に問題が起きたんだよ。華織おばあさまが予知したが、いろいろ重なって…その経緯はここに書かれている」


 龍は一冊の本を取り出し、ミコトに差し出した。

「『神様のお守りも楽じゃないわと彼女は言った~西園寺命記 拾ノ巻~』…これって続き?」

「ああ、そうだ」

「私も読みたいです!」メイがのぞき込む。

「うん。メイさんも読んで。えーと、青龍さまに、もう一冊もらう?」

「そうね。それがいいわ!」

“我は本屋ではない…”

「じゃあ自分でコピーします」ふくれっ面になるメイ。


 メイを見て、小さく笑いながら龍が言う。

「そして問題は…清流旅館側に関して、おばあさまの宣託をどう解釈し、どう実践していくかだ」

「あの…もう、ミコトさんの力は開いているというか、獣神様たちの存在を察知できるわけですし、意思の疎通も図れると思いますし…大丈夫なのでは?」メイが龍を見る。

「それが“力”だと思ってるんだね、メイちゃんは」

「私は…それ以外の力を知りません」


「真大祭に必要な力は何なのか…なんだよ」

「一年毎の赤子流怒ではなく、4年毎の赤子流怒大祭でもなく、60年に一度の赤子流怒真大祭に必要な事柄は別。そういうことですね?」

「よく考えてみろ。龍神様のお力を引き出すことが目的なら、私で十分だ。旅館の跡取りでなくてもかまなわい」

「おっしゃる通りです」

「だとすれば、真大祭ならではの特別な意味と役割は?」

 しばし考えるミコト。

「清流旅館の御役目は…清らな流れに乗せて不要なものを流すこと。だと思っています」


「そもそも…“流す”とは何なのか。ミコトはどう思う?」

「うーん…」

 考え込むミコトを見つめつつ、メイが言う。

「そもそも不思議なのは、この60年間、翔太さんのような方がずっと、跡取りとして、亭主としていらっしゃったのに、毎年の赤子流怒や、4年後との大祭で、徐々に流すということができなかったのだろうかということです。

 流すものって、どんだけあるんですかっていう話じゃないでしょうか」


「そうだねえ…ところでメイちゃんは、盛り塩をしたことがあるかい?」

「え? いえ…ありません。でも、お店の入り口なんかに置くと邪気を吸い取ってくれて、商売繁盛とか…鬼門でしたっけ? そういう方角に盛ると邪気が払われるんですよね」

「そう。だが、これも盛る側の力次第では要注意なんだよ」

「どういうことですか?」

「大雑把に言うとだが…吸い取る力が強すぎた場合、逆に邪気が寄ってきてしまうんだよ。助けてほしくて」


「では…翔太さんは、この60年間、そのお力ゆえに流し続けることを強いられたということですか? それって、場合によっては“命”より苦行なのでは…」

「翔太は、ただ楽しかったんだよ。清流旅館に来てくれる青龍さまだけじゃなく、迷惑な輩との交流も」

「何でですか?」納得がいかない様子のメイ。

「お客さまは、おもてなしする。それが清流旅館だからだよ」

 思いきり微笑む龍に、メイは言葉を失った。


「あ、あの…」

「えーとね、俺、思うんだけどさ」ミコトが明るく言う。「たとえば青龍さまは、じいちゃんやばあちゃんの手で浄化されるのが気持ちよかったんじゃないのかなあ」

「そうだね!」

 少し離れた席から大地が微笑む。

 うれしそうに大地に微笑み、言葉を続けるミコト。


「だって、じいちゃんとばあちゃんの手、気持ちよかったよ。

 撫でられても、コツンてされても、抱きしめられても、何しても。

 青龍さまだって、流されなくちゃいけない何かだって、きっと同じだよ」

「じゃあ、ミコトさんは翔太さんや紗由さんにならなくてはいけないっていうこと?」

「それは無理。俺は俺だから。でも真大祭までに出来る限りのサービスを考えるよ。

 そのヒントが先人の行いを学ぶことにあるのなら、俺は『拾ノ巻』を読もうと思う」


「…じゃあ私も、ミコトさんの行く道に同行させていただきます」

 メイが力強く宣言すると、一同の視線がメイに集まる。

 その一同に向かってミコトは力強く微笑むと、きっちりと頭を下げた。


青龍之巻 その3 終 続いて 拾之巻 その1へ


  *  *  *



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