その17
「“赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じる。これぞ二つの命の理。悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”……私、この意味、解けました!」
自信満々なメイにミコトが言う。
「じゃあ、聞かせて」
メイはコホンと咳をして説明を始めた。
「“赤の子”は祭ちゃんのお腹の赤ちゃんのこと。
赤ちゃんが、黄龍さまの子である“龍の子”凛おじさまを開き、その中を、両親である鈴露と祭ちゃんとで、神箒の力で治癒する。
その後、もう一人の“龍の子”鈴露が、赤ちゃんを閉じる、つまり通常の状態に戻す。
凛おじさまと鈴露の中にあった“悪しきもの”、AIの影響で出てきた歪みと淀みを流し去り、祭ちゃんが清流旅館の娘として本来の力、清い流れを作る力を発揮して、役目が終わる。
それが“真の祭は己が役目を終える”。…どう?」
「面白そうな話をしているね」龍が正面の席から話に加わる。
「いかがでしょう。私の解釈」
「一条家側の問題はそれで正解だね」
「一条家側の問題…?」
「残るは、清流旅館側の解釈だ」
「…はい」肩を落とすメイ。
「がっかりすることないよ。メイさんのおかげで半分は確実に解けたんだから」ミコトがメイの手を取る。
「そうだよ、メイちゃん。正解なんだから」龍が苦笑いする。「だいたい、それで全部だったら、メイちゃんもミコトも要らないことになるだろ」
「確かにそうですけど…」
「わざわざアメリカから呼び戻されて、何の役目もないほうががっかりじゃないかい?」
「そんなのひどすぎます!」
「そうだよ、おじさん。好きな男の言葉に従って帰国して、わけのわからない役目をさせられて、それでも頑張れるのは、誰かを救いたいという純粋な気持ちからだよ?
それなのに来た意味ないなんて、俺だったら、鈴露の髪、全部むしってアメリカに帰るよ!」
「かんべんして…」ミコトの隣でつぶやく鈴露。
「ああ…鈴露に対する気持ちの件はもう大丈夫」メイが微笑む。「鈴露は祭ちゃんにはものすごく誠実だけど、私には違ってた。もう、どうでもいいわ」
「え? じゃあメイちゃん、さっきの西園寺の“命”になれっていうのは、冗談じゃなくて…」
「さあ、どうかしら」妖艶に微笑むメイ。
「あの…おにいちゃんをもてあそぶとかは、勘弁ね。おにいちゃん、素直って言うか、こういう人だし…」
「俺、女の人にもてあそばれたことないから、そういう経験もありだよ!」
ニコニコ顔のミコトの傍らで、深くため息をつく祭。
「ミコトの女性運はともかく、メイちゃんのさっきの推理には、かなり鋭い部分がひとつある」
「龍おじさまから見て鋭いだなんて光栄です」微笑むメイ。
「それって何なんです?」ミコトも興味深げだ。
「“AIの影響で出てきた歪みと淀みを流し去る”、これは大きなテーマだった」
「すごいね、メイさん!」
「鈴露くんの力の不安定さの原因はそれだと紗由は感じていた。いずれ、凛くんと同じようなことにもなりかねないと」
「紗由ばあちゃんが?…」驚く鈴露。
「ああ。紗由の“女のカン”は幼稚園の頃から大当たりなんでね。侮れないんだ」昔を思い出してフッと笑う龍。
「ありがたいことです…」うつむく鈴露。「僕が8歳の頃、伊勢でじいちゃんと、ばあちゃんと祭に出会ったのは、何よりも幸せなことだったんだ」
「泣くなよ、鈴露。お兄様の命令だ。ここはめでたい席なんだぞ、お前と祭。走馬さんと麗さんの」
「…ああ」
「でも、龍おじさま」メイが言う。「AIの影響って、麗さんにはなかったんですか?」
「あっただろうね。ただ、出産したことで流れ出たと我々は見ている」
「よかった…かあさんが無事で…」
小さい声でつぶやく鈴露の頭を無言でくしゃくしゃとなでるミコト。
離れた席の人たちも、皆、ミコトたちの会話に聞き入っていた。
そこに走馬が笙の音を流し出す。
「うわあ…やっぱり、すごいなあ、この曲」うっとりと聞くミコト。
「走馬くんは、音による癒しの才に恵まれたんだね」
「でも…」ミコトが首を傾げる「“すずらんは朝露に麗しく”って曲が、朝露に光る鈴蘭から鈴露っていう名前にしたんだとしたら、一歩間違うと大変なことになってるよね」
「大変なこと?」
「氷点下10度の朝で、朝露が結露してたら、鈴露は“結露”になってたかもでしょ」
「…勘弁してくれよ」泣きそうな顔になる鈴露。
「泣かないでください、結露さま」
真面目な顔で言う祭に、一同が笑い出す。
「あとは、真大祭を残すのみだな」
龍が感慨深げに言うと、ミコトが龍を見つめた。
「そうだ…龍おじさん、疑問がまだ残ってるんですけど。多分、かなり大切なことです」
「…何だい?」
「若青龍さまの誕生に関する矛盾に関してです」
ミコトは、リュックの中から一冊の本を取り出した。
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