その15
ミコトは鈴露と目を合わせるとニッコリ笑った。
「俺もおじさんになるのかあ」
「どういうこと?」
「祭…おまえ、自分の体のことだぞ。わからなかったのか?」
「まさか…」自分のお腹を両手で覆う祭。
「本当に…?」恐る恐る祭のお腹に手を伸ばす鈴露。
「おお……そうか……ひ孫が出来るんだな……」
凛も手を伸ばすと、部屋にいた面々から拍手が起こる。
「凛くん、死んでる場合じゃなくなったな」龍が言う。
「早めにお式をしたほうがいいですわね」史緒がうれしそうに言う。「お腹が大きくなってからだと大変ですわ」
「おばあさま…」祭もうれしそうに微笑み返す。
「ところでミコト」史緒がミコトを見つめる。「あなた、いつからピカピカが…?」
「つい、さっき。凛おじさんの周りの空気の色っていうか…それが段々明るくなってきてて…横にいた祭を見たら、お腹に別の色があって…」
「昔を思い出すよ」龍がしみじみ述べる。「まーくんと、まこが玲香ちゃんのお腹にいた時、翔太がおなかにピカピカが二つあるのを見つけてた」
「そうそう。私、お腹の中から翔にいちゃんにご挨拶したわ」
真琴が言うと、聖人が応じる。
「ということは、祭ちゃんのお腹の中から、赤ちゃんがご挨拶してるかもしれないね」
「にゃ~ん」聖人に同意する、ゲージの中のびゃっこちゃん。
よくよく見ると、ゲージの隅になぜかカメがいる。
「そうだ!」
「ど、どうしたの、ミコトさん」
「赤ちゃんに教えてもらえばいいんじゃないかな、神箒の使い方」
「はい?」
「赤ちゃんだけじゃ難しいかなあ…じゃあさ、親子3人でやるのはどうだろう。鈴露と祭と赤ちゃんで、凛おじいちゃんを元気にしてあげるんだよ」
「とてもいいアイデアだわ、ミコトさん」
「華音さんのお墨付きいただけたら安心だ」
「でも神箒はミコトさんが使わないといけないんじゃ…」
“もう使っておるから大丈夫じゃ”
「若青龍さま!」声に反応するメイ。
「こんにちは!」目の前を見上げるミコト。
「ミコトさんには姿が見えるのね…でも、神箒を使ってるっていうのは…」
“儀式で使う前の、しつらえも、使う過程のひとつ”
「じゃあ、その後、他の人間が作業…というか儀式の手伝いをするのはOKなんですね?」
「そうだよ、メイちゃん」龍が答える。「元々、赤子流怒の時には、清流旅館亭主がしつられた神箒を使って、継承者たちと共に舞うわけだからね」
「あのー、そもそも論になるんですけど…」メイが尋ねる。「“命”たちが脱退して、伊勢と関係なくなったら、巫女寄せ宿としての清流旅館は、跡継ぎを届け出たりしなくても、実は勝手に決めていいってことですか?」
「青龍さまが承諾なされば、それでいい」
「でも、ミコトさんが八代目になったら、駆おじさまの立場は?」
「私はさっき言ったよね」龍が微笑む。「神箒は、亭主や継承者以外の人間が勝手に使ってよいものではないと」
「つまり…ミコトさんは、九代目予定者として神箒を使っていいんですね」
「そういうことになる…まあ、ミコトが八代目でも困らないんだがな。駆は元々…」
「あなた」奏子が口を挟む。「今は、それより…」
「そうだった。神箒が先だ」
「おにいちゃん…私、どうすれば…」お腹をさすりながら問う祭。
「そうだなあ…」しばし考えるミコト。「ウエディングケーキの入刀みたいに、鈴露と二人で神箒を持って、凛おじさんをはらってみて」
戸惑いながらも、ミコトが言う通りにする鈴露と祭。
何度か払う動作を繰り返すと、凛と鈴露が苦しそうな顔になってくる。
「おじさま!…鈴露さま!」
手を止めようとする祭に鈴露が言う。
「続けるんだ…」
脂汗をかきながら、神箒を使い続ける鈴露。
しばらくすると、凛の口から黒いもやもやしたものが出てくる。
それに呼応するかのように、龍、翼、大地、充が立ち上がって四方に散り、中心にいる凛に向かって右手を伸ばした。
「結界?」
メイがびっくりすると、真里菜が言う。
「かなりの大きさね」
“さて、一仕事とまいろう”
青龍が、龍の背後に立ち昇るように姿を現した。
すると、凛の口から吐き出されるものが、青龍に巻き付いていく。
「あの時と同じ! 青龍さまが吸い付けてる!」
「うう…」
その時、鈴露がさらに苦しそうに顔を歪め、その口からは、凛と同じように黒いもやもやしたものが出てきた。
「鈴露さま!」再び祭の手が止まりそうになる。
「祭! 止めるな!」
ミコトの声にハッとする祭。
神箒を握っているのもやっとという様子の鈴露の手の上から箒を掴み、さらに払い続ける。
鈴露が吐き出したものも、青龍の体に巻き付いていく。
そして、咲耶がびゃっこちゃんのゲージを開けると、びゃっこちゃんとカメがゲージから出て、白虎と玄武へと姿を変えた。
白虎が青龍に近づき、大きく口を開け吠えると、青龍に巻き付いていた黒いもやもやがふわりと離れる。
そこをすかさず、吸い込む白虎。口の中でむしゃむしゃとかみ砕き、次から次へと、その残骸を吐き出していく。
「黒いもやもやの粉末…?」シュールな光景に目をぱちくりさせるメイ。
その時、華音が立ち上がり、右手を天に向けて伸ばす。
「朱雀さま…! ご降臨下さいませ!」
現れた朱雀は白虎が吐き出した粉末を羽で集め寄せる。一瞬で燃え上がる粉末。
最後に玄武が、太い足で炎を踏み消し、さらにその灰を踏み固めていく。
「黄龍さま…」
凛と鈴露は二人で同時につぶやくと、意識を失った。
「おじさま! 鈴露さま!」
すぐさま駆け寄る龍。
「…凛くんんは大丈夫だ…だが…鈴露くんが…」
その言葉に、一同に緊張が走った。
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