その13
落ち着かない様子で時折祭壇を見つめる龍をよそに、メイは、赤の子と龍の子についての推理を続ける…と思いきや、ため息を付き、小さい声で言った。
「…すみません。この先がわかりません」
「じゃあ、俺も推理してみていいかな?」
「聞きたいわ、ミコトさんの意見」ほっとした様子のメイ。
「黄龍の子、というなら、紗由ばあちゃんもそうだと思うんだ」
「紗由さんが?」
「『神様のお守りも楽じゃないわと彼女は言った~西園寺命記 陸ノ巻~』にあったんだ。
沖縄でパレードする時に、奏子おばさまは白、真里菜おばさまは赤、充おじさんは黒、恭介おじさんは青のTシャツを着てるんだ。つまり四神の色。
そしてばあちゃんの衣装の色は黄色。その上に立つ黄龍神の色」
「なるほどね…」
「…なんて言ってみたけど、そんな大げさなものじゃないと思うんだ」
「どういうこと?」
「だって、文面をそのまま受け取れば、赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じるってことは、龍の子が開いたままです、ってことでしょ。赤の子が誰だろうと、龍の子が誰なのか以外、あまり問題じゃないっていうか」
「発想の転換ね」メイが笑う。
「で、さっきメイさんが挙げた龍の子候補で存命中なのは…凛おじさんと鈴露と俺。そして“二つの命の理”の、“二つの命”の解釈なんだけど…それは俺たち二人じゃないっていうのはどう?」
「ミコトさんは、誰のことだと思ってるの?」
「単純に“命”さまが二人でも成り立つよね。凛おじさんと鈴露の二人ってことでも」
「まあ、そうだけど…」どこか納得がいかない様子のメイ。
「要は、何でもいいんじゃないのかな」
「ちょ、ちょっとまって」
「俺の答えを言います!…“二つの命の理”…それは、メイさんと俺が力を合わせて、清流旅館で頑張っていくってことだと思います!」
祭壇に注意が向いていた龍がミコトを見つめた。
「…ミコト、おまえ、それ、何気にメイちゃんに嫁に来いと言ってないか?」
「来てくれたら…」恥ずかし気にうつむくミコト。「うれしいけど…メイさんは鈴露が好きだし、俺、タイプが違うから、難しいな。あはは」
「うーん。メイちゃん的にはどうなの? まあ、今すぐどうこうってことじゃないけどね」
微笑みながら龍は思った。
“なぜ私はこんな時に、お見合いの席みたいな気づかいをしているんだ…?”
“そうだな。今はそれどころではない。京都に行く。事の次第を二人に告げろ”
「青龍さま!」
突然、大声で祭壇に向かって叫ぶ龍に、びっくりするミコトとメイ。
「お、おじさん…どうしたの?」
「祭が…とんでもないことをしてくれたようだ…」
「え?」
「神箒を凛くんに献上した」
「で、でも、ミコトさんがそれでいいって言ったのでは…」
「ミコトがしたなら、まだその先に策はあった。だが…」
「じゃあ、俺が行って、俺の意思で献上します」
「わからないのか。今は亭主が不確定だ」
「伊勢の届け出的には紗由さんが八代目なんですよね?」
「ああ。そして紗由が亡くなった今、次の届け出の出されぬまま、“命”たちが脱退した。手続き上、宙ぶらりんだ。逆に…」
「特権を行使した祭ちゃんが強制的に跡取りに??」
「神箒は…当主や継承者以外の人間が好きにしてよいものではない…やがて祭が当主となるか、神箒を勝手に使った咎を受けるか、どちらかになるだろう」
「俺か父さんが祭に委任したことにすればいいのでは」
「そうです。ミコトさんは皆さんの前で、神箒使っていいよと鈴露に言ったんですから!」
「委任はできない。鈴露くんや凛くんのために神箒を使うとしても、ミコト自身が遂行しなければ」
「…今、京都なんですよね、神箒」
「ああ」
「もう、使われたってことですか」
「……」
「とにかく一条家に行きましょう。もし使われたんだとしても、俺が使い直しますから!」
「そんなの可能なの?」
「可能にするんだよ! メイさんも一緒に来て!」
ミコトは祭壇に一礼すると、部屋を飛び出した。
廊下を走る、その頭上から聞こえてくる大きな音。
「ミコトさん! ジェットが来てるわ!」
「屋上?…メイさんが呼んだの?
「いいえ」
「私よ。一緒に京都に伺おうと思って」
「おばあちゃま!」
目の前に現れたのは華音だった。後ろには悠斗の姿もある。
「気が強いだけだと思われているのもしゃくだわ。ちゃんと使えるところを見せてさしあげないと」
「華音さん…」
「お迎えありがとう、華音ちゃん」
ミコトとメイを追い越していく龍。
「一同、ジェットでお待ちかねよ。さあ、ミコトさん、参りましょう」
「はい! 行こう、メイさん!」
ミコトはメイの手を引き、足早に龍の後に従った。
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