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ーキミノイナイセカイヘー  作者: 片山水月
65/67

〜present〜背中までの距離

PM2:00―


女は買い物を済ませ帰宅した。


そして何をするよりもまず、先程購入してきたお気に入りのCDを聴く事にした。


ずっと曲名が判らず気になっていた事が1つ判明した為、やたら上機嫌だった。


女は歌詞カードを見ながら、始めてフルコーラスを聴く。



(切ないけど、こんなに人に想われたら幸せだなぁ。 shellyの『灯りの消えない部屋で』かぁ。いい曲見付けちゃったな)



女は2回繰り返して聴き終えるといつもの癖でTVの電源を入れた。


TVはいつものワイドショー。


(あっ、もぅ少ししたら幼稚園から帰ってきちゃう)


慌てて買い物してきた物を片付けだした。


その時――――。


TVから朝と同じ様に『灯りの消えない部屋で』が流れ出した。



(今日はよく流れるわねぇ)


そう思いながらフッと画面に目をやると、ワイドショーのニュースの1つだった。



「昨夜未明、人気ロックバンドshellyのボーカル、ナツ。本名、中澤夏月さんが自宅で死亡しているのが発見されました。〜」



「えっ!?」



女は自分の耳と目を疑った。


「嘘っ............ナツ!?」


(まさかっ。ね!?)



しかし、そんな都合のいい解釈は次の瞬間脆く壊された。



TVに映し出されたのは、かつて愛した人。


いや、今でも愛している人だった。







「いや―――――――――――――――――――――っっっっっっっ!!!!!!!!」







女はこの曲が自分の為に創られたのだと一瞬で解った。



そして、その場に崩れ落ちた。



もぅ何も考えられず、ひたすら涙が溢れ出る。



(何で?どうして?)



同じ事ばかりが頭を駆け巡った。



(ナツ、ナツッ!ナツ!?ねぇナツゥ??) 



「ガチャ、バターン!」


「タダイマ〜。ママー!」



幼稚園から子供が帰ってきた。



「あっ、おかえり」



「ママ、何で泣いてるの??」


「ううん、何でもないわよ」



「????」



「ねぇ?」


「な〜に?」


「パパ好き?」


「うん!大好きっ」




 

子供は今の旦那の子ではなかった。


無理矢理結婚させられたミカンのせめてもの抵抗で、旦那との情事にはピルを服用していたのだ。


目の前の子は、あの夜、酔っ払ったナツとの間に出来た子だった。



そうとも知らず、旦那は我が子だと喜び育ててきた。



(この子は、一生違う人をパパと呼ぶ)



目の前で嗚咽混じりに泣く母を見て


「ママ、大丈夫?ボクが側にいるよっ!」


そう言って笑った。


その笑顔はまさしくナツそのものだった。



「ありがとう、夏希」



限りなく不純に近い純粋。


せめて、

「ナツ」と呼び続けたいとの想いから子供に夏希と名付けた。
















(何度、あの人の背中に辿り着きたいと思っただろう。)







 

その背中までの距離はやっぱり埋められないまま。







愛しさはもう、一人よがりでしかなかった。

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