rosarioー夢への軌跡
shellyは精力的にLiveを行なっていた。
回を重ねる度に、確実に増えていくオーディエンス。
それに伴い、箱も大きくなってく。
驚異的なスピードで動員数を増やし、そしてそれは都内だけに納まらず、遂には全国ツアーを行える程に成長した。
N県へ向かう車内―
「いや〜、俺らも遂に全国行脚出来るようになっちゃったね〜。」
「自分達で運転してくけどな」
「はぁ〜、サリーちゃんには感動とかってのは無いのかね〜。ナツはどうよ?」
「あ、うん。何!?」
「あれあれ〜、なっちゃんは浸り過ぎて人の話も聞いてねぇし。マーサぁ、俺の相手してくれよ〜」
ナツは一人車内で物思いにフケっている。
(ここに来るまで1年も掛かった。1日も早くあの歌を唄いたい)
1年前に完成した
『灯りの消えない部屋で』
まだ一度もLiveで演奏していなかった。
(聴かせたいのは客じゃない)
その想いからある機会まで未発表にすることになっていた。
それからまた1年―
音楽雑誌にも度々取り上げられ、シーンでの注目度はあがり、インディーズオリコンチャートでは必ず上位に顔を出すまでになった。
(もぅ少し)
ナツの念願が手の届く所まで近づいてきた。
ある日―
バイトも休みで部屋の中で南、サクラ、コヤジの写真を眺めるナツ。
「お前らの事は忘れてる訳じゃねぇよ。ただチョットだけミカンの存在がでかいだけで。。。。だってアイツは生きてんだからさぁ」
その時、ナツの電話が鳴りだした。
「ナツ!?サプライズだっ!!」
「何慌ててんの?アユム」
「決まったぞ、メジャー」
「マジかよっ!?」
(やっと唄える、やっと聴かせられんだ)
ナツはアユムの電話も忘れ、年甲斐もなく叫んだ。
「シャー!!」
少し開いた窓から、少し冷たい夏の終わりの秋風が吹き込み、3枚の写真を床に運ぶ。
写真に写る、ナツにとって大切だった3人。
まるでナツを見守るかのように柔らかい表情で写っていた。