〜rosario〜翼の無い天使(アンヘル)
ー最終章ー
規則だらけで不自由な生活。
毎日は単調で、時間だけが有り余る程ある。
しかし、ナツにとっては有り難くもある。
美し過ぎる空を見て、傷付けたいと思う衝動。
そこにあるパラドックス[逆説]
腐りきっていると思う自分に、まだ美しい物を美しいと思える心が在る。
腐った身体を浄化させるには時間が必要だった。
免業日には、朝から本を読み、勉強に励み人並みに追い付きたいと必死にもがいた。
そして、就寝になると将来を考え、過去を見つめ、欠かさずミカンを想った。
ある日―
本を読んでいたナツの目に止まった、あるセリフ。
To be or not to be
[やるかやらないか]
脳みそを殴られた気がした。
日々、将来を模索しながら、でも答えなんて出てこなくて、焦りだけが先走っていた時だった。
(一度きりの人生だ。やりたい事をやればいい)
ナツの心が定まった。
(やっぱ詩を唄いたい。言葉で人にミカンに魅せたい)
それから毎日、ひたすら歌詩を書き続けた。
(パントマイムな人生では何も伝わらないなら、声にしなければ)
ミカンに伝えたい事が沢山あった。
せめて唄に想いを乗せて届けられるなら。
時折、沸き起こっていたタナトス[死への願望]も、それからは影を潜めた。
生きる意味を見付けたナツは笑顔も多くなり、充実した日々が過ぎた。
暦は巡り、3度目の夏に差し掛かった。
「171番、中澤、出房っ!」
朝の点呼の前、急にオヤジ[刑務官]に呼び出された。
(もしかして!?)
引き込み[出所1週間前に他の懲役と隔離される。作業もしなくてよくなる]だった。
(長かった〜)
未来に詰め込まれた煌めきが弾けださんばかりに心が躍り、それを必死に隠した。
8月11日――――出所
一度も懲罰、訓戒を受けることなく5ヶ月の仮釈放をもらい、ようやく新しい人生を踏み出した。
「お世話になりましたぁー!!」
少年のように輝いた笑顔のナツ。
24歳目前の真夏日に駆け出した。