Cageー有罪
数日後―
ナツは傷害・殺人未遂の容疑で逮捕された。
刑事の話によると、刺した相手は重体らしい。
(殺しきれなかったか)
ナツは歯痒さに奥歯を噛んだ。
何も話す気になれないナツは取り調べ中、黙秘し続けた。
48拘留[48時間]が過ぎ、10日拘留延長された。
3日目の朝、弁護士が面会に訪れた。
ナツの親に依頼された私選弁護人。
まだ若い。
場数が少ない為か、汚い所を見てない為か、高い理想と志しが窺える。
(自分の犯した真実に、何の弁護が必要なんだ?)
本当に罪を犯した罪人でさえ弁護される人間の権利。ナツは可笑しくて仕方なかった。
「さて、事件について本当の事を話して下さい」
ナツは一通りの事の流れを話した。
弁護士は話を聞いた後、殺意を否認して供述するように言った。
殺人未遂を傷害に落とし、執行猶予を取る為だ。
ナツ自身、相手の為に刑務所に行くのは(馬鹿らしい)と思い弁護士の意向に添う事にした。
取り調べでは刑事がパソコンに向かい尋問してくる。
時には蔑み
時には同情し
時には恫喝しながら誘導する。
ナツは刑事の誘導に掛からぬように、供述1つ1つの語句を考えながら、そして必要以上の事は喋らなかった。
検事調べでも同様に
「お前このままだと刑務所行くよ」
と脅されても怯まなかった。
机を蹴り、捲し立てる検事
(こいつらが冤罪を作る原因か)
そう思うとムカついたが、聞き流すのが得策だと鼻唄を唄った。
20日拘留が終わり、起訴されたナツは拘置所に移檻され裁判を待つ被告となった。
一部否認の為、弁護士以外の人間とは接見[面会]を許されず、独居房での生活が強いられる。
1人きりの1日は余りにも長過ぎた。
唯一の支えは思い出。
しかし、ナツには辛い思い出が多すぎて、追憶する日々が苦痛だった。
12月なると、部屋のなかで明晰に現れる白い吐息。
消灯時間21時
僅かな豆電球だけでは心細く、頼りない。
膝を抱え、肩をすぼめ格子で区切られた窓の外を見詰る。
四角いパズルの空でも月は美しく凛々しい。
汚れた自分がちっぽけで堪なかった。
(窓の外の人は誰も俺に気付かない)
(俺は今、この世に居ない人間なのか?)
存在理由をどうか与えて欲しかった。
「ミカン.......」
一部否認の為、裁判は長引いた。
全ての生命の息吹まで感じられそうな春が来て
全てを焼き尽くすかのように燃え盛る夏が過ぎ
全てに淋しさを組み込まれた哀愁の秋が終わり
全て無に帰すかのようなまっさらな冬がまた巡った。
十数回に渡る裁判の中で、ナツは一度だけ法廷でキレた。
それは今迄してきた事を無にする言動だった。
裁判は弁護士と検事が主に発言し、当事者のナツはそれを黙って聞くだけだ。
罪人を必死で庇う弁護人
何が何でも有罪にしたい検事
何を考えてるか判らない裁判官
偽善と美辞麗句の応酬の裏では3人の予めのディール[取引]がある。
裁判という舞台で繰り広げられる、笑えない茶番劇。
全ては出来レース。
八百長だらけの世の中で腐ってない所を見つける方が困難だ。
あまりの醜さに
「お前らうるせえー!!よく聞けよ。俺はアイツを殺す為に行ったんだよっ!殺意はありました。これが真実だ。」
騒然となった法廷でナツは退廷を命じられた。
(もぅ、好きにしてくれ)
あれから3ヶ月ようやく、審理は結審され決まった流で判決日になった。
検察側
求刑――――6年の懲役
判決
「主文。殺人未遂及び傷害の罪で被告人、中澤夏月を懲役3年の刑に処する」
被害者の罪と情状酌量が認められた結果だった。
中澤 夏月
21歳
懲役――――――3年
1月28日
YB(少年累犯)刑務所 収監
ナツに与えられた罰
鳥かごからはまだ羽ばたく事が出来ないでいた。