表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ーキミノイナイセカイヘー  作者: 片山水月
60/67

Cageー有罪

数日後―


ナツは傷害・殺人未遂の容疑で逮捕された。


刑事の話によると、刺した相手は重体らしい。


(殺しきれなかったか)

ナツは歯痒さに奥歯を噛んだ。



何も話す気になれないナツは取り調べ中、黙秘し続けた。


48拘留[48時間]が過ぎ、10日拘留延長された。




3日目の朝、弁護士が面会に訪れた。


ナツの親に依頼された私選弁護人。


まだ若い。

場数が少ない為か、汚い所を見てない為か、高い理想と志しが窺える。


(自分の犯した真実に、何の弁護が必要なんだ?)


本当に罪を犯した罪人でさえ弁護される人間の権利。ナツは可笑しくて仕方なかった。



「さて、事件について本当の事を話して下さい」


ナツは一通りの事の流れを話した。


弁護士は話を聞いた後、殺意を否認して供述するように言った。


殺人未遂を傷害に落とし、執行猶予を取る為だ。


ナツ自身、相手の為に刑務所に行くのは(馬鹿らしい)と思い弁護士の意向に添う事にした。



取り調べでは刑事がパソコンに向かい尋問してくる。


時には蔑み

時には同情し

時には恫喝しながら誘導する。


ナツは刑事の誘導に掛からぬように、供述1つ1つの語句を考えながら、そして必要以上の事は喋らなかった。



検事調べでも同様に

「お前このままだと刑務所行くよ」

と脅されても怯まなかった。


机を蹴り、捲し立てる検事



(こいつらが冤罪を作る原因か)


そう思うとムカついたが、聞き流すのが得策だと鼻唄を唄った。






20日拘留が終わり、起訴されたナツは拘置所に移檻され裁判を待つ被告となった。


一部否認の為、弁護士以外の人間とは接見[面会]を許されず、独居房での生活が強いられる。


1人きりの1日は余りにも長過ぎた。


唯一の支えは思い出。


しかし、ナツには辛い思い出が多すぎて、追憶する日々が苦痛だった。



12月なると、部屋のなかで明晰に現れる白い吐息。


消灯時間21時


僅かな豆電球だけでは心細く、頼りない。


膝を抱え、肩をすぼめ格子で区切られた窓の外を見詰る。


四角いパズルの空でも月は美しく凛々しい。


汚れた自分がちっぽけで堪なかった。


(窓の外の人は誰も俺に気付かない)


(俺は今、この世に居ない人間なのか?)


存在理由をどうか与えて欲しかった。


「ミカン.......」









一部否認の為、裁判は長引いた。




全ての生命の息吹まで感じられそうな春が来て


全てを焼き尽くすかのように燃え盛る夏が過ぎ



全てに淋しさを組み込まれた哀愁の秋が終わり


全て無に帰すかのようなまっさらな冬がまた巡った。


十数回に渡る裁判の中で、ナツは一度だけ法廷でキレた。


それは今迄してきた事を無にする言動だった。


裁判は弁護士と検事が主に発言し、当事者のナツはそれを黙って聞くだけだ。


罪人を必死で庇う弁護人 


何が何でも有罪にしたい検事


何を考えてるか判らない裁判官



偽善と美辞麗句の応酬の裏では3人の予めのディール[取引]がある。


裁判という舞台で繰り広げられる、笑えない茶番劇。


全ては出来レース。


八百長だらけの世の中で腐ってない所を見つける方が困難だ。


あまりの醜さに


「お前らうるせえー!!よく聞けよ。俺はアイツを殺す為に行ったんだよっ!殺意はありました。これが真実だ。」



騒然となった法廷でナツは退廷を命じられた。



(もぅ、好きにしてくれ)







あれから3ヶ月ようやく、審理は結審され決まった流で判決日になった。












検察側

求刑――――6年の懲役










判決


「主文。殺人未遂及び傷害の罪で被告人、中澤夏月を懲役3年の刑に処する」


被害者の罪と情状酌量が認められた結果だった。









中澤 夏月

21歳


懲役――――――3年


1月28日

YB(少年累犯)刑務所 収監










 

ナツに与えられた罰






鳥かごからはまだ羽ばたく事が出来ないでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ