Vanillaー小指の無い男
5.4.3.2.1
「イェーイ!A Happy new year!!」
今年の正月は近くの公園でNew Typeの集会が行われている。
その時、ナツの携帯が鳴った。
着信音は仁義なきの曲。
「ウッソ、年明け早々きたよ。マジ勘弁」
着信元はチームの面倒見で、西岡というヤクザ。
「もしもし、明けましておめでとうございます。ハイ。ハイ。今は住吉神社です。分かりました。失礼します」
「何て?」
「今から来るって」
「ウソ〜、帰っていいっすかぁ」
周りからブーイングが起こったが、ナツは皆をたしなめ神社の入り口で整列して待つ事にした。
5分程して通行止めになっている道の向こうから1台の車が近づいてきた。
「来たぞ!」
皆一斉に背筋を伸ばし表情が固まる。
闇と同化していた黒のアバンギャルドが次第に鮮明になり、勢いよく滑り込んで来た。
ナツが運転席のドアを開けると中から頭が半分以上禿げ上がった男が降りてきた。
スモークがかった金縁眼鏡、金のロレックス、マオカラーのスーツ。
一見してアチラの方と判る風体。
因みに、左の小指は欠損済み。
噂では兄貴の代わりに落としたらしいが、そんな義理堅い男にはどうしても見えない。
どうせ逃げて連れ戻されてケジメをつけさせられたのがいいとこだろう。
(こんな奴の指で良かったんだろうか?親分は。鯉の餌になったのか?)
気になるトコロだ。
「おつかれさまですっ!」
一斉にカラフルな頭達が下がる。
「おう、明けまして有難さん」
西岡の言う事はいつも下らなさすぎてリアクションがとれない。
「お前ら、人がオモロい事言うたら遠慮せんと笑わんかい。ホンマつまらん奴らじゃのぉ」
「すいません」
「まぁええわぃ。それより、お前ら全員鮭としめ縄買えや。付き合いは大事にしようで。2つ併せてて15,000円。今月の会費と併せて20,000円。明後日集めて事務所持って来いや。じゃーの」
西岡は喋るだけ喋って帰って行った。
排気ガスの白い煙りだけが風に吹かれることなく辺りに静かに漂っている。
「ふざけんなよっ!くそピカチューがっ!!!」
南は相当怒っている。
ピカチューとはハゲのピカとシャブ中のコラボから産まれた西岡のニックネーム。
「知ってるか?アイツ若い時にシャブにサンポール混ぜて効かしてたからハゲたらしいゼ」
「かぁ〜、バカだねぇ」
「他にも、アイツ夜な夜な野球場にバイト行ってるらしいよ」
「ヤクザがバイトしてんの?」
「なんかナイターの照明の電球になってるらしいゼ。しかもぉ、自家発電の200ワ〜ット!」
一瞬で爆笑の渦が巻いた。
「大体、どこまでがデコよ!?」
「シャンプー要らずで、家計に優しい」
「ピシャっと頭叩きてぇ」
アチコチから日頃の鬱憤が飛び出している。
「つべこべ言っても仕方ねぇ。元旦早々荒稼ぎ行ってみっか」
ナツはどうやって稼ぐか思案し始めた。